“アイアンクロー=鉄の爪”を得意技とした実在のプロレスラー、フリッツ・フォン・エリックと息子たちの数奇な運命を描いた、A24最新作『アイアンクロー』(公開中)より、8分間の冒頭映像がYouTubeで公開されている。

【動画】映画『アイアンクロー』8分間の冒頭映像ほか

 同映画は、プロレス界の伝説にして“呪われた一家”と呼ばれたフォン・エリック・ファミリーの実話を映画化した衝撃作。監督・脚本は、カルト教団による洗脳とトラウマを描いたデビュー作『マーサ、あるいはマーシー・メイ』で絶賛を浴び、本作が長編映画3作目となるショーン・ダーキン。こどもの頃からプロレスに夢中だったというダーキン監督は、フォン・エリック・ファミリーの悲劇に衝撃を受けた一人だったという。本作では、“呪われた一家”の実話を、家族の愛情と葛藤のドラマとして再構築。プロレスにまつわる栄光と挫折を掘り下げ、植え付けられた価値観からの解放という今日的なテーマに踏み込んだ、胸の奥深くに刺さる人間ドラマに仕上げた。

 冒頭映像は、“アイアンクロー(鉄の爪)”を生み出した父フリッツ・フォン・エリック(ホルト・マッキャラニー)の現役時代から始まる。フリッツは、恵まれた体格と握力120キロとも言われる怪力を武器に、主に悪役レスラーとして活躍していた。しかし、アメリカ各地を転々としながら、世界最高峰のタイトル「NWA世界ヘビー級王座」に挑戦するも、なかなかその栄光をつかめずにいた。

 試合後、次男ケビンと三男デビッド、妻ドリスがフリッツを出迎える。無邪気に“アイアンクロー”を真似する息子を横目に、ドリスは夫と家計のことを心配していた。そんな妻に対して、フリッツは「最強のレスラーになって、大成功するしかない。誰にも頼らず、自分の力で頂点に立つ」と説き伏せる。ケビンはそんな父親の姿に憧れて、世界最強のレスラーになることを夢見ていた。

 時は流れ、大人になったケビンザック・エフロン)は「最強になれば、怖いものなし」という父の教えのもと、日々身体を鍛え、プロレスラーとして活躍していた。筋骨隆々の肉体を躍動させ、ザ・シーク(チャボ・ゲレロ・ジュニア)を責め立てるケビン。最後はフライング・ボディプレスを決め、テキサス州ヘビー級王座のチャンピオンベルトを獲得する。その後、ケビンに続いて、三男デビッド(ハリス・ディキンソン)、四男ケリー(ジェレミーアレン・ホワイト)、五男マイク(スタンリー・シモンズ)もプロレスラーになり、エリック兄弟はスターとしての地位を確立、全ては順風満帆だった。しかし、そんな栄光の日々は、突然ガラガラと音を立てて崩れ去っていく…。

■驚異的な肉体改造を行ったザック・エフロン

 本作は幼い頃に亡くなった長男を含め、5人兄弟の中で無事に“生き残った”、次男ケビンの視点で一家に起きた悲劇の数々を描いている。ケビンを演じたザック・エフロンは、『ハイスクールミュージカル』(2006年)で人気を博し、『グレイテスト・ショーマン』(17年)にも出演したこれまでの“優男”のイメージから一転、驚異の肉体改造を披露するとともに、兄弟のまとめ役である物静かで優しいケビンの誠実さやもろさを繊細な演技で表現している。

 ザックは「僕にとってはフォン・エリック兄弟といえばあのたくましい体格が何よりも印象的だった。会場を盛り上げるショーマンシップとリングでの超人的な身体能力を持つ彼らのような肉体になることは俳優にとってものすごく大変なことだ。だから本作の役作りは僕にとって大きな挑戦だった。でも、経験したことのないトレーニングをすることで、ケビンが何を感じて生きていたのかという洞察につながった」と語っている。

■人気俳優たちが勢ぞろい

 三男デビッド役のハリス・ディキンソンは、『ザリガニの鳴くところ』、『逆転のトライアングル』にも出演。四男ケリー役のジェレミーアレン・ホワイトは、ゴールデングローブ賞エミー賞を席巻し、大ヒットとなったドラマ『一流シェフのファミリーレストラン』で主演を務める、いま大注目の俳優だ。父フリッツ・フォン・エリックを演じているのは、ドラマシリーズ『CSI:マイアミ』やNetflixシリーズ『マインドハンター』などで高い人気を誇るホルト・マッキャラニー。ケビンの恋人パム役で『シンデレラ』や『イエスタデイ』のリリー・ジェームズも出演している。

 ハリスは「これは人の心の強さを力強く訴える物語だ。さまざまな不幸を乗り越えていくケビンの姿を通じて描かれる。いかに彼がすばらしい人間かよく分かるよ。それに本作ではメンタルヘルスや男らしさについて議論するシーンも多い。本作を見た人がある種の共感を得て、その共感が他の分野にも広がることを願うよ」と、コメントしていた。

■迫真のプロレスシーン、こだわりの“再現”も見どころ

 劇中ではフォン・エリック家のみならず、リック・フレアーやハリー・レイス、ブルーザー・ブロディなど、当時大活躍した名プロレスラーの容姿や着こなし、言動を完全再現。彼らによる本格的なプロレスシーンは、米プロレス団体AEWの現役王者であるMJFことマクスウェル・ジェイコブ・フリードマンがエグゼクティブ・プロデューサーを、元WWE王者のチャボ・ゲレロ・ジュニアプロレスシーンコーディネーターを務めたことによるもので、それぞれがレスラー役として劇中にも出演している。

 この忠実な再現は人物だけにとどまらない。本作では、ダラスの名物プロレス会場スポルタトリアムを忠実に再現したセットが使用された。観客を前にしたプロレスシーンの撮影では、実際に当時の試合を子どもの頃に見て育ったプロレスファンたちがエキストラとして参加している。コーディネーターのチャボ・ゲレロ・ジュニアは、「多くのエキストラがワールドクラスチャンピオンシップレスリング(WCCW)を思い出した。昔見たシーンだったんだ。撮影が終わったあと、みんな俺にこう言った『こどものころ見たのと同じだった』ってね」と、振り返っている。

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