ゲームをしたことがある人であれば、『鉄拳』の名を一度は耳にしたことがあるかもしれない。株式会社バンダイナムコエンターテインメント(以下、バンダイナムコ)によって制作・販売されている世界No.1の3D対戦格闘ゲームだ。

『鉄拳』シリーズを語るうえでは外せない、三島一八と風間仁の親子喧嘩の結末とは?

2017年には「最も長く続く3D対戦型格闘ビデオゲームシリーズ」と「最も長く続くビデオゲームの物語」の2つのギネス世界記録に認定されるなど、長きにわたる展開ゆえゲーム界におけるレジェンド的なポジションを確立している。

そんな『鉄拳』シリーズが、2024年で誕生30周年を迎える。前作『鉄拳7』は世界累計で1180万本(2024年2月現在)を売り上げ、そのうち海外のシェアが96~97%と海外に多くのファンを持つ。

バンダイナムコが主催する『TEKKEN World Tour』をはじめ、eスポーツ大会では世界中から多数のプレイヤーがエントリーし、大きな盛り上がりを見せている。2024年1月26日には最新作『鉄拳8』を発売し、ちょうど1か月後の2月26日には、前作『鉄拳7』を大幅に上回るスピードで世界累計販売本数が200万本を突破したことが報じられた。

では、『鉄拳7』から具体的にどのような点が進化したのか。また、ユーザー獲得のために施された工夫とは?

今回は、『鉄拳』プロジェクト マーケティングプロデューサー安田直矢(安田イースポーツ)さんに『鉄拳8』の開発秘話やユーザー獲得のための戦略、そしてシリーズ生誕30周年の取り組みについて話を聞いた。

■バトルコンセプトはアグレッシブな「バチバチの殴り合い」

『鉄拳』シリーズといえば、4つのボタンがキャラクターの四肢に対応する直観的な操作から繰り出す空中コンボ必殺技など、壮快感あふれるプレイングが魅力で、ストーリーモードをはじめ初心者から、上級者まで楽しめるさまざまなモードが収録されている点が人気の秘訣。昨今では、対戦格闘ゲームとしてeスポーツシーンでも存在感を発揮しているが、本作『鉄拳8』はどういったコンセプトで開発されているのだろうか。

「『鉄拳8』は、対戦格闘ゲームの枠に収まらず最高のエンターテインメント体験を提供することを命題として開発を進めてきました。その一環として、プレイヤー自身が手に汗を握るような駆け引きを繰り広げるだけでなく、それを視聴する側にも楽しんでいただけるようなゲームづくりを心掛けました。特に昨今は、eスポーツを含め広い意味で『ストリーミング文化』が広がり、“見るだけ”で楽しむ方も増えています。そういった方にも手に汗握るバトルの展開を楽しんでいただきたく、『アグレッシブ』というバトルコンセプトを掲げました」

達人同士の息詰まる差し合いのバトルも魅力的だが、『鉄拳8』では『鉄拳』というシリーズ名の通り、激しい“拳と拳のバチバチの殴り合い”を通じた最高のスリルと興奮を提供することを目指しているのだとか。

安田さんは「ド派手な殴り合いのほうが、プレイする人も見ている人もわかりやすくて熱狂しやすいですよね」と語り、新たに実装した「ヒートシステム」がこのアグレッシブという攻撃的でダイナミックなバトルコンセプトを体現していることを強調した。

■初心者も上級者も次のステップへ!新操作システム「スペシャルスタイル」

対戦格闘ゲームは特定の技を繰り出すための複雑なコマンド入力が新規プレイヤーの参入障壁を高めていると言われることも。『鉄拳』シリーズにおいては、4つのボタンがキャラクターの四肢に対応する直観的な操作性が魅力だが、代名詞と言える空中コンボテクニカルさや立ち回りの難しさが、新規プレイヤーにとっては学習のコストが高い側面もあるのだとか。

「『鉄拳』シリーズは自由度が非常に高く、1キャラクターあたり約100個くらいの技があるので、どの技をどのように練習して実際の試合で運用すれば良いか人に聞いて練習しないとわからないといった声もありました。でも我々としては、難しい知識や練習ナシで『鉄拳』シリーズのバトルの駆け引きのおもしろさを知ってほしい。それならアクションゲームのような感覚でプレイできるようにと、『十字キーボタン』の組み合わせで様々な技が繰り出せる『スペシャルスタイル』を導入することにしました」

『鉄拳』をまったくプレイしたことがない新規ユーザーはもちろん、少ないキャラクターしかやりこんでいない現行ユーザーにとっても、新たなキャラクターを試す際の敷居を下げることができるなど、あらゆるユーザーにとってさまざまな使い方ができる操作方法になっているとのこと。安田さんは「『鉄拳』らしい駆け引きを技の練習なしで体感できるというのが、スペシャルスタイルの1番の良さだと思いますし、もし可能ならこれからも進化させていきたい操作方法ですね」と意気込んだ。

■「アーケードクエスト」と「鉄拳ファイトラウンジ」でオンライン対戦への抵抗をなくす

『鉄拳8』では、前述のヒートシステムやスペシャルスタイルによって、同作ならびに対戦格闘ゲーム初心者あっても、手軽に壮快感あふれるバトルが楽しめるよう設計されている。そしてその楽しさを知った世界中に存在する『鉄拳』シリーズのユーザーたちは、日々バトルの腕を磨くべく「ランクマッチ」をはじめとする、オンライン対戦を主戦場に切磋琢磨しているのだ。

しかしながら、いくらランクマッチが同じくらいの腕前のユーザー同士でマッチングするとは言え、いざオンラインでバトルをしようとすると、どのように立ち回れば良いのかわからない人や、そもそもいきなり顔も知らないプレイヤーと対戦することに抵抗がある人も少なくないかもしれない。

そんなオンライン対戦に対する抵抗を払拭し「ストーリーモード」に代表されるオフラインモードから、各種オンラインモードへの移行をスムーズにしてくれるのが「アーケードクエスト」や「スーパーゴーストバトル」、そして「鉄拳ファイトラウンジ」だ。

「アーケードクエストは、ゲームセンターを舞台に繰り広げられるプレイヤー目線のストーリー展開に合わせて、バトルの基礎やテクニックを学習してもらえるモードです。『鉄拳』特有の立ち回りを理解し、空中コンボヒートシステムを使ったテクニックなどを楽しく学べるよう設計しているので、新規プレイヤーにも親しみやすいモードになっていると思います。『鉄拳8』だけでなく、対戦格闘ゲームというジャンルに興味を持つきっかけになればなお嬉しいですね」

「アーケードクエストの序盤をクリアすると『スーパーゴーストバトル』が解放されます。このモードでは、プレイヤーの動きを即時学習するCPU(AIゴースト)との対戦が楽しめます。自分自身のAIゴーストはもちろん、開発陣のAIゴーストとも対戦することができるので、アーケードクエストで学んだことを対人戦に近い形で気兼ねなく試せると思います」

また、アーケードクエストと同様の世界観を持つ大規模なオンラインビジュアルロビー「鉄拳ファイトラウンジ」では、世界中のプレイヤーが自身のアバターを操りコミュニケーションを楽しみながら、ゲーム筐体を囲んでバトルを楽しむことができる。

さらに、ほかのプレイヤーのゴーストをダウンロードして対戦することも可能なので、よりバリエーション豊かな疑似的な対人戦を楽しむことができるのだ。

安田さんは「個性豊かなキャラクターやストーリーモードから鉄拳に興味を持っていただいたプレイヤーのみなさんには、アーケードクエストやスーパーゴーストバトルをプレイして、少しずつ『鉄拳』の沼にハマっていただき、いずれはオンライン対戦に挑戦してもらいたいですね」と語る。

■2024年は『鉄拳』シリーズ誕生30周年!『鉄拳8』で世界をひとつに

『鉄拳』シリーズは、2024年で誕生30周年を迎える。前作『鉄拳7』の世界累計販売本数は1180万本(2024年2月現在)で、シリーズ累計では5500万本以上を売り上げている。30年のシリーズ展開を経て1月26日に最新作『鉄拳8』が発売されたわけだが、今後どのようにして対戦格闘ゲームとしての競技シーンを盛り上げていくのだろうか。

「『鉄拳』シリーズにはいくつかのシーンがありますが、そのなかでも最も規模が大きいのが競技シーンです。eスポーツという括りで語られることが多いこのシーンは、主に『大会主催者』『選手』『視聴者(観戦者)』の3つで構成されています。弊社が主催するワールドツアー『TEKKEN World Tour』では、ツアーのランキングポイントを発行する予選を誰でも開催することができる「Dojo」というシステムを開発し、世界中の『大会主催者』がワールドツアーの予選を開催しやすくして、『選手』も気軽に参加できる環境を作ることに注力してきました」

『鉄拳』の公式大会『TEKKEN World Tour』は、年間の優勝者を決めるファイナルへの進出を懸けて、全世界のプレイヤーが「ランキングポイント」を競い合う。2019年シーズンから導入された「Dojo」システムによって、コミュニティー主催の大会でもランキングポイントを獲得できるようになった。

これにより、世界各地の選手がファイナルへの道を切り拓くきっかけとなると同時に、競技シーンのすそ野を広げることに成功した。毎年、時世に合わせてレギュレーションを変更している『TEKKEN World Tour』だが、『鉄拳8』の発売後1年目となる今シーズンは、さらなる試みを展開する予定だそう。

「今シーズンは、世界ランキングとは別に、世界を15の地域に分けて地域ランキングを設けます。コミュニティー主催のDojo大会で上位に入賞すると、両方のランキングポイントを獲得できるようになります。つまり地域で強豪と名が通っているにも関わらずこれまで遠征が難しかったプレイヤーでも、ファイナル進出を目指すチャンスができるわけです。また、Dojo大会の主催者にとっては、自分が開催した大会からファイナリストを輩出する可能性があります。シリーズ30周年という節目に、『鉄拳8』の競技シーンに新たに現れる強豪たちが頂上を目指す壮大なドラマを、コミュニティーと一緒に楽しめるようなシーズンにしたいですね!」

初心者から上級者まで、幅広いプレイヤーが楽しめるコンテンツを豊富に備えた『鉄拳8』。ストーリーモードやスペシャルスタイルで気軽に遊んでみたり、アーケードクエストやスーパーゴーストバトルで練習したり、ランクマッチや「TEKKEN World Tour」にに参加してさらなる高みを目指すなど、自分だけの楽しみ方を見つけてみては?

取材・文=西脇章太(にげば企画)

『鉄拳』プロジェクト マーケティングプロデューサー安田直矢(安田イースポーツ)さん/【画像提供=バンダイナムコ】