子どもがタブレットで動画を視聴したり勉強したりするのが当たり前になった現在、親にとって特に心配なことは子どもの視力低下。画面に顔を近づけ長時間使い続けていると、近視が進行する恐れがある。そんな使い方をしていたら、親は子どもを注意するものだが、目が行き届かないこともある。

【その他の画像】

 子どもがタブレット、スマートフォン、携帯ゲーム機といったモバイルデバイスに顔を近づけて使わないよう、顔と画面の距離が近くなったら警告するのが、キングジムの近視対策ライト「めまもりん」である。

 2023年10月に発売した「めまもりん」の特徴は、顔がタブレットなどの画面から約30センチメートル以内に近づくと、LEDライトの点滅とブザーで知らせること。背面のクリップでさまざまなデバイスに取り付けることができるほか、スタンドにより机に置いて使えるようにした。

●親子双方のもやもやを解消

 企画・開発が始まったのは発売の1年ほど前。子どもを持つ社員の声がきっかけになった。開発本部電子文具開発部デジタルプロダクツ課 リーダーの小島沙織さんはこう振り返る。

 「とある社員から、子どもがタブレットで動画を見ているときの困りごとを解決したいという話がありました。子どもが画面に顔を近づけて動画を見ていると、親は『近いよ』といったように注意しますが、何度も注意するのは大変です。子どもも繰り返し注意を受けると、嫌な気持ちになってしまいます。こんな話題が出たことから、親子双方のもやもやを解消する商品として『めまもりん』を企画しました」

 子どもに顔が画面に近いことを言葉以外で伝えつつ、子どもが嫌がるような刺激は避けること。「めまもりん」開発のポイントは、この点に集約された。

 最初に検討したのは、顔と画面の距離が30センチメートルを下回ったらライトがポッと点灯するもの。顔と画面の距離は赤外線距離センサーで測定。赤外線を対象物に反射させ反射光を受光した時の入射角度から対象物との距離を測る。30センチメートルは、公益社団法人日本眼科医会の提唱などを元にした。

 しかし、サンプルをつくり使ってみたところ、画面に気を取られた状態ではなかなか気づかないことが分かったことから、点滅させることにした。

 同時にブザーも鳴らすことにしたのは、小島さんの上長のアイデアだった。採用の経緯を次のように振り返る。

 「LEDライトの点滅は子どもは気づくことができますが、親は離れたところにいると気づくことができません。上長からこのような点を指摘され、LEDライトの点滅と一緒にブザーを鳴らすことにしました」

 音の刺激が苦手な子どももいることから、ブザーは消音も可能。上長からブザーのアイデアが得られた時に小島さんが盛り込むことにした。消音できることで、屋外など音を出すことを控えたい場所でも使えるようになった。

 ライトが光るとロボットっぽく見えるデザインも、最初の社内会議でほぼ現在と同様のものが提案された。子どもが使うものではあるが、子どもウケするようなデザインを提案しなかった。その理由を小島さんは次のように明かす。

 「子ども向けですから動物の形を模すことなども考えられると思いますが、購入するのは親です。かわいい感じにはしたかったのですが、大人から見てiPhoneやiPadなどに合うと思えるものにしようと考えました」

 デバイスに挟むためのクリップは、スマートフォンやタブレットが挟めることを前提に検討。机に置いても使えるようにするスタンドは、使わない時はクリップに収納できるようになっている。

 机に置いて使えるようにすることも企画時に決めていた。その理由を小島さんは次のように話す。

 「デバイスによっては挟めないものもあることや、タブレットを机やテーブルに平置きして使ったり、デバイスと併用する以外にも机で本を読んだりするケースを想定したからです。『めまもりん』は新規概念の商品なので、あらゆるシーンで幅広く使えるようにするためにクリップで挟む以外の使い方もできるようにしました」

 「めまもりん」の仕様は、開発着手から比較的早期にほぼ固まった。残されたのはブザーの音量など細部の詰めとなった。

●仕様が決まるまで数カ月を要したクリップ

 細部を詰めていったことで大きく変わったのは本体のサイズ。「めまもりん」のサイズはクリップを含め高さ60×幅64×奥行36(単位:mm)だが、最初は現在より一回りほど大きかった。

 サイズを見直したのは、よりスタイリッシュにするため。内部構造を見直しスイッチ類も減らしたほどだった。当初は電源スイッチとブザーのON/OFFスイッチが分かれていたが、小型化の一環で両者を一体化した。

 パーツで最も試行錯誤を重ねたのがクリップ。当初、使わない時は本体底面に折りたたんでピタッと収まるものを考えていた。しかし、タブレットなどのデバイスを挟む強度を担保できないことが分かり軌道修正。小型化した上で現在のように背面にやや斜めに取り付けた。

 「クリップは本体と同時進行で検討していましたが、一番時間がかかったところでした。決まるまでに数カ月はかかっています」と振り返る小島さん。「内部の仕組みやプログラムは結構単純だったものの、クリップのような物理的なパーツは大変でした」と明かす。

 このほかにクリップで苦心したことは、滑り止めと傷つけ防止のために設けられたシリコン製パーツの取り付けである。挟むとデバイス本体に触れるグレーの部分のことで、当初は薄いシートを貼る考えでいたが、使っていくうちに剥(は)がれる懸念が生じた。

 剥がれたら滑り止めと傷つけ防止という目的が達成できなくなり、見栄えも悪くなる。剥がれたシートを子どもが誤飲する恐れもあった。

 そこでデザイナーや協力会社と検討。シートを貼るのではなく、立体成型したパーツをはめ込む形にした。

●ECサイトでの売れ行きがいい理由

 売れ行きは今のところ、想定通りに推移しているという。店舗よりもECサイトでよく売れる傾向があるそうだ。

 ECサイトのほうがよく売れるというのは、当初から想定していたことだった。新規概念の商品のため実店舗よりECサイトのほうが買い求めやすく、商品も知ってもらいやすいからである。スマートフォンやタブレットなどのアクセサリーを子ども向けに売っているところや、学校向け商品の通販を行っているところの反応は総じていいそうだ。

 販促らしい販促は、これまで特に行ってこなかった。ただ最近になり、同社がX(旧Twitter)などSNSで発信した内容を店頭で紹介したい、ECサイトでページをつくるに当たり素材として活用したい、といった問い合わせがあることから、SNSで発信した情報を小売店やECサイトと共有することを始めた。

 主なユーザーの声は「こんな解決方法があったんだ」「こういうのが欲しかった」など。画面に顔が近づきすぎないようにできることに驚かれるという。

●生活者に寄り添うやさしい商品づくり

 キングジムはパイプ式ファイル「キングファイル」とラベルライター「テプラ」の2つを軸に、文具の枠にはまらない商品を多く世に送り出している。柔軟な発想からものづくりをしているが、そんな同社であっても「めまもりん」は2つの意味で珍しい商品であった。

 まず、ヘルスケアに関する商品であること。文具以外にもさまざまなカテゴリーの商品をつくってきた同社でも、ヘルスケアに関するものはほぼ開発した経験がない。とはいえ、社内ではヘルスケア関連の商品は時流に乗ったものと受け止められ、「めまもりん」の開発は好意的に捉えられた。

 そして、子どもがユーザーになる商品も同社にとっては珍しかった。キングファイルやテプラをはじめとした同社商品のユーザーは主に大人。小さな子どもが直接のユーザーになるものは、過去にわずかしかつくったことがなかった。「めまもりん」の発売をきっかけに、今後は子ども向けの商品の拡大も考えられる可能性が生まれた。

 小島さんは「当社の商品は最近、生活する上で分かりにくいことを分かりやすくするものが増えてきました」と明かす。「めまもりん」は、顔と画面の距離が近いことを注意しても分かってもらえないことに対し、視覚や聴覚を通して分かってもらえるようにしたもの。オフィスだけではなく、家庭でも使ってもらえる生活者に寄り添うやさしい商品をつくっていきたいという。

(大澤裕司)

キングジムの近視対策ライト「めまもりん」、特徴は?