バカリズムに決まって筆が走り出す
フジテレビ系ドラマ『イップス』(毎週金曜21:00~)で、篠原涼子とともに主演を務めるバカリズムと、脚本を担当するオークラ氏がこのほど、取材に応じた。無名時代からの長年にわたる関係性だけに、互いの作風や細かい特徴を分析しながら、今作の手応えなどを語った――。

○2人で世の中やお笑い界への妬み嫉みをずっと言ってた

2人は、それぞれ風呂なしアパートに住んでいた頃からの知り合い。フジテレビのゴールデンタイムで主演と脚本という関係で仕事をすることに、感慨深いものがあるようだ。

「19歳で最初にお会いしたときは、オークラさんはまだ芸人で、家に泊まりに行ったり、一緒に銭湯に行ったりしていた関係性でしたね。全く仕事もない頃は、2人で世の中やお笑い界に対する妬み嫉みをずっと言ってて(笑)、そんな間柄なので、こういう形で仕事ができるというのは、不思議ですよね」(バカリズム)

「本当にいろんなものに対する不満を、信じられないくらい言ってました(笑)。今はもちろんそんなこと言わないですし、こういう形でできるというのは本当にうれしいです」(オークラ氏)
内村光良の後輩だから動けるイメージ

今作は、小説を“書けなくなってしまった”おしゃべりなベストセラーミステリー作家・黒羽ミコ(篠原)と、事件を“解けなくなった”自己評価高めのエリート刑事・森野徹(バカリズム)という互いにイップス(※心の葛藤により、筋肉や神経細胞、脳細胞にまで影響を及ぼし、「できていたことができなくなってしまう」心理的症状のこと)を抱えた2人が、事件を解決していくミステリーコメディー。

森野は長ゼリフが多い役だが、「オークラさんは、前から説明ゼリフを僕に当てるんです(笑)。長い説明を僕が担当することが多いので、今回も“やっぱりそうか”と思いました」と受け止めるバカリズムに対し、オークラ氏は「バカリズムはすごく頭が良くて説明がちゃんとできるイメージがずっとあるんですよ」と信頼を語る。

それだけにオークラ氏は、キャスティング段階で森野役がバカリズムに決まりそうだという話を聞いて、「“バカリズムだったらこんなこと言うだろうな”って、どんどん言葉が回るようになって(笑)。言い方悪いんですけど、理論を持ってるのにちょっと面倒くさいところとか、そういうのをうまく表現しながら書いてます」と筆が走るのだそう。一方、ミコ役の篠原については「何となくぶっきらぼうで突っ走るイメージがあったので、そこをうまくかけ合わせながら書いたつもりです」といい、それぞれ当て書きで脚本を作っていった。

当て書きされたバカリズムは「オークラさんが思う僕らしさは、面倒くさいところとかすごく分かります(笑)」と認めた上で、「僕のことを若い頃から知ってるから、20代とか30代くらいのイメージからそんなに変わってないのかな。僕はわりと運動神経が良くて、体が丈夫だと思われてるので、体張る場面が多いんです。めちゃめちゃ全力疾走したりするんですけど、僕も48歳だから、そこはちょっとアップデートしてほしい(笑)」と要望。

これに対し、オークラ氏は「僕が2歳上なのでちょっとだけ後輩と思ってるから元気いいなっていう印象があるのと、(所属事務所が)マセキ芸能社なので、内村(光良)さんの後輩だから動けるっていうイメージが勝手にできちゃって(笑)」と釈明した。

長ゼリフを入れる中で、「バカリズムという芸人は普通の芸人と違って、ショーをして帰ってきてそこから作業をするという、日本で一番仕事を抱えてる芸人なんで、こんなに遊んでない芸人は見たことないです(笑)。だから、スケジュールのこともすごく考えながら書いてます。もう忙しすぎるから、連絡を取るのも申し訳ないくらいです」と、配慮もしていると主張するオークラ氏。

バカリズムオークラ氏が脚本を担当し、バカリズムは出演もした『素敵な選TAXI』(14年、カンテレ)では、「カフェのシーンでちょこっと出て、その合間に脚本を書いてみたいなことをやってましたね(笑)」(バカリズム)、「みんな驚いてましたよ(笑)」(オークラ氏)という、まさに二刀流で挑む姿もあったそうだ。

バカリズムへの妬みで台本作りに変化
バカリズムに、オークラ脚本の“らしさ”を聞いてみると、「コントでもそうなんですが、必ず何か言いたいことがあるというのを感じます。僕の場合は特に何も言いたいこともなく、お笑いだけで考えるんですけど、スタートの段階で“こういうことを言いたい”というのが、ちゃんと明確にある人だというのは、コントを見てるときから思いますね」と分析。

今作では、森野とミコのやり取りや、最後にミコが犯人に語りかけるセリフに、その思いが込められており、第1話でミコは、トリンドル玲奈演じる熱波師の犯人に「もがき続けたら絶対にリスタートできるはず」と言葉をかけていた。

この分析を受け、オークラ氏は「バカリズムはコントのときから、1個のルールを作って、その中でうまく笑いを作っていくというのが天才的で、初めて見たときから衝撃を受けたんです。僕はそれが大好きだったんですけど、ある時期にこの路線では勝てないと思って、そこから(放送)作家になった時に、やっぱりメッセージ性や、人間のキャラクターを描くことを重点的に考えて、そこにどうお笑いを絡めていくかというのを意識するようになりました。だから、バカリズムにはちょっと妬みもあって(笑)、そこからだんだん自分の中でもすみ分けができるようになって、楽しくなってきたんです」と明かす。

○芸人と放送作家の脚本の違い

バカリズムがもう1つ挙げるオークラ脚本“らしさ”は、時代性。「これは僕が芸人で、オークラさんが作家だからという違いもあると思うんですけど、僕はコントを作って、それこそ何年後に見せることも想定して作るんで、基本的にその時代のものをあまり入れないんです。でもオークラさんはトレンドを入れますよね。今回だったらサウナだったり、流行りものや時代を象徴するものが必ず入ってくる」と気づいたという。

オークラ氏は「確かにテレビの作家をやってると、その時代時代にお客さんが触れているものというのは、ちょっと意識していますね」と認め、「犯人役の職業(※サウナ熱波師、コンビインフルエンサー、二世議員、パティシエ、法廷画家など)もそうだし、今っぽい理由とか、今っぽいプライドみたいなものも時代によって変わってくると思うんです」と捉えているそうだ。

そのため、最新のカルチャーをインプットする必要があるものの、オークラ氏は「ちゃんと若い子としゃべらなきゃいけないなと思うんですけど、今って若い子と積極的にしゃべりに行くと、時代的にあんまり良くないんで悩ましいところではあります(笑)。そこは本当に毎回苦労しますね。相当信頼のおける人にしかしゃべってくれないと思うので」と打ち明け、バカリズムも「若い人の砕けたしゃべり方知りたいけど、向こうからしたらキモいだけですからね(笑)」と同情した。

●無機質・不条理の限界から芝居が広がる

近年は脚本家としての活躍も目立つバカリズムだが、“俳優・バカリズム”をオークラ氏はどのように見ているのか。

「本当に人を観察する目があるので、実はいろんなことを演じられると思います。ただ、自分の感情がちゃんと合理的につながってるものじゃないとやりにくいんだろうなと思うので、そこがハマるとどんな種類でもできる。本当に何でもできるからすごいと思うんですけど、突然どこかの段階から上手になったイメージがあります」(オークラ氏)

それに対し、バカリズムは「最初の頃は芝居をわりと記号的なものでしかやってなかった部分があるんです。それは、日本映画学校の俳優科で、いわゆる演劇的な大きめの演技を強いられていたので、そこに反発して無機質だったり不条理なコントをやってたんですが、20代の頃にパターンをある程度やり尽くして行き詰まりを感じたので、ここからさらに広げていくには、もっと感情を入れたり、いろんなキャラクターを演じられるようにしなきゃいけないというのがあったんです」と、芝居の変化のタイミングを明かす。

オークラ氏は納得して、「たしかに、昔は怒るなら怒る、悲しむなら悲しむっていうルールで作っていたのが、ある時から微妙な感情を表現するようになって、“バカリズムってこんなに芝居がうまいんだ”と思って、役者業もできるんだろうなと感じましたね。笑ってるけど本当は怒ってるとか、見せている表情と思ってる感情が違うお芝居ができるようになっていて、それができる人ってなかなかやれそうでいないんです」と評し、「なので、そういうところを意識しながら(脚本を)書いてます」とのことだ。
○掛け合いに手応え「ここってこんな面白かったっけ?」

今作でのバカリズム篠原涼子の掛け合いを見たオークラ氏は「やり取りがすごく面白かったです。セリフを読んでもらったときに“あれ? ここってこんな面白かったっけ?”とうれしくなる瞬間があるんですけど、それが今回もあったので、そうなると“だったらもっとこんなこと言わせたい”となって、セリフがどんどん長くなっちゃう(笑)」と手応え。

一方のバカリズムは「今回は結構変わった演出があるんです。がっつりしゃべってるところに、途中インサートが入るから、せっかくセリフ覚えたのに、視聴者から見ると“本当に覚えたの?”ってなっちゃうんですよ。現場ではちゃんと芝居してるっていうのをアピールしたいです(笑)」と強調していた。

画像提供:マイナビニュース