旅客機は、前脚が胴体の中心に備わっているのが一般的なスタイルです。しかしかつて、この前脚が胴体中心より左にずれてついている旅客機が存在しました。なぜこのような設計が採用されたのでしょうか。

脚さえしまえば「わりと普通」なのに…

旅客機は、機首側についた車輪、つまり「前脚」が胴体の中心に備わっているのが一般的なスタイルです。しかしかつて、この前脚が胴体中心より左に約60cmずれてついている旅客機が存在しました。なぜこのような設計が採用されたのでしょうか。

その旅客機はホーカー・シドレー(現BAEシステムズ)のHS121型「トライデント」というモデルです。1962(昭和37)年に初飛行した3発のジェットエンジンとT字尾翼を備えた旅客機で、前脚がずれている以外は、ボーイング727や、旧ソ連のツポレフ設計局(当時)によるTu-154など、この時代のヒット機との外観の類似点が数多くあります。

なお、「トライデント」は、日本の航空会社での採用はなく、イギリスのBEA(英国欧州航空)や中国民航など数社が採用したのみ。製造された機数も727やTu-154には遠く及びませんでした。

しかし、「トライデント」は、当時としては画期的な操縦機能を有していました。

左ずれ前脚は「先進的すぎた」から?

そのひとつが、現行の旅客機の多くで一般的となっている自動着陸(オートランディング)装置。「トライデント」は、他社の旅客機に先んじてこの機能を導入したモデルのひとつたったのです。

しかし、当時、こういった先進的な機能を持つ電装部品を収めるには、大きなスペースが必要で、かつ操縦室近くの機首部分に置く必要がありました。そのスペースを確保するためには、前脚を片方に寄せる形式が好都合とのことで、これが、「トライデント」がユニークな前脚配置に至った最も大きな理由といわれています。

ちなみに、「トライデント」はその配置だけではなく、前脚のしまい方も独特です。多くの旅客機では、前、もしくは後ろに引き込まれるのに対し、この「トライデント」は横方向に引き込まれます。

ホーカー・シドレー「トライデント」2E型(画像:Hugh Llewelyn[CC BY-SA〈https://bit.ly/2Vh1bOa〉])。