徳島大正銀行香川銀行を傘下に持つ金融持株会社トモニホールディングス徳島県香川県大阪府を中心に、地域密着型の金融グループとして、堅調に収益を拡大している。日銀から転じ、2018年に社長に就任した中村武氏が進めてきた変革と、デフレ脱却後の地域金融機関の役割を聞いた。

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シリーズ「地域金融機関の今、未来」ラインアップ
第1回 茨城と栃木の産業特性のポテンシャルを最大に引き出す、めぶきFGの戦略とは?
第2回 めぶきFGトップに聞く、地域金融機関ならではの店舗網のあり方とデジタル戦略

第3回 東京きらぼしFGが競合ひしめく東京マーケットで見出した商機と勝ち筋
第4回 「UI銀行」を核に、東京きらぼしFGのデジタル戦略の狙いと成長へのシナリオ
第5回 京都FG社長が語る、持ち株会社移行で目指す「銀行のモデルチェンジ」
第6回 京都FGが挑む、「閉塞感」を打ち破るグループ社員の意識改革
■第7回 トモニHDがトップから現場まで一体で進める、地域密着型金融グループへの道(本稿)
■第8回 トモニHDが徳島大正銀行香川銀行の「2行体制」を堅持する2つの理由(4月16日配信予定)
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地銀では珍しかった「攻めの経営統合」

――中村さんは2017年に日銀を退職し、トモニホールディングスに入社されました。トモニホールディングスはどのような成り立ちの会社ですか。また、中村さんはどんな経緯でトモニホールディングスに移られたのでしょうか。

中村武氏(以下敬称略) トモニホールディングスは、2010年に徳島銀行香川銀行という2つの地銀が経営統合して誕生しました。その後、徳島銀行が大阪の旧大正銀行と合併し、徳島大正銀行となっています。

 2010年当時の地銀を取り巻く情勢は、1990年代バブル崩壊以降、長年続いていた経済の低迷により、全体としては厳しい経営状況が続いていました。その中で地銀の経営統合が続いていましたが、その多くは、どちらかに公的資金が入るのと同時に統合する、いわゆる「救済型」だったのに対し、当社は、そうではない「戦略型」の統合であり、異彩を放っていました。

 当時、徳島銀行の柿内愼市、香川銀行の遠山誠司という2人の頭取がこの経営統合をリードしたわけですが、現状に安住することなく、先手を打って変化していくという意志で経営統合を成し遂げました。

 その当時、私は日銀の高松支店長を務めており、両行から統合について説明を受ける立場にありました。話を聞いて、両トップからは統合に賭ける気概、強い意志を感じることができました。そのときの縁もあって声を掛けていただき、2017年にトモニホールディングスに入社し、2018年から社長を務めることになったという経緯です。

 貸出金の残高で見る当社の規模は、現在2行合わせて約3兆5000億円で、これは当地域の他の地銀でいうと百十四銀行とほぼ同じ、阿波銀行の約1.4倍になります。

――経営統合当時の2行の規模が、ほぼ同じだったことも、統合がスムーズに進んだ一因でしょうか。

中村 そうですね。両行が対等な形で持株会社アンブレラの下に入った形です。現在は旧大正銀行を加えた徳島大正銀行が、香川銀行の1.3倍ほどの規模になっていますが、両行の対等な関係は全く変わっていません。

「金利のある世界」の銀行に求められること

――現在の地方経済を取り巻く状況をどう見ていますか。

中村 今、長年続いてきたデフレ経済、ゼロ金利がようやく終わりを告げ、新しい段階に入ろうとしています。物価が上がり、賃金が上がり、そして「金利がある世界」へと日本社会が回帰する局面に入ったのです。

 企業経営者にとっては、例えば原材料費が上がるため、製品の価格転嫁が重要になると同時に、従業員の賃金を上げなければいけません。さらに、受けた融資に対して金利を支払うことも必要になります。

 これは、ある意味正常な経済に戻るということなのですが、異常な時代が長らく続いたため、もはや未知の世界と言ってもいいかもしれません。それだけに厳しくもあり、同時にチャンスでもあるということです。

 とりわけ、当社のメインの取引先である中小企業の経営にとって大きな影響があるため、当社のサポートも重要になると気を引き締めています。例えば、事業転換によって再び成長軌道に乗ることも可能になり、あるいはダメージをできるだけ小さくコントロールするという形もあります。

 当然、日本社会のより大きな構造変化である、少子化高齢化という課題もあります。徳島、香川の両県は、この15年間で人口が1割以上も減少しました。経営者の高齢化による事業承継のニーズも増加しています。

――いわゆる「失われた30年」で下落した株価は、ここにきて回復しましたが、その間に起こった構造的変化は大きいということですね。

中村 はい。事業支援にも新たな考え方が必要です。昭和の時代と決定的に違うのは、IT、デジタル技術の進展です。それによって生産性を圧倒的に向上する術は存在します。しかし、全ての企業がその力を等しく受け入れられるわけではありません。例えば、当地香川の地元交通である「ことでん」は、運転手不足からバス便を25%削減することを決めました。単純にデジタルに置き換えることができない問題もあります。

 個社の置かれている状況により、当然最適な解決策は異なります。万能な手段はなく、一つ一つ手作りしながら問題を解決していく必要がある。それが従来の事業支援との決定的な違いだと思います。

コロナ禍の若手の奮闘に希望を見た

――個社の状況は、どのように収集しているのですか。

中村 くしくも、コロナ禍が大きな契機になりました。2020年のコロナ感染拡大時、徳島大正、香川の両銀行は、「ゼロゼロ融資」などの制度を活用しながらお客さまを支援しようとしていました。ただ緊急事態の中、お客さまの現状をより正確につかむことが難しい状況でした。

 そこで、改めて全てのお客さまの状況を再確認することにしました。そこから上がってきた情報を、各銀行経由で、ホールディングスの私たちも確認することができました。

 現場の奮闘もあり、両行合わせて2万数千社のミクロの情報が、極めて短期間で集められました。それによって、個社に合わせたコロナ対策、事業支援ができたと思います。

 そしてコロナ後の現在、この情報は当社の大きな財産になっています。それまでは、金融緩和が続いたこともあり、お客さまとの距離が少し遠くなっていました。それがコロナによってぐっと近くなった。リアルタイムの情報を収集し、継続的な接点をつくり直すきっかけになったことは間違いありません。

 コロナの影響は甚大で、お客さまに大きな影を落としたことは事実ですが、コロナ禍のこの活動によって、今後の事業支援の基礎となるニーズの把握には大いに役立ったと思っています。

――ミクロの状況が分かったことで、行うことができた支援にはどんなものがあったのですか。

中村 徳島県では、コロナ禍で防護服が枯渇した際に、ある病院が農業用の不織布を使って、介護に使う簡易的な防護服を作ろうとしていました。しかし、不織布の布地は入手できたのですが、それを縫製する手だてがなく、困っていました。そこで徳島大正銀行の取引先で、縫製ができる会社を紹介して、防護服を作ったという例があります。

 また香川銀行の例では、コロナ禍で窮地に立った結婚式場の運営会社を、レストランとホテル事業中心の業態に転換する支援もいたしました。これらだけでなく、あのタイミングでお客さまと膝詰め談判で議論し、知恵を出し合うことで危機を乗り越えた事例は多数存在します。当社は銀行の立場で、必要な場合は融資も実施しながら、チャレンジを続けていました。

 コロナ禍の動きを見て、私が感じたのは、先ほどお話ししたミクロ情報の収集をはじめ、最前線の活動は、営業店の若い行員たちの力によるものが大きいということです。感染が拡大し、厳しく不安もある中で、若手が必死に情報を取ってきて、経営者と向き合うきっかけをつくってくれました。

 ホールディングスの社長として、私はこのことに誇りを感じています。同時に、当社グループの未来へ明るい希望を見ました。もちろん、彼らにとっても、非常事態のなかで経験した人間対人間のぶつかり合いは、代え難い成長の機会になったと思います。

大阪とのつながりを持った徳島、香川の特性

――トモニホールディングスは、徳島、香川の2県を中心とする金融グループです。この地域の経済にはどのような特徴があるのでしょうか。

中村 四国の東側に位置する徳島県香川県の経済は、異なる部分もありますが、両県に共通しているのは、大消費地である大阪に近いという地域特性です。古くから瀬戸内海淡路島を経由する形で人や物の行き来が多く、違和感なく大阪に出ていくことができました。

 大阪の弁天町に、古くから「弁天埠頭(ふとう)」という船着き場があり、水都大阪と四国の通商を支えていました。ここは、四国から多くの人が移り住んでいた地域でもあり、旧徳島銀行香川銀行とも、昭和40年代から支店を設けていました。以来、この地域では地場銀行のように地域密着のサービスを提供しています。

 このつながりをベースにして、大阪との関係を強化してきました。2020年に旧徳島銀行が大阪の地銀であった大正銀行と合併できたのも、こうした長い関係性の素地(そじ)があったからです。

――徳島、香川の両県は、地銀のマーケットとしてどんな違いがありますか。

中村 徳島は歴史的にみて、大塚製薬、日亜化学工業、ジャストシステムなど、小さな企業が創業し、大きく成長することを繰り返してきました。徳島が阿波と呼ばれていた時代から、「藍商人」が全国を行商して集めた富を生かして、小さな産業を育てる文化があります。

 香川は、瀬戸内海に面している立地を生かし、海運に関するビジネスが盛んです。造船は愛媛県を連想されるかもしれませんが、今治造船の日本最大のドックは香川県丸亀市にあります。隠れた地場産業ともいうべきものです。

 また、香川県は日本一面積が狭い県ですが、それに反して金融機関の数はかなり多く、銀行間の競争が激しい地域です。北から中国銀行などの金融機関が多くの拠点を置き、メガバンクの出先もそろっています。

 迎え撃つ側としては、差別化を図るため、より地域中小企業に密着して支援を行う必要があると思っています。これは香川だけでなく、徳島地域でも同じです。しっかりと与信を行いながら、ミドルリスクを引き受ける挑戦を続けます。

――旧大正銀行の地盤がある大阪エリアでも、中小企業ターゲットの中心ですか。

中村 はい。中小ビジネスという点では共通ですが、旧大正銀行は、不動産関連に強いという明確な特徴を持っていました。大阪の宅建ビジネスのおよそ1割が同行取扱いであり、小さいけれどニッチな強みです。宅建業は、何度も登記を書き換える作業が発生し、規模の割に手間がかかるため他行があまり手を出さなかったことで、明確な差別化ができていたと考えています。

 旧大正銀行を加えたトモニホールディングスは、中小企業に対してさらに強みを際立たせることができたと思っています。実際に、中小企業等への貸出比率は全国の地銀のトップ10に入ります。

――重点的に取り組んでいる業界、業種はありますか。

中村 グループ全体として、船舶関連に注力しています。特に外航船で、今後「環境対応船」への需要が期待されており、先行して環境対応船に取り組む企業への支援を拡大しています。2022年度に終了した当社の第4次経営計画では、当初約1500億円だった船舶関連の業種のポートフォリオを、4年間で約1000億円上積みできました。今後さらに増やしていきたいと思います。

 また、業種を問わずですが、新しい動きとして、法人に対して始めた「SDGs宣言策定支援コンサルティング」というサービスが非常に好評です。これは、お客さま企業の経営者の方の頭の中にある、SDGsについてのお考えを文書化するサービスなのですが、2022年度までに900件を超える引き合いがありました。

 このサービスは、単にヒアリングして文章にまとめるだけでなく、当社にとって大きな副産物があります。お客さまとやりとりをすることで、これから力を入れていこうとしている領域が分かります。例えば太陽光に注力することが分かれば、当社の別のお客さまで関連する事業者をご紹介し、ビジネスマッチングに進めることができます。また、サステナブルファイナンスの実績も着実に伸びており、2023年度は、上期ですでに、前年度通期の7割程度まで伸ばしています。

 一方、個人についても、ニーズが多様化しています。四国の北側の玄関口である香川県高松市は約40万の人口を抱えており、個人の金融ニーズも旺盛です。高齢化時代に対応し、老後資金の捻出するためのリバースモーゲージなど、新しいサービスを含めて提案力を強化していきます。

【後編に続く】
トモニHDが徳島大正銀行と香川銀行の「2行体制」を堅持する2つの理由

シリーズ「地域金融機関の今、未来」ラインアップ
第1回 茨城と栃木の産業特性のポテンシャルを最大に引き出す、めぶきFGの戦略とは?
第2回 めぶきFGトップに聞く、地域金融機関ならではの店舗網のあり方とデジタル戦略

第3回 東京きらぼしFGが競合ひしめく東京マーケットで見出した商機と勝ち筋
第4回 「UI銀行」を核に、東京きらぼしFGのデジタル戦略の狙いと成長へのシナリオ
第5回 京都FG社長が語る、持ち株会社移行で目指す「銀行のモデルチェンジ」
第6回 京都FGが挑む、「閉塞感」を打ち破るグループ社員の意識改革
■第7回 トモニHDがトップから現場まで一体で進める、地域密着型金融グループへの道(本稿)
■第8回 トモニHDが徳島大正銀行香川銀行の「2行体制」を堅持する2つの理由(4月16日配信予定)
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トモニホールディングス 代表取締役社長 兼 CEOの中村武氏(撮影:栗山主税)