物事に行き詰った時、誰かに相談していますか? 相談は、行き詰った物事を前に進め、一人では乗り越えられない限界を超え、自らの可能性を最大化できる最強のビジネススキルです。しかし、ほとんどのビジネスパーソンは相談の仕方を学んだことがなく、相談を効果的に使いこなせていません。

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 本記事では、誰もがすぐに実践できる相談のメリットと効果的な方法について、事業開発・事業戦略立案の専門家である山中哲男氏が解説します。

●ビジネスを成功させる「相談」とは

 はじめまして山中哲男と申します。私は社会人になって20年以上相談を続けてきました。相談なくして今の自分の人生はないと言い切れます。

 相談と聞くと、多くの人は“報連相”の相談を思い浮かべるかもしれません。新入社員など社会人になりたての人が学ぶものと考える人も多いでしょう。しかし私の経験上、上場企業の経営者ですら相談が下手な人が多いと感じており、年齢や立場は関係なく「相談する力」がある人はほんの一握りです。

 それはなぜか? 相談について解像度高く語れる人や解説書がなく、学ぶ機会がないからです。そういう私も自分自身の20年間を振り返って、無意識的に行っていた相談を解像度高く言葉にするのに時間はかかりました。

 それでも言語化したかったのは、やりたいことがある人や挑戦している人を応援したいからです。挑戦とは未経験の物事に一歩踏み出すこと。一人で考え、行動していても必ずどこかで行き詰ります。私もそうでした。そんな時に誰でもできる相談という手段を使って乗り越えてほしいという思いが根底にあります。

 連載第1回目の本記事では、私のこれまでの経験と相談の大切さに気付いた出来事をお話しします。最後には、私の著書の読者から寄せられた相談に関する悩みに回答しています。ぜひ参考にしてください。

●相談が成果につながる

 私の生まれは兵庫県加古川市です。地元の高校を卒業後、大学へ進学できず18歳で社会人になりました。学歴もキャリアもない中で最初に就職したのは、金型をつくる工場でした。なぜなら加古川は工場地帯だったので、当時は「就職=工場勤務」と思っており、他の選択肢は全く思い付かなかったからです。

 しかし、長続きせずに退職してしまいました。これからどうしようか悩んでいた時、相談した友人に「自分で稼いだら?」という何気ない一言を言われたのです。起業などは全く考えていなかったので「そんな選択肢があるのか!」と驚きました。思い返すと初めて誰かに相談したのはこの時です。

 私自身にスキルは何もなかったので、飲食店でアルバイトをしていた友人たちのスキルを集め、焼鳥居酒屋を経営することにしました。経営経験なんてもちろんありません。それ以前に居酒屋アルバイトをした経験もありませんでした。

 知識やスキルがゼロな上、開業資金もゼロ(笑)。今思えば“何も知らない”という状況がよかったのかもしれません。なぜなら、誰かに相談するしかなかったからです。

 それからはあらゆる人へ相談の嵐。店を出すための物件はどう探すのか? 資金はどうしたらいいのか? 店舗の内装は? 食材の仕入れは? 業務用のごみの出し方は? など挙げればキリがありません。その都度相談相手を探し、少しずつ前に進めていきました。

 当時はとにかく必死でした。相談した時にもらったアイデアや考える観点をすぐに行動に移してまた相談に行くという繰り返し。毎日、本当に地道に一歩ずつ進めてきました。

相談による思わぬメリット

 面白いことに、相談を続けると、最初は面倒くさそうにしていた相手にも少しずつ本気度が伝わって、応援者になってくれる人もいました。次第にこちらから相談しなくても、「この前話していた物件の話、いいの出たよ」「野菜を仕入れるなら農家さんから直接買い取る方法もあるから紹介するよ」など、相手から情報をもらえることも増えていきました。

 自分から「応援してください!」とは言っていません。それでも応援者になってくれる人には共通点がありました。それは、私がどんなお店づくりをしたいのか、それはなぜなのか、何を目指しているのかというビジョンに共感してくれていたのです。

 ビジネス的には「目的」と「原体験」が相手の共感を生んでいました。ゼロから始めた焼鳥居酒屋の経営ですが、多くの人に相談し、同じくらい多くの人から応援され、気付けばありがたいことに予約が取れない人気店にまで成長しました。

 実はお酒を全く飲めない私は、来店されたお客さまのテーブルを回って、どんなお酒を飲みたいか相談し、その中からメニューを決めていました。

 このゼロからの起業経験が、相談する大切さと、自分に知識や経験がなくても相談で成果を出せる気付きにつながりました。

●“相談”でチャレンジする人を応援したい

 飲食店経営の後、チャレンジする人を応援したいと事業支援を開始しました。私が25歳の時には讃岐うどんチェーン「丸亀製麺」(運営:トリドール)の海外1号店となるワイキキ店(ハワイ)の進出をサポートしました。ワイキキ店は今なお全店舗売り上げ1位を誇っています。

 その他にも、今では年間40万人が訪れる人気スポットになった淡路島の西海岸エリアの開発や、安藤忠雄氏が設計監修したJR大阪駅北側(うめきた)に位置する施設のプロジェクトに複数の民間企業を率いて参画しています。2025年大阪・関西万博では、経済産業省内閣官房などと官民連携で、万博後も継続して事業化を支援するプロジェクトを立ち上げています。

 上記は携わっているプロジェクトの一部ですが、宿泊や飲食の他、医療、宇宙、ヘルスケア、物流、教育、エネルギーなど、多岐にわたる分野で挑戦を続けています。

 挑戦する私の背中を押し、成果に導いてくれたのもやはり相談です。行き詰っている目の前の状況を打破できるだけではなく、相談すればするほど共感し合える応援者が増えていきます。

 年齢や業界、職業を問わず緩やかなネットワークでつながった応援者が増えると、何をするにも相談相手がいる状態になります。その結果、より挑戦できることが増えるといういい循環が生まれるのです。すぐ成功へつながる近道は残念ながらありませんが、これは私の実体験から確信をもって言えます。

 「行き詰る」→「相談する」→「行動する」のサイクルを回した数だけ経験と人的ネットワークが積みあがっていくのです。先ほど近道はないとお伝えしましたが、裏を返せば、積み重ねれば他の人は簡単に追随できない経験です。ぜひ今から相談を活用してください。とにかく相談は遅いより早いほうがいいです。しかも相談は誰でも今すぐできます。

相談による4つのメリット

 相談するメリットは大きく4つあります。

 1つ目は「思い込み」にツッコミをもらえ、思い込みを外せること。実際、私が工場を辞めた時に友人に言われた「自分で稼いだら?」も相談から生まれました。

 2つ目はネクストアクションが見つかり、行き詰った状況を打破できること。先述した相談を起点に物件を紹介してくれたり、野菜の仕入れ先を紹介したりしてくれたイメージです。

 そして3つ目は、やりたいことに共感してくれる「応援し合える仲間」が増えること。相談時に「目的」と「原体験」を相手に伝えることで、雪だるま式に増えていきます。

 最後のメリットは、やりたいことの解像度が上がる点です。私自身、解像度を上げることなくして焼鳥居酒屋の成功はありませんでした。

 第2回目以降は、相談のポイントやタイミング、相談相手の選び方を詳しくお伝えします。

相談Q&A

Q:誰よりも自分がお客さまに向き合っているので他者に相談する意味を感じない。なぜ相談する必要があるのか教えて欲しい。

A:他社に相談するのは、お客さまに出せる価値が限定的になり、結果としてパフォーマンスが低くなるからです。恐らく、お客さまと向き合う=時間を一番使っていると思っているのだと想像します。しかし、本当にお客さまのためになることは、課題に対する解決策の可能性や選択肢を広げることです。自分一人が得た情報や知識をいくらお客さまに伝えても、提案の幅は広がりません。つまり、一人だけで考えても幅広い可能性や選択肢を提案できないのでパフォーマンスが上がらないと言えます。ぜひ一度、信頼できる他者に相談してみてください。

著者:トイトマ 代表取締役社長 山中哲男