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 昨日はOpenAIの日本法人設立が華々しく発表され、2011年のAWSの東京リージョン開設を思い出した。「歴史は繰り返す」というが、果たして生成AIも、クラウドと同じ道をなぞることができるのか? OpenAIはAWSのような業界をリードするプレイヤーになれるのか?ちょっと考察していきたい。

ひとまずは予定通りだったOpenAIの日本法人設立

 月曜日に行なわれたOpenAIの日本法人設立の発表会。現在の生成AIのブームを引き起こしたChatGPTの日本市場への本格進出であり、しかも日本法人の代表はAWSジャパンを長く率いてきた長崎忠雄氏ということで、メディアの注目度もピカイチだった。発表会の会場となった都内のホテルは開始30分前から報道陣が詰めかけ、関心の高さがうかがえた。

 ただ、日本法人設立も、社長の人事も事前に前週の段階で報道済みであり、驚きはあまりなかった。年末の退任騒動でますます有名になってしまったサム・アルトマンCEOも、今回は来日せず、ビデオでの登壇。ChatGPTファンにとってみれば、日本語に特化したカスタマイズモデルのリリースの方が高いニュースバリューだったかもしれない(関連記事:テーマは対話 OpenAI日本法人代表となった長崎忠雄氏が語ったこと)。

 日本法人設立の発表後は懇親会が行なわれ、記事でも書いた顧客やパートナーとの「対話」がさっそく行なわれた。12年半もAWSを率いてきた長崎氏ということで、当然ながら以前から付き合いのあるクラウドパートナーの参加が多かったようだ。実際、発表会で長崎氏は「生成AIは、クラウドコンピューティングの登場に似ている」と述べており、顧客やパートナーとの対話を通じて、AWSやクラウドのような普及フェーズをなぞっていく方向性が明らかに見える。

 確かに長崎氏の言うとおり、今の生成AIはクラウドコンピューティングの黎明期に似ているところがいくつもある。生成AIの未来を信じる熱狂的なアーリーアダプターが市場をリードし、有力な対抗馬がしのぎを削っている点は同じように見える。また、何回ものブームが来ては去り、ようやく実用フェーズにたどり着いたというのもクラウドとAIは似ている。ただ、クラウドの歴史をなぞっていくとすると、国産のAIプレイヤーはプロダクトでは外資に勝てず、インテグレーションやソリューション開発など別の道を模索する未来になるのだが。

満を持して日本進出したOpenAIがいるのは苛烈なAI市場

 一方、決定的に違っているのは、現在の生成AIはクラウドコンピューティングほど逆境のスタートではないということだ。AIの市場は、すでに機械学習から生成AIに至るまでの試行錯誤や成長過程があり、OpenAIも満を持してからの日本進出となる。OpenAIのChatGPTも2ヶ月で1億ユーザーを獲得しているコンシューマープロダクトであり、B2B前提で長らくサービスの理解すらままならなかったAWSとはターゲットも大きく異なる。

 今回のOpenAI日本法人設立の発表会も、記者の人数を制限するくらい多くのメディア関係者が集まり、日本を代表するトヨタ自動車のIT子会社から「ウェルカムジャパン」のエンドースをもらうという内容。昨夜の懇親会には多くの顧客やパートナーなどが集まり、今日は経済界や政府との交流も行なうのだという。当初「本屋のサーバー」と揶揄された初期のAWSから比べれば、OpenAIはこれ以上ないくらい恵まれた日本でのスタートだったと言える。

 ただ、この恵まれたスタートを切ったOpenAIが数年後にリードを保っているのかは不透明だ。生成AIがIT業界のみならず、社会や産業に大きな影響を与えていくのは間違いないが、その影響力の大きさから、大手IT、スタートアップも含めて、今のAI市場は群雄割拠がひしめく、壮絶なレッドオーシャンになっている。AntoropicのClaude3はChatGPTを超えると下馬評も高いし、MetaやGoogleのモデルも進化が速い。なんだかんだ早い段階で市場のリードをとったAWSと比べ、市場の苛烈さは異なるレベルに覚える。チャットボット以外、なかなか企業でのユースケースが拡がらない点も気になる。

 果たしてOpenAIが市場のリードするのであれば、きっかけはなにになるのか? 技術面での優位性か、先行者利益か、資金力か、人材か、コミュニティか、結局はそのすべてなのか? 「歴史は繰り返す」ということで、改めてクラウドやインターネットの歴史をひもといてみたい気になっている。

恵まれすぎたOpenAIの船出 生成AIはクラウドの歴史をなぞるのか?