海上自衛隊の幹部候補生の教育には「A」「B」「C」の3コースがあります。なかでも「C」はベテランの年配隊員をメインにしたものだそう。しかし、それゆえに若手隊員とは違う悩みがあると言います。

江田島の「A」「B」「C」って?

季節はすっかり春。4月は海上自衛隊の新入隊員、通称「春っ子」が教育隊に入る時期ですが、それよりもひと足早く、2月には広島県江田島市にある海上自衛隊幹部候補生学校で入校式が行われます。

幹部候補生学校は、防衛大学校の卒業者や一般幹部候補生試験に合格した人たちが入るので、入校は教育隊と同じ4月では……、と思われるかもしれませんが、実は海上自衛隊には幹部になるためのルートは複数あるため、4月入校だけではないのです。

防衛大学校の卒業者や一般幹部候補生試験の合格者らは通称A幹と呼ばれます。それに対し、すでに海上自衛官として研さんを積んだ隊員を対象としているのは、通称B幹(部内課程)やC幹(幹部予定者課程)と呼ばれるルート。こちらは、ある程度の勤務経験を経た者で、いわゆる部内試験に合格すれば幹部になれます。通常、B幹は海曹、C幹は海曹長や准尉から選出されます。

海曹士、いうなれば「下っ端」として入隊しても、のちに幹部になれるなんて夢のあるシステムかと思いきや、本来なら防大で地獄の生活をみっちり過ごしてようやくなれるのが幹部なので、現場(部隊)経験があるとはいえ、数か月で幹部になるにはやはり相応の“地獄”が待っているようです。

なかでも、C幹は35歳から48歳くらいまでがメインの年齢層になるため、かつては「とっつぁん幹候」とも呼ばれたほど。この課程の対象者は経験豊富なものの体力面で辛い思いをするのだとか。

幹部候補生学校は毎日が「鬼」のようなカリキュラムの連続で、ゆっくり食事をする時間がとれないことも。運悪く食事をとれなかった時などは「カ〇リーメイト」のような補食に頼ることもあるようですが、学校では食事を摂ることも義務なため、補食で対応するのはよろしくないとしています。

とはいえ現実は業務が押すこともあるので、補食は苦肉の策なんだとか……。一般企業でも食いっぱぐれることはよくある光景ですが、ただでさえ体力勝負の自衛隊、食事くらいゆっくり食べて欲しいものです。

「健康に注意」が最も重要?

加えて、C幹経験者が口を揃えて言うのが「総短艇が大変」ということ。総短艇とは、日々の生活の中で突然かかる恐怖の号令です。「総短艇用意」の号令がかかると、どんな作業を行っていても即時中断し、数百メートル離れた短艇のところまで全速力で走り、短艇を漕ぎ出すという流れになります。

なお、最初に到着した人が短艇の指揮を採ることになるため、微妙な駆け引きもあるのだそう。護衛艦などで勤務する場合の「戦闘配置」に似た合図ですが、なにせ距離があるため、腰と膝に爆弾を抱え、血圧もちょっと不安な “お年頃” にはなかなかきついとのことでした。

ちなみに、幹部候補生学校には学生を指導する通称「赤鬼」「青鬼」という学生付きの幹部がいます。彼らは、C幹のおじさん学生たちと比べて断然若いため、筆者(たいらさおり:漫画家/デザイナー)的には、若者に指導されるほうが精神的にきついのではと思ったのですが、海上自衛官である夫やこさんは「それが仕事だしね」とクールな返答。

「赤鬼」「青鬼」は優秀な者が選ばれるため、指導者としての経験を積む意義が、そして指導を受ける側もまた、社会の先輩として若者をリーダーとして育てる役目を担っていると考えるから、そこまできつくはない模様です。

しかも、課程終了後には互いをリスペクトできる関係になっていることが多いと話してくれました。こうして聞くと、厳しくとも得るものも多そうに思えます。

幹部への道を目指す理由としては、現状からステップアップしたい、お給料が上がるなど、いろいろ理由はありますが、隊内で一目置かれるベテランの年齢になってもなお多くの道が用意されている自衛隊。入隊したら決まったレールに乗るのではなく、自分なりの自衛官人生をデザインし続けると言えるのかもしれません。

海上自衛隊の練習航海の様子(画像:海上自衛隊)。