反響の大きかった2023年の記事から選ばれたジャンル別トップ10。今回は集計の締切後に、実は大反響だった11月12月公開記事に注目。惜しくもトップ10入りを逃した記事を順不同で紹介!(集計期間は2023年11月~2024年1月。初公開2023年11月22日 記事は取材時の状況)
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メンズファッションバイヤー&ブロガーのMBです。洋服の買いつけの傍ら、「男のおしゃれ」についても執筆しています。よろしくお願いします。
◆「ユニクロにまつわる素朴な疑問」を考察する
「近年、ユニクロの品質が落ちてると聞いたけど、ホント?」
「+JやユニクロUなどのデザイナーズコラボってブランドイメージ落ちたりしないの?」
「YouTubeを見るとZARAやH&M、無印などよりもユニクロ紹介のほうが圧倒的に多いんだけどなぜ? やっぱりユニクロはインフルエンサーにお金を配りまくってるの??」
今回はこれらユニクロの素朴な疑問にすべて回答していきます。
◆★近年、ユニクロの品質が落ちてる?
「最近のユニクロはすぐダメになる」「生地が薄くなった気がする」「一度洗ったら風合いが変わっちゃった」。
近年、SNSではそんな声が散見されます。私は展開されているメンズアイテムのほぼすべてを毎年購入していますが、確かに10年前と比較すると「耐久性が下がった」と感じなくもありません。
ただ、「質が落ちた」というのは当てはまらないと思います。モノ作りをされているアパレル関係者なら100%理解していると思いますが、ユニクロは10年前と比べて明らかにコストに合わない素材使いをしています。
カシミヤやウール、セルヴィッヂデニム、リネンなどブランドでも採用を躊躇するような高級素材を積極的に取り入れています。原材料の希少性などから考えれば、明らかに素材クオリティは上がっています。その意味で「質が落ちた」とはまったく言えないでしょう。
◆「質は高いけれど、耐久性が低い素材」を採用
それでは、そんな背景があるにもかかわらず、なぜSNSなどで「ユニクロは質が落ちた」「すぐダメになる」と言われるようになったのでしょう?
それは「質=耐久性」ではないからです。先ほどユニクロが扱う高級素材の代名詞としてカシミヤ、ウール、セルヴィッヂデニム、リネンを挙げましたが、それらの多くは「質は高いけれど、耐久性が低いものばかり」のはずです。
ウールとポリエステルはどちらが強いイメージですか? ナイロンとカシミアはどうでしょう? 高級素材ほど洗いにくくケアが難しいイメージはありませんか?
なぜか日本人は「高い服ほど長持ちする」と思い込んでいますが、素材だけで言えばそれはまったく逆です。ポリエステルやナイロンや格安の分厚いコットンのほうがコストも安く、耐久性も高い。他方、ウールやカシミヤ、リネンやシルクなど高級素材のほうが脆くダメになりやすいのです。
つまりユニクロとしては高級素材を使いクオリティUPを実践しているけれど、耐久性という意味ではそれが逆効果につながっている……と推察されます。
ただ、もちろんユニクロもそんなことはわかっていて高級素材でも耐久性が保てるようにいろいろ工夫をしていますが、それでも過去の格安素材時代と比較すると多少劣ってきているのでしょう。なかなか難しい問題ですが、今後のユニクロの工夫に期待です。
◆★デザイナーズコラボってなぜ続くの?
ジルサンダーを筆頭に、エルメスのデザイナーを務めたクリストフルメールとのコラボ、ロエベのデザイナーであるJWアンダーソンとのコラボなど「ハイブランドコラボ」が盛んに行われています。
消費者としては世界クラスのデザインが低価格で手に入るので嬉しい限りですが、同時に「本家ブランドからするとイメージ下がるはずなのになぜやるんだろう……?」と疑問に思ったことはありませんか?
「買う人が増えてくれるからメリットが多いんじゃないか?」と思う人もいるかもしれませんが、ジルサンダーのアウターは現在基本の価格で20万円を超えています。いくらなんでも5000~6000円くらいの価格帯で出している+Jから本家ジルサンダーに進む人がそんなにいるとは到底思えません。
知名度UPにはなるかもしれませんが、本家の売上向上にはほとんど寄与しないはずだし(価格帯から推察する客層がまるで違う)、また既存のブランドファンからすれば「ユニクロコラボ」で喜ぶ人はいないでしょう。
「安いイメージになっちゃったなあ」とがっかりする人も多いんじゃないでしょうか。実際レディースブランド「マメクロゴウチ」とユニクロのコラボでは発表した瞬間からブランドのインスタコメント欄が大炎上。「なぜユニクロなんかと組むんだ」と激怒したブランドファンが殺到したものです。
そう考えるとブランド側はなぜユニクロと組むのでしょうか。デメリットしかないように思えるかもしれませんが、実はここにはカラクリがあります。
◆ブランドとのコラボでなく、デザイナー本人とコラボ
+Jを「ジルサンダーとユニクロのコラボ」と思ってる人は多いのですが、実はあれは正しくは「ブランドであるジルサンダー」とのコラボではなく「デザイナー本人であるジル・サンダー」とのコラボです。JWアンダーソンコラボも「ロエベ」とのコラボではなく、本人とのコラボです。
ユニクロUもブランドである「ルメール」やまして「エルメス」とのコラボではなく、あくまで本人である「クリストフ・ルメール」とのコラボでしかないのです。
ジルサンダーを例に挙げれば、実はブランド・ジルサンダーから本人はすでに離れています。プラダグループに買収され、かつ本人であるジル・サンダー女史は喧嘩別れで退任しています。なのでブランドイメージが落ちる落ちないなどが関係ない状態なわけですね。
ジルサンダーをやめた後にユニクロはコラボライン+Jを展開していますから、間違いないでしょう。ラストコレクションでは本家からクレームでもあったのか「ジルサンダーとのコラボ」ではなく表記を「ジル・サンダーとのコラボ」としています。
もちろんMARNIなどブランドとの直接コラボの例もありますが、その場合もブランドイメージや本家を毀損しないためにかなり慎重に商品展開を決めているようでした。MARNIは本家で売れてるようなベーシックなアイテムを展開せず、どちらかというと売りにくい派手なアイテムを展開したり。バカ売れしているバッグ類などには手を出さなかったりと、「線引き」を意識していました。
このようにブランドコラボはイメージ毀損が最大の難点ですので、仕掛けるユニクロ側も慎重に相手を選び内容を精査しているのです。
◆★ユニクロはインフルエンサーにお金を配りまくってるの?
ユニクロの売上高は10兆円が目標。2023年には3兆円規模となりいよいよ本格的に通過点である5兆円が見えてきました。「あとは倍にするだけ」と柳井さんは豪語しています。
もはや日本国内のマーケットなど小さいもので、世界規模のブランドとして大きく成長しました。現在グローバルの売上の方が日本売上を超えており、それに伴って企業としてブランドとしての責任やイメージも重要になってきます。何しろ「日本を代表する世界的ブランド」と言って決して過言でなくなりましたから。
さて、そんなユニクロが果たして「PRタグ」もつけさせずに金を配ってインフルエンサーに宣伝させるでしょうか? YouTubeを見れば確かにユニクロレビューは腐るほど見かけますが、これらのすべてもしくは一部でもユニクロのステマであるとしたら……。
10兆円を目指すグローバル企業がこれほどのリスクを背負って日本国内の小さな売上を伸ばそうとするでしょうか? 俯瞰視点を持って考えれば、荒唐無稽と言わざるを得ませんね。
日本も諸外国に倣うようにPRタグなどの表記が義務付けられ、ステマに対して法律で厳しく裁かれることとなりました。それらが施行されてからもユニクロレビューは止まりませんが、そんなブラックな広報活動をユニクロがわざわざ行うとは思えません。当然、私もユニクロから報酬をもらったことは一度たりともありません。
……ではなぜSNSやYouTubeではユニクロレビューで溢れているのでしょうか? それこそがもしかするとユニクロの戦略なのかもしれませんが、実はユニクロは「1円も払わずとも宣伝される仕組み」になっているのです。
◆どのブランドよりも「確実に誰もが同じ商品を手にできる」
インフルエンサーは当然なるべく多くの人に情報を届けたい、再生回数を伸ばしたいと思うでしょう。そうすると多くの人に「面白い」「役に立つ」と思われる必要があるわけです。
そのときに紹介するブランド、洋服をどう選ぶか。当たり前ですが「誰もが手を出せるもの」をチョイスするはずですね。たとえば、「ZARAはどうか?」「H&Mはどうか?」と言われるとそれらのブランドは日本国内でせいぜい100店舗ほどしかありませんし、さらに展開商品は店舗ごとに異なるのが海外ファストの大きな特徴です。
それでは「無印などはどうか?」と言われると確かに店舗数は相応に多いですが、洋服をフルラインアップで扱う店舗は思う以上に少なく離島だろうと田舎だろうと誰もが手を出せるとは言い難いのです。
ところがユニクロは国内展開店舗800以上、そのどれもが展開商品がほとんど統一されています。つまりどのブランドよりも「確実に誰もが同じ商品を手にできる」状況があるのです。
そのため他ブランドよりも再生回数が取りやすい。どんなYouTuberでもインフルエンサーでも何個か試すうちに「ユニクロが一番取れるな……」と実感でき、結果としてユニクロだらけになるわけですね。
お金を配るどころか0円で多くの宣伝効果を生み出す策士ユニクロ、とも言えるわけです。スゴイ!
以上、今回はユニクロの疑問を一気に解決してみました。ぜひご参考に。
【MB】
ファッションバイヤー。最新刊『MBの偏愛ブランド図鑑』のほか、『最速でおしゃれに見せる方法 』『最速でおしゃれに見せる方法』『幸服論――人生は服で簡単に変えられる』など関連書籍が累計200万部を突破。ブログ「Knower Mag現役メンズバイヤーが伝えるオシャレになる方法」、ユーチューブ「MBチャンネル」も話題に。年間の被服費は1000万円超! (Twitterアカウント:@MBKnowerMag)
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