藤井道人監督初の国際プロジェクトとなる日台合作映画『青春18×2 君へと続く道』が5月3日(金) に日本公開される。台湾の人気俳優シュー・グァンハンと実力派女優・清原果耶がW主演。日本と台湾を舞台に、初恋の記憶とともに、人生の岐路に立たされた主人公の旅を描いていく。旅の途中に出会う人々も、黒木華、道枝駿佑、松重豊黒木瞳といった主役級の俳優たち。すでに公開された台湾では大ヒットし、“今年最も泣けるラブストーリー”との呼び声高い作品だ。

『青春18×2 君へと続く道』

通称・江ノ電鎌倉高校前駅。改札を出てすぐの踏切は、アジアからの観光客の人気スポットだ。『スラムダンク』に登場するこの場所は、ファンにとって聖地。シュー・グァンハンが演じるこの映画の主人公、ジミーも、踏切がみえてきたとき「ああ、ここか。ここに来られたんだ」と微笑む。

ジミーは、台湾のゲーム業界で成功したのだが、突然、自分の立ち上げた会社のトップの座を追われ、失意のなかで日本を旅する36歳の台湾男性。そういう状況ではあるのだけれど、日本は、彼にとって、アニメやゲームオタクとしての“聖地”であり、18年前の、ある女性との思い出につながる、いわば自分の、原点ともいえる場所なのだ──。

アミ、という名の日本人女性(清原果耶)。台湾旅行中に財布をなくし、ジミーがバイトをしていたカラオケ屋に助けを求めて転がり込んできたバックパッカー。絵を描きながら世界中を旅するのが夢というアミに、ジミーは恋心を抱くが、なかなかその気持ちを伝えられない。18歳の夏、だった。

映画は、ジミー日本旅行を軸に、18年前に台湾でアミと過ごした日々の回想をインサートしていく。

原作は、台湾で出版され、話題になった『青春 18×2 日本慢車流浪記』という紀行エッセイ。慢車とは普通列車のこと、つまりこれは、日本のJRグループが出しているJR全線普通列車乗り放題の「青春18きっぷ」を使っての日本旅行記だ。

その旅行記をもとに、『牯嶺街〈クーリンチェ〉少年殺人事件』でデビューし、国際的スターとして活躍しているチャン・チェンが中心となり映画化。『新聞記者』『余命10年』の藤井道人が監督。脚本も担当した。祖父が台湾人という藤井監督は、台湾での映画制作が夢だったという。

映画の公式サイトには台湾、日本それぞれのロケMAPが掲載されているが、オールロケを敢行している。

撮影を手掛けたのは、米津玄師Lemon」のMVなど幅広く活躍し、藤井監督とも数々の作品でタッグを組んできた今村圭佑。その躍動感ある映像美たるや特筆ものである。

アミとジミーが、ふたり乗りのバイクで台南の街をデートをしたり、ランタン(天燈)上げに夢を託したりと、台湾映画へのオマージュともいえるシーンも多く、台湾旅行好きや台湾映画ファンにとってはたまらない魅力で満ちあふれている。

日本では、ジミーがアミのふるさと、福島県の北部、只見をめざす普通列車の旅。信州・松本、JR飯山線、上境駅から上桑名川駅の大雪原、長岡、そして只見と、これは鉄道ファンにとっても楽しいルートにちがいない。撮影にはJR東日本が全面協力。車内、車窓の風景、走る列車の遠景も旅情をかき立ててくれる。

ジミーが旅先で出会う人たち。これがまた、驚きのキャスト。豪華な役者が次々登場する。

松本で知り合った同じ台湾出身の居酒屋主人はジョセフチャン、「一休みは長い旅のため」という言葉を教えてくれる。長岡のネットカフェで出会う店員は黒木華、只見では松重豊黒木瞳。名優たちには、それぞれに心に残る名場面が用意されている。

特にすばらしいのが、飯山線で出会い、途中まで一緒に旅をする、道枝駿佑演じる18歳のバックパッカーとのシーンだ。天真爛漫な道枝の名セリフ、場所のセレクトも絶妙だ。ここでは雪が主役といってもいい。

雪といえば、岩井俊二監督の名作『Love Letter』も実に効果的に引用されている。南国・台湾の人にとって雪には特別な思いがあるのだろう。

主題歌を担当しているMr.Childrenも、それだけの存在ではない。実は、ミスチルの歌は、劇中でもおおきな役割をになっているのだ。これもお楽しみ。

というわけでこの映画、さまざまなファンを満足させてくれる魅力でいっぱいなのだが、いろいろなところに“人と人との縁”を感じる仕掛けが散りばめられている。肝心のドラマも感動的。つい、ボロ泣きです。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

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『青春18×2 君へと続く道』