―小4で「チャレンジングな経験」が多い子どもは高校生になっても「勉強が好き」などの結果―

 株式会社ベネッセコーポレーション(本社:岡山市、代表取締役社長:小林 仁)の社内シンクタンクであるベネッセ教育総合研究所は、学校で子どもたちが経験を通して学びを深める「探究的な学び」が広がっている背景を受けて、をまとめました。

 今回のデータは、小1~高3まで12学年の約2万組の親子の意識・行動の変化を、2015年から継続して追っている日本最大級の親子調査「子どもの生活と学びに関する親子調査」(東京大学社会科学研究所との共同プロジェクト)の調査結果を新たに分析したものです。結果からは、子どもが主体的・能動的に物事にかかわり行動を起こしていく「チャレンジングな経験」と、資質や能力との関係に以下の傾向が見られました。

【主な分析結果】

1.「チャレンジングな経験」の実態―9年間で「夢中・没頭の経験」と「達成・自信の経験」が減少

● 経年での変化:小4生から高3生の子どもに1年間に経験したことをたずねたところ、「夢中・没頭の経験」は7割から6割に、「達成・自信の経験」は4割から3割に減少していた。⇒図1

2.「チャレンジングな経験」とさまざまな資質・能力との関連

●「チャレンジングな経験」が多い子どもの特徴

1)非認知能力との関連:粘りづよさ、挑戦心などの非認知能力にかかわる項目を肯定。⇒図3

2)社会への関心・将来観との関連:社会への関心が高く、将来観が明確な傾向がみられる。⇒図4

3)自己肯定感・幸せ実感との関連:自己肯定感や幸せ実感が高い傾向。⇒図5

3.「チャレンジングな経験」と認知能力・成績との関連

●「チャレンジングな経験」が多い子どもの特徴

1)学習に関する意識との関連:「授業が楽しい」や「勉強が好き」を肯定する割合が高い。⇒図6

2)認知能力(得意)との関連:「暗記すること」や「論理的に考えること」などの認知的な活動を「得意」だと回答する割合が高い。⇒図7

3)学業成績との関連:相対的にみて、学業成績が良い子どもが多い。⇒図8

4.9年間の追跡―小4で「チャレンジングな経験」が多い子どもは高校生になっても「勉強が好き」

● 「勉強が好き」への継続的な影響:小4時点で「チャレンジングな経験」が多い子どもを9年間追跡したところ、高3時点まで一貫して「勉強が好き」を肯定する傾向がみられた。⇒図9

5.「チャレンジングな経験」の効果―「勉強が好き」「自己肯定感」「学業成績」「幸せ実感」を高める

●「チャレンジングな経験」の効果:「チャレンジングな経験」は、「勉強が好き」の意識、「自己肯定感」「学業成績」「幸せ実感」などのさまざまな要因に影響する。⇒図10

 今回の分析結果からは、「好奇心・探索」「果敢な挑戦」「夢中・没頭」「達成・自信」「将来を考える」といった子どもが主体的・能動的に物事にかかわり行動を起こしていく経験―「チャレンジングな経験」―が、さまざまな資質・能力と関連していることがわかりました。「チャレンジングな経験」が多い子どもは、“非認知能力”と呼ばれる資質・能力や自己肯定感、幸せ実感が高い傾向があります。また、学習に関する意識や行動、認知能力や学業成績とも関連がみられました。さらに、小学4年生の子どもを9年間追跡した分析からは、小4時点で「チャレンジングな経験」が多い子どもは、高3時点まで継続して「勉強が好き」と答える割合が高いことがわかりました。「チャレンジングな経験」を通して主体的・能動的に学ぶ経験は、子どものさまざまな資質・能力を高める可能性があります。こうした経験の重要性を踏まえて、ベネッセ教育総合研究所では、今後も子どもにとって有意義な学びのあり方を検討してまいります。

【資料編:経験を通して学ぶことの意味を考えるデータ】

※データはすべて「子どもの生活と学びに関する親子調査」→調査概要P.6参照

1.「チャレンジングな経験」の実態―9年間で「夢中・没頭の経験」と「達成・自信の経験」が減少

1)経年での変化

 小4生から高3生の子どもに1年間に経験したことをたずねたところ、「好奇心・探索の経験」と「果敢な挑戦の経験」は2~3割で横ばい、「将来を考える経験」は4割強で横ばいだったが、「夢中・没頭の経験」は7割から6割に、「達成・自信の経験」は4割から3割に減少していた。

図1:チャレンジングな経験(経年比較、小4~高3生) 【2015~23年データ】(%)


*「この1年くらいの間に、あなたは次のようなことを経験しましたか」という質問に対して選択した比率(複数選択)。

*2017年と20年は質問していない。また、項目によって「※」印の箇所は質問していない。

*小4~高3生の子どもの回答。数値は、小4~6生:中学生:高校生=1:1:1になるように重みづけを行った。

2)2群に分類

 「チャレンジングな経験」をどれくらいしているかによって、「多群」33.6%と「少群」66.5%に分類した。

図2:チャレンジングな経験(2群に分類、小4~高3生)【2023年データ】(%)


*5つの経験について、「あり」を1、「なし」を0として経験の数を合計した。

*小4~高3生の子ども(8,618名)の回答。数値は、小4~6生:中学生:高校生=1:1:1になるように重みづけを行った。

2.「チャレンジングな経験」とさまざまな資質・能力との関連

1)非認知能力との関連

 「チャレンジングな経験」が多い子ども(多群)は少ない子ども(少群)に比べて、「一度決めたことを最後までやりとげる」(粘りづよさ)、「難しいことや新しいことにいつも挑戦したい」(挑戦心)を肯定する割合が高い。「チャレンジングな経験」は、こうした非認知能力と関連がみられる。

図3:非認知能力(チャレンジングな経験別、小4~高3生)【2023年データ】(%)


*小4~高3生の子ども(8,618名)の回答。数値は、小4~6生:中学生:高校生=1:1:1になるように重みづけを行った。

2)社会への関心・将来観との関連

 「チャレンジングな経験」が多い子ども(多群)は少ない子ども(少群)に比べて、「社会の出来事やニュースへの関心が強い」(社会への関心)、「将来の目標がはっきりしている」(将来観)を肯定する割合が高い。「チャレンジングな経験」は、社会に対する見方や将来に対する考え方と関連している。

図4:社会への関心・将来観(チャレンジングな経験別、小4~高3生)【2023年データ】(%)


*小4~高3生の子ども(8,618名)の回答。数値は、小4~6生:中学生:高校生=1:1:1になるように重みづけを行った。

3)自己肯定感・幸せ実感との関連

 「チャレンジングな経験」が多い子ども(多群)は少ない子ども(少群)に比べて、「自分の良いところが何かを言うことができる」(自己肯定感)、「自分は今、幸せだ」(今の幸せ実感)を肯定する割合が高い。「チャレンジングな経験」は、自己認識や幸せ実感とも関連している。

図5:自己肯定感・幸せ実感(チャレンジングな経験別、小4~高3生)【2023年データ】(%)


*小4~高3生の子ども(8,618名)の回答。数値は、小4~6生:中学生:高校生=1:1:1になるように重みづけを行った。

3.「チャレンジングな経験」と認知能力・成績との関連

1)学習に関する意識との関連

 「チャレンジングな経験」が多い子ども(多群)は少ない子ども(少群)に比べて、「授業が楽しい」や「勉強が好き」を肯定する割合が高い。「チャレンジングな経験」は、学習に対する意識と関連している。

図6:学習に関する意識(チャレンジングな経験別、小4~高3生)【2023年データ】(%)


*小4~高3生の子ども(8,618名)の回答。数値は、小4~6生:中学生:高校生=1:1:1になるように重みづけを行った。

2)認知能力(得意)との関連

 「チャレンジングな経験」が多い子ども(多群)は少ない子ども(少群)に比べて、「暗記すること(ものを覚えること)」や「論理的に(筋道を立てて)考えること」に対して「得意」だと回答する割合が高い。「チャレンジングな経験」は、認知的な能力に対する自己評価とも関連がみられる。

図7:認知能力(得意)(チャレンジングな経験別、小4~高3生)【2023年データ】(%)


*小4~高3生の子ども(8,618名)の回答。数値は、小4~6生:中学生:高校生=1:1:1になるように重みづけを行った。

3)学業成績との関連

 「チャレンジングな経験」が多い子ども(多群)は少ない子ども(少群)に比べて、学業成績が良い傾向がみられる。多群は少群よりも「上位層」が多く、「下位層」が少ない。

図8:学業成績(チャレンジングな経験別、小4~高3生)【2023年データ】(%)


*小4~高3生の子ども(8,618名)の回答。数値は、小4~6生:中学生:高校生=1:1:1になるように重みづけを行った。

*学業成績は、国語、算数・数学、理科、社会、英語(小4生は除く)の5教科それぞれについて5段階で自己評価してもらった回答を合算し、上位層、中位層、下位層がそれぞれ三分の一になるように分割した。

4.9年間の追跡―小4で「チャレンジングな経験」が多い子どもは高校生になっても「勉強が好き」

1)「勉強が好き」への継続的な影響

 「チャレンジングな経験」が多い子ども(多群)は少ない子ども(少群)に比べて「勉強が好き」を肯定する割合が高いが、その傾向は成長しても続く。小4時点で「チャレンジングな経験」が多い子どもを9年間追跡したところ、高3時点まで一貫して「勉強が好き」を肯定する傾向がみられた。

図9:「勉強が好き」(小4生時点のチャレンジングな経験別)【2015~23年データ】(%)


*分析対象は2015年調査の小4生で1年間で経験したことに関する質問に回答があった1,332名。該当の小4生を高3生まで追跡した結果を示した。

*勉強が好きは、「とても好き」と「まあ好き」の合計(%)。✝ p p* p

5.「チャレンジングな経験」の効果―「勉強が好き」「自己肯定感」「学業成績」「幸せ実感」を高める

1)「チャレンジングな経験」の効果

 「チャレンジングな経験」は「勉強が好き」の意識、「自己肯定感」「学業成績」「幸せ実感」などのさまざまな要因に影響する。直接的な効果だけでなく、「勉強が好き」を経由して「学業成績」や「幸せ実感」を高めるといった間接的な効果もみられる。

図10:「チャレンジングな経験」の効果モデル(小4~高3生)【2023年データ】


*小4~高3生の子ども(8,618名)の回答を分析。

*χ2乗値=17.219 (df=1、p=0.000)、CFI=0.997、RMSEA=0.022。数値は標準化回帰係数。 *** p

*「チャレンジングな経験」は、この1年間の「好奇心・探索」「果敢な挑戦」「夢中・没頭」「達成・自信」「将来を考える」の5つの経験の数を合計した。自己肯定感は、「自分の良いところが何かを言うことができる」について「とてもあてはまる」4~「まったくあてはまらない」1とした。「勉強が好き」は、「勉強がどれくらい好きか」について「とても好き」4~「まったく好きではない」1とした。学業成績は、国語・算数/数学・理科・社会の5段階の成績の自己評価を合算した。「幸せ実感」は「自分は今、幸せだ」「自分は将来、幸せになれる」の2項目について、「とてもそう思う」4~「まったくそう思わない」1として合算した。

「詳細データ】 今回の分析の詳細なデータを、以下にまとめています。

URL:https://berd.benesse.jp/special/datachild/datashu06.php

【分析データ】

●子どもの生活と学びに関する親子調査(東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所による共同調査)

【調査テーマ】子どもの生活と学習に関する意識と実態(子ども調査)/保護者の子育て・教育に関する意識と実態(保護者調査)……同一の親子を対象に2015年から継続して追跡する縦断調査

【調査時期】各年7~9月

【調査方法】調査依頼は各回とも郵送で実施、回収は2015年郵送・WEB併用、16~20年郵送、21年郵送・WEB併用、22~23年WEB

【調査対象】各回とも約2万組の調査モニターに協力を依頼、発送数・回収数・回収率(%)は以下の通り


●本調査の詳細は、以下にまとめています。

 https://berd.benesse.jp/special/childedu/

ベネッセ教育総合研究所】

ベネッセ教育総合研究所は1980年に発足した株式会社ベネッセコーポレーションの社内シンクタンクです。子ども、保護者、学校・教員を対象に、さまざまな調査・研究を行っております。また教育内容や方法、評価測定などについても研究開発を進めています。調査・研究で得られた知見は、ベネッセ教育総合研究所のWebサイト(https://berd.benesse.jp/)にて公開し、子どもの成長・発達を取り巻く環境の改善に役立てていくように情報発信を行っています。


【本分析の担当】

●木村 治生(きむら・はるお)   ベネッセ教育総合研究所 調査研究室長・主席研究員

【分析協力】

●野澤 雄樹(のざわ・ゆうき)   ベネッセ教育総合研究所 所長

●松本 留奈(まつもと・るな)   ベネッセ教育総合研究所 主任研究員

●森永 純子(もりなが・じゅんこ) ベネッセ教育総合研究所 主任研究員

●中垣 眞紀(なかがき・まき)   元ベネッセ教育総合研究所 主任研究員

 ※所属・肩書は2024年4月現在

配信元企業:株式会社ベネッセホールディングス

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