ソフィア・コッポラが描く、もう一つの“エルヴィス”。それが『プリシラ』(公開中)だ。オースティン・バトラーをオスカー候補にした伝記映画『エルヴィス』(22)でもおなじみ、ロック&ポップの祖ともいえる大スター、エルヴィス・プレスリーは、元妻プリシラ・プレスリーがいなければ、いまもなお輝くスターではありえなかった。

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プリシラ』は彼女自身が1985年に発表した自伝回想録「私のエルヴィス」を基に、プリシラとエルヴィスの出会いから同棲を始めて変わった生活、そして結婚などを描くプリシラ視点の2人の伝記映画に仕上がった。この作品は、あくまでプリシラが主人公となっているため、エルヴィスのパフォーマンスはないのだが、それによってエルヴィスが当時位置していた業界的なポジションや苦悩、一般常識的な夫婦生活とは逸脱したライフスタイルなどが『エルヴィス』よりも色濃く描かれている。

そこで重要になるのが、エルヴィスを演じた俳優だ。ジェイコブ・エロルディ。その名前に聞き覚えがある人は、おそらく2018年にNetflixで配信され、シリーズ化もされたラブロマンス『キスから始まるものがたり』か、HBOの大ヒットシリーズ「ユーフォリアEUPHORIA」での活躍をご存じの方だろう。また、今年の映画賞レースで注目を浴びたAmazonオリジナル映画『Saltburn』(23)での、貴族の青年フェリックス役にハマった人もいるかもしれない。

■人気急上昇中の最旬俳優、ジェイコブ・エロルディとは?

オーストラリアの一般家庭に生まれたエロルディは現在26歳。10代の頃から演技に目覚め、14歳頃にはアメリカ英語のアクセントを芝居のために学び始める。そして、2017年にアメリカに移住し、ハリウッドでのキャリアを目指して進み始めた。そんな彼がチャンスをつかんだのは、前述の『キスから~』。この作品がティーンを中心にした視聴者からの絶大な支持を受け、批評家筋の悪評にもかかわらず続編、続々編が製作されたのだ。

そしてなんといってもエロルディのキャリアでターニングポイントとなったのが昨秋。8月末、アメリカで開催されたテルライド映画祭で『Saltburn』が、その直後の9月に開催されたヴェネチア国際映画祭で『プリシラ』がお披露目され、彼への注目度は急上昇。特に、先に上映された『Saltburn』での芝居には絶賛が集まった。

■英国貴族の御曹司役がハマった『Saltburn』

エロルディが演じたのは、主人公オリヴァー(バリー・コーガン)の気持ちを惑わす、オックスフォード大生フェリックス。オリヴァーが大学では場違いの労働者階級出身者であるのに対して、フェリックスはガチの貴族で学校一の人気者。夏休みにフェリックスがオリヴァーを誘って実家の豪邸で過ごすことになったことで、彼らの関係は不穏なものに…。オリヴァーよりも圧倒的に優位なポジション、そして貴族としての育ち、家庭環境など、オリヴァーが望んでも手にできないものばかりを持つフェリックスのキャラクターは、エロルディの芝居と上品なルックスゆえに成立しているのだ。

■大スターの素顔を表現しきった『プリシラ

では、『プリシラ』でのエロルディは?と聞かれると、これまた彼でしか成立しないことをやってのけている。実は同じ役を演じたオースティン・バトラーとエロルディは、エルヴィス本人とはまったく似ていない。が、誰もが知るエルヴィスに見せるためのアプローチをそれぞれ別々の方法でとっている。

バトラーはパフォーマンス時の細かな仕草、振り付けによって、ステージ上のエルヴィスを再現。一方のエロルディは原作本にあるエルヴィス像にプラスして、プリシラ本人からのヒアリングによって、“ステージ以外でのエルヴィス”にアプローチしているのだ。ステージパフォーマンスのシーンがまったくない作品で、周知の大スターの素顔を表現した彼の技量は、本作を観れば一発で理解できるはず。

文/よしひろまさみち

『プリシラ』でエルヴィス・プレスリーを好演!次世代俳優のジェイコブ・エロルディ/[c]The Apartment S.r.l All Rights Reserved 2023