【元記事をASCII.jpで読む】

 中百舌鳥エリア発のイノベーション創出に取り組む堺市が実施する、スタートアップや起業家、既存企業らを支援する各種プログラムの成果を2日間にわたり発表するデモデイイベント「中百舌鳥イノベーションミーティング」が、2月18、19日の2日間にわたり、インキュベーション施設「さかい新事業創造センター S-Cube」で開催された。4つ行われた発表会のうち、後編では「堺市スタートアップ実証推進事業」と「さかいアクセラレーションプログラム」の発表内容を紹介する。

リアルな場での実証だからこそ見えたビジネスの課題と今後の可能性

 中百舌鳥や泉北エリアをはじめとする市内にある公共施設などを、スタートアップのビジネスアイデアを検証する実証フィールドとして提供する「堺市スタートアップ実証推進事業『トライアルラウンドテーブル』」は今期で3回目となり、31の応募があった中から選択された4社の取り組みが発表された。

株式会社Zene「ゲノム解析プログラムZene360実証事業振り返り」

 ゲノム解析と法律に精通したディープテック型企業のZeneは、行動変容を促すことを目的としたヘルスケア遺伝子検査サービス「Zene360」を提供している。実証事業は、Zene360のオプションにあたる縄文人度解析を通じて、古代史リテラシーと健康リテラシーの向上につなげるというユニークな内容になっている。

 方法は中百舌鳥で行われたリアルイベントで検査キットを配布し、ゲノム検査の結果とあわせてアンケートを行ったところ、健康と古代史の両方に興味を持つきっかけになったといった好意的な意見が得られた。発表会ではアンケート結果の詳細も紹介され、縄文人度解析は自己のルーツや健康リテラシーの興味の喚起にある程度つながることがわかった。また、検体の回収率は配布数の約半分であったことやUI、UXなど、サービスの改善点も見えたとしている。

タイガー魔法瓶株式会社「『ICタグ付水筒』を用いた園外保育時の園児置き去りを防止サービス」

 創立から100周年を迎えたタイガー魔法瓶は、社会課題解決によるニーズ創出に向けて、ICタグ付水筒を用いたバスの置き去り防止サービスの実装に取り組んでいる。ICタグ読取リーダーとスマホで付添の先生が目視以外に自動で園児を確認でき、行き帰りで人数に差があるとアラートで通知し、離れた場所でも確認できる。堺市内のこども園で約2カ月の実証を行い、システムの精度や使い勝手などを検証したところ、システムの改善点や実用化のヒント、共創パートナーの募集から今後の展望までさまざまな発見につながった。

株式会社ルーアンライト「放課後の習いごとに『こどもだけの料理教室ゆめつぼ』の導入」

 調理動画を教材に、子どもが1人で冷蔵庫にあるもので料理ができるスキルを学べる独自メソッド「POSICOOK」を開発するルーアンライトは、運営する子どもだけの料理教室「ゆめつぼ」をフランチャイズ展開し、社会スキルを学ぶ場にすることを目指している。

 場所があれば加盟したいという声があったことから、堺市内の保育園と自治体の協力を得て、フランチャイズ化に必要なニーズ確認と料理メニューの検証、オペレーションの確認を行った。実証実験の様子は、地元CATVや地域で配布されるフリーペーパーで紹介され、サービスの認知にもつながる結果となった。

株式会社cizucu「地域住民とともに創りあげる魅力発掘・発信フォトコンテスト

 撮影した写真をストックフォトとして投稿できるコミュニティ・ストックフォトアプリ「cizucu(シズク)」は、素材を集めるために開催しているフォトコンテストをリアルな場とも連携し、マーケティングリサーチにもつなげるアイデアを検証した。「色」をテーマに堺市の魅力を住民や観光客から集めるフォトコンテストを開催し、オンラインとあわせて南海高野線の堺東駅で2週間の展示会を実施した。

 結果は、過去に500回以上行われたコンテストよりも応募数が増え、連動するインスタグラムのリーチも上がり、検証したいポイントもクリアできたという。アプリに使われるAIタグ付けなどの機能は自社で開発していることから、今後は生成AIの組み込みや開発に応用することも検討していきたいとしている。

 最後の講評では、今回検証された4社のアイデアはいずれも実装性が高く、自治体の協力やコミュニティとの連携によって雇用の創出につながる可能性もあるだろうとのコメントが寄せられた。地域の再発見という点でも堺市にとっては魅力あるプログラムとなっており、次年度も継続されることが予定されている。

伴走型アクセラレーションによる事業ブラッシュアップの成果を紹介

 さかいアクセラレーションプログラム「INNOVATORS BOOTCAMP in SAKAI」は、構想段階から事業計画の策定など各段階でハンズオンパートナーが一気通貫の伴走支援を行い、メンターとなる先輩起業家やVC(ベンチャーキャピタル)が持つノウハウやネットワークも提供されるという中身の濃いプログラムになっている。発表会では6組が登壇し、ビジネスアイデアと仮説を検証した結果を発表した。会場では販売している商品やサービスのデモも行われ、参加者との交流も大いに盛り上がっていた。

常磐精工株式会社「ものづくりを身近にするプラットフォーム『ATTA-TOSA FACTORY』」

 まもなく創業60年となる金属加工メーカー常磐精工でまもなく3代目に就任予定の喜井翔太郎氏は、製造業就業者の減少に対し、新規労働者を増やすサービスを立ち上げることに着目し、ものづくりの良さを知り、好きになってもらうきっかけとして、インターンシップや工場に招待するイベントを実施している。さらに、ものづくりを身近にするプラットフォームとして「ATTA-TOSA FACTORY(アッタトサ ファクトリー)」を立ち上げ、ものづくりアイデアをカタチにして販売することで、成功体験につなげる場にしている。

 若手社員のアイデアを製品化するクラウドファンディングや、関西大学とのコラボ製品開発を行い、さらに、独自開発のオリジナルフレームを用いた、拡張性の高いレゴブロックのようなものづくり体験キットの販売にも着手している。喜井氏はプログラムの参加で事業をブラッシュアップできたと言い、さらなる支援者を募集するために会場では製品を展示し、チラシを配布するなど積極的に動いていた。

株式会社三天被服「ご機嫌ワーク女子を増やす!~働く女性の職場環境改善に向けて~」

 2015年に起業した三天被服は、女性が求める心とカラダにやさしいワークウェアやオーダー製品の企画販売を行っている。作業服の開発で行ったヒアリングで生理の問題が大きな課題となっていたことから、2022年にフェムテック事業部を立ち上げ、製造業や職人、看護師など忙しく働くためなかなかトイレに行けない女性向けのオーバーショーツを開発している。

 代表の東谷麗子氏は、堺市のプログラムの参加で現状の自分を知り、強みを再認識することでマインチェンジができ、より多くの女性の課題解決に向けたフェムテック共創者となることを決意できたと話す。今後はものづくり企業と契約し、ワーク女子のコミュニティを創ることで、ご機嫌なワーク女子を増やしたいとしている。

株式会社バーチャルワーク「太陽光発電所の電力供給を安定化する新事業『みらモニ』」

 デスクワークを自動化するコンサルティングやIT商材を販売するバーチャルワークは、太陽光発電管理会社向けのデジタルツールやビジネス・プロセス・アウトソーシングを事業としている。産業用太陽光発電においては発電異常検知の精度向上が急務になっており、AIで異常を早期検知するクラウド型SaaS「みらモニ」を開発している。

 サービスでは適切な管理が難しい小規模発電所を対象にしており、代表取締役の田坂真彦氏はプログラムを通じて壁打ちで事業計画をブラッシュアップでき、今後はVCからの資金調達でも協力を得ることを予定していることを発表した。

kailo cake「イベント連動型介護食デザート提供サービス」

 大阪市内で洋菓子店kailo cakeを経営する恩智愛氏は、2年前から介護食品に携わり、介護食デザートに特価したサービスをこの2月に開始した。現在提供する「メルシープディング」は、無添加で嚥下しやすく、冷凍で納品することで冷蔵庫で解凍するだけで提供できる。

 オンラインで購入するとデザートのプロが提供するおやつにまつわるレクリエーションと、新聞風のイベントチラシのフォーマットが付いてくるため、施設側は業務を軽減しながら満足度の高いサービスが実現できる。実際の提供では完食率が100%ということで、今後は法人化と販路の開拓、ギフト販売、産学連携などの展開を計画している。

株式会社クレアフィールド「介護施設あるある 私の靴下はいずこへ」

 介護用名前シールやオーダーシールの製造販売を行うクレアフィールドでは、介護施設で衣服を見分けるために行われている名前シール付けや洗濯時の分別などが簡単になる布用の名前シール「布〜る」を開発している。アイロンなどを使わず手で衣服に貼ることができ、そのまま洗濯でき乾燥機も使える。

 製品としての完成度は高いため、プログラムでは多角的な営業活動を導入し、認知度や販売ルートを高める方法でアドバイスを受けた。結果的に施設での採用や業界の販売プロとのつながりができ、他の用途での受注もできたということであった。

アルティメット柔術クラブ「Comfort in Chaos-混乱の中の快適さ-」

 アルティメット柔術クラブではグレイシー柔術が提案するコロナ禍で混乱した時代の中で快適さを見つける「Find Comfort in The Chaos」というメッセージのもと、人生やビジネスで必要なマインドセットを柔術を通じて提供することをビジョンに掲げている。会場ではトレーニングセンターでヘッドインストラクターを務めるハタダ チアゴ氏が、実際にデモをしながらどのような考え方をするのかを紹介した。

 プログラムでは管理能力を身に付ける、つながりをつくる、メッセージを伝える、という3つのスキルを学び、事業として確立するための資金繰りや管理能力をメンタリングによる指導を受けた。その結果、財政状況が明確になり、新規雇用やマーケティングの展開ができるようになり、目標とする生徒数の獲得を達成できたとしている。また、一般に広げるための体験会を開催したり、イベントに貢献したり、さまざまな活動も実現でき、会場からはビジネスを成長させる追加のアドバイスなども寄せられた。

 本プログラムは通常業務と平行して、月に1回から2回集まって毎回ワークショップと発表を繰り返し半年以上かけて行うという、それなりにハードな内容ではあったが、それだけに発表者からは、目に見える結果につながったという声が聞かれた。締め括りとなる講評では、プログラムの運営を担当する監査法人トーマツとメンターから、各発表者がどのような思いでアクセラレーションに取り組んできたかという紹介や今後へのメッセージが送られ、ハンズオンによる深いところまで入り込んだ支援になっていたことが伝わってきた。

地域に新しい価値をもたらすアイデアが集結 4プログラムによるデモデイイベントを開催[後編]