クローズZERO』(07)『怪物の木こり』(23)などの三池崇史監督が、主演に賀来賢人を迎えて全編iPhone 15 Proで撮影したApple制作のショートムービーミッドナイト』(配信中)。漫画界の巨匠である手塚治虫の、最後の連載漫画作品が原作となっている。

【写真を見る】全編iPhone 15 Proで撮影した『ミッドナイト』。初タッグを組んだ三池崇史監督×賀来賢人にインタビュー!

東京の夜の街にしか現れない謎のタクシードライバーミッドナイト”(賀来賢人)が、どんな道でも走ることができる「第5の車輪」を搭載した特別仕様のタクシーで疾走し、奇妙な乗客たちの様々な事件を解決していくストーリーの中の一編。デコトラを運転する少女、カエデ(加藤小夏)が命をねらわれていることを知ったミッドナイトが、彼女の逃亡を助けるスリリングなドラマを、約20分の映像に凝縮した注目作だ。MOVIE WALKER PRESSでは、この画期的な撮影に挑んだ三池崇史監督と主人公のミッドナイトになりきった賀来賢人を直撃!iPhone 15 Proの機能を駆使した、普段の映画作りとは違う撮影現場を振り返ってもらった。

■「僕ら世代は手塚治虫とともに生きていた。神のような存在です」(三池)

――手塚治虫のコミックが原作の「ミッドナイト」を全編iPhone 15 Proで撮影するという、今回のオファーを最初に聞いた時はどう思われました?

賀来「iPhoneで短編映画を撮るというのも、手塚さんの作品が原作だったのも魅力的でしたけど、僕はなによりも、三池監督とご一緒できるのがうれしかったですね。初めてだったんですよ」

三池「声をかけても、忙しい人だから出てもらえなくてね(笑)」

賀来「いやいや(笑)」

三池「ギャラが合わないとか(笑)」

賀来「そんなこと言ってないですよ(笑)」

三池「まあ、タイミングが合わなかっただけなんだけど、今回ようやく念願が叶って。普段使っているiPhoneで映画を撮ることにも昔から興味がありました。僕らはどうしても、映画界のルールや常識にとらわれてしまいますよね。もちろん、これまでの経験や培ってきたものは大事にしないといけないけれど、そのスキルや技術を自分たちのルールの中だけで使っているのは以前からもったいないと思っていて。自分たちから『iPhoneで撮りたい』って言ったこともあるんです。そうすると、プロデューサーも最初は『あっ、いいね』って言うんだけど、いざやるとなったらビビっちゃうんですよね(笑)」

――それで本当に撮れるの?映画になるの?みたいなことですね。

三池「でも、今回はAppleさんが立ち上げてくれた企画でしたから、大袈裟に言うと、退路を断ってくれたわけですよ。しかも手塚さんの作品を持ってくるなんて、目のつけどころがいい。ひとつ疑問だったのは、俺でいいのかな?ってことだったんだけど(笑)、与えてもらったチャンスだと思ってやらせてもらいました」

――賀来さんは、手塚さんの漫画は読まれてました?

賀来「知ってる漫画ももちろんたくさんありますけど、今回の原作は出演が決まってから読ませていただきました。衣裳合わせの時、三池さんに『ラストがけっこう衝撃だから、読んでみて』って言われて。それで第1話からバーっと読んでいったら、本当にスゴいところに行き着くじゃないですか?途中のエピソードも、王道のストーリーからエッジの利いた変態チックなものまであったからおもしろいなと思って。手塚さんの作品はけっこうメッセージ性の強いものが多いけれど、なかでもこれはかなり強いなという印象を受けました」

――原作を参考にしたりもしました?

賀来「僕の懸念としてあったのは、ミッドナイトのコスチュームでずっといられるのか?作品の中に存在できるのか?ってことだったんです。でも完成した作品を観たら、それを一切気にせずに楽しめたのでよかったですね」

――三池監督は、クリエイティブの面で手塚作品から影響を受けているようなこともありますか?

三池「僕ら世代は手塚治虫とともに生きていたし、手塚さんは子どものエンタテインメントの中心にいて、アニメの文化も作り上げていった神のような存在でしたからね。大阪で鼻をたらしながら、ウワ~って遊んでいた僕にしたら憧れですよ(笑)。それがここに来て、初めて手塚さんの原作のものをやれることになった。しかも、『ミッドナイト』はいちばん最後に描かれた連載漫画なんですけど、巨匠が描いたものとは思えないぐらい、劇画調ではなく漫画っぽいんです」

賀来「そうですね」

三池「なんか原点回帰しているみたいで。巨匠ともなると、普通はもっと褒められたいはずなんですよ。でも手塚さんが最後にやりたかったのは、若いころに描いていた純粋な読み切り漫画のテイストだったんです」

賀来「なるほど!」

三池「でも、その気持ちがすごくわかるし、カッコよくて。ああ、こういう人だったんだ、よかったと思いましたね。俺は巨匠でもなんでもないけれど、シンパシーと言うか、自分と似ているな~というのを勝手に感じたし、こうあるべきだよねって腑に落ちましたから。乱暴なところは乱暴なままでいいじゃないですか!漫画だからこそ表現できるストレートなテーマが明確にあって、それになんとも言えない決着のつけ方をしていく。善悪や生理を疑って、そんな簡単なものじゃないところに人生のおもしろみがあるんじゃないの?っていうところまで持っていくのがすごい。そこに驚きました」

■「俺、悪いことしてるのかな?と、男心がくすぐられる撮影でした」(賀来)

――iPhoneを実際に映画の現場で使ってみていかがでしたか?

三池「我々が普段、映画用のカメラで撮っているのと同じやり方で使ってみて、それでどれだけ映像のクオリティが変わるのか?監督としての興味とスタンスはそんな感じですけど、大変だったのは撮影部、照明部などの技術パートですね。要はiPhone 15 Proはなにが得意で不得意かを把握しなきゃいけない。けっこう時間をかけてそのテストをいろいろやって試してみたけれど、結果的には『あっ、全然大丈夫じゃない?』ということで。監督としてはそれによって演出を変えるのではなく、むしろiPhone 15 Pro Maxの特性を活かすことを心がけました。普通の映画ではよほどのことがない限り、ズームは使わないんだけど、今回は5倍ズームで被写体に瞬時に寄ったし、CG合成のシーンで使う車のスキャンまでしましたから」

――メイキングを観て、そんなことまでできるんだと思いました。

三池「iPhoneはうちの孫でも持ってますから、小学生でもやろうと思えば映画が撮れるんですよ。だから、逆にこれから大変だなと思って(笑)」

――若い人たちに追いつかれてしまうということですか?(笑)

三池「プロになって食べていくかどうかはまた別の話ですけど、おもしろいことになっていくだろうなっていうね。例えば写真の場合、みんな同じようにスナップを撮るけれど、森山大道のような写真はなかなか撮れない。やっぱり圧倒的な“なにか”で生き様をぶつけていかなきゃいけない。生き様って、人生そのものじゃないですか?映画を撮れるカメラ(iPhone)を常に手に持っているのが当たり前の世代の子たちが、自分の人生をかけてどんな映像を撮るのか?そこにはすごく興味がありますね」

――賀来さんは今回iPhoneで撮影されて、普段の映画やドラマの現場との違いは感じました?

賀来「撮られること自体はなにも変わらなかったですね。ただ、iPhoneは狭い場所などいろいろなところに置くことができるし、小回りが利く。例えば、アクセルのギリギリのところにも仕込めるから、iPhoneならではの視点の画がいっぱいあっておもしろいなと思いました」

――iPhone 15 Proの機能を使っておもしろいものが撮れたなと思うシーンはありました?

三池「自分がすごく興味深かったのは、合わせたいところにフォーカスを瞬時に合わせられるシネマティックモードですね。ワンシーンをまるまるそれで撮ったシーンもあります」

――それはどのシーンですか?

三池「ミッドナイトが出会ったカエデとお茶を飲んで、悪い奴にねらわれて逃げるところまでの『どこだ、この街は?』っていうところですね。あそこはひとつのカットではなくて、シーンをまるごとシネマティックモードで撮ったんですけど、フォーカスが表現者にとっていかに武器になるのか?というのがよくわかるし、助かりました。それにこのモードがいいのは、フォーカスを失敗しても直せるところ。あとで簡単に調整できるのは便利だし、そこはiPhoneならではです」

賀来「ゲリラ撮影にも向いてますしね」

三池「歌舞伎町は海外の人が多くて、みんなスマホで撮影してますからね。俺らが撮影してもその一部に過ぎないんですよ」

賀来「あれは、近年でいちばん興奮した撮影だったかもしれない。悪いことしてるのかな、俺?でもやっちゃえ!みたいな、男心をくすぐる撮影でした(笑)」

――賀来さんにとって、今回初めてタッグを組んだ三池監督の印象は?

賀来「映画作りを本当に楽しまれている方なんだなっていうのは前々から思っていたんですけど、それを今回の現場で実際に感じて。欲を言えば、もうちょっとガッツリやりたかったですね」

三池「今回はほぼ全部のシーンを絵コンテに起こしていて。演じる賀来さんは、その絵コンテを見ながら、ミッドナイトという謎のキャラクターのリアリティをご自身の身体の中に滲み出させるのが仕事だったわけです。普通はその時に監督とディスカッションして、演技を組み立てると思うんですけど、尺も短いし、今作は謎が謎のままで終わる登場編みたいなものだから、俳優としては物足りなさはあったでしょうね。でも、それが軽やかでいいなと思って。しかも、モニターで賀来さんの芝居を見てるじゃないですか。そうすると、やっぱりフライドチキンが食べたくなるんですよ(笑)」

賀来「それってマズいんじゃないですか!(笑)」

三池「いやいや、ものすごいパワーを感じました」

賀来「ミッドナイトにはいろんな表情があるけれど、今回はわりとクールなパートでしたしね」

三池「それに、クランクインまでの間に『このキャラクターはなんなんだ?なぜこんなことをしているんだ?』っていうことに関する打ち合わせは一切してないですから。原作があって、台本があって、衣裳合わせの様子を見ながら、賀来さんがご自身の解釈であのミッドナイトを作り上げたんです」

――三池監督の指示などは反映されてないわけですね。

三池「そのやり方は監督にもよるし、仲間になるのはいいと思うんですけど、僕らは感性も育ちもなにもかも違う。俳優と監督って、そもそも立場が違うじゃないですか。それこそ、俳優が台本を読んだ時の役というのは僕らにも想像できるけれど、それは想像でしかない。自分がこの役をやるんだ!という意識で台本を読んだ人とは、浮かび上がるキャラクターが絶対に違うはずなんですよ」

賀来「それはそうかもしれませんね」

三池「そこはバラバラのほうがいい。ひとつにまとまって、なにか得るものがあるんだろうか?って思いますしね。でも撮りながらお互いに与え合い、求め合っていくような現場だったので、ストレスは全然なかったですよ」

賀来「僕は、とりあえず(ミッドナイトの扮装をした)自分に見慣れるってところから始めました。自分が動いたり、言葉を発した時にしっくりくればいいんですけど、ミッドナイトのキャラは濃いので、そこに持っていくまでが大変でした。これまでもキャラの濃い役はいろいろやりましたけど、ミッドナイトはそのなかでもルックスが奇抜で強いほうですから。撮影初日のワンカット目などは、いったいどういう人なんだろう?って探りながら演じていましたね」

――賀来さんは、今回の現場を経験して、自分も撮ってみたいと思われたんじゃないですか?

賀来「監督業はやっぱり専門職だし、僕にはまだまだ知識が足りないです」

三池「いやいや、やれるでしょ。まずはプロデュースをやって、制作全体を見ながら映画作りの仕組みや監督の役割を知っていく。別に、真似する必要はないわけじゃないですか。たぶん求められるのは『誰々みたいな作品』ではなくて、誰も観たことがない独創的なもののはずだから、要は先生はいらないわけですよ」

賀来「確かにそうですね」

三池「オリジナリティに溢れたものをやろうとしても、僕らはどうしても現場のルールや常識に引っ張られてしまう。そのルールや常識を冷静に見て、知ることは必要です。でも賀来さんは、僕らのように制約を受ける必要はないので、強いと思います。もういっぱしの俳優だし、やれる立場にある。その日が来るのも、そんなに遠くないんじゃないですか?楽しみにしてますよ(笑)」

賀来「いやいやいや(笑)」

取材・文/イソガイマサト

『ミッドナイト』三池崇史監督×賀来賢人が対談/撮影/興梠真穂