近年、戦闘シーンやアクションが登場するバトルファンタジー作品が増加傾向にある。異能の主人公や圧倒的な力を誇る主人公や、その世界観にハマる人も多い。同ジャンルのヒットに一役買っているのが縦読みフルカラーマンガ・webtoonの存在では。韓国で制作された作品だけでなく、国内の作品も徐々に増えている。LINEマンガで先行配信中の『神血の救世主~0.00000001%を引き当て最強へ~』もその一つであり、LINEマンガにおける“国産 webtoon”作品の中で、2024年1月の月間販売金額1位を記録した。横読みマンガ出身という同作の作者・江藤俊司さんと担当編集・遠藤寛之さんに、躍進が加速している国産webtoonの現在地について聞いた。

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■かつてのiPhoneや各種SNSのように「国産webtoon黎明期の主人公」にしたかった

 イジメられっ子の主人公・有明透晴(ありあすばる)は、異界からの脅威に対抗する超人的存在・プレイヤーのなかでも、既存の金・銀・銅のどれでもない“虹”ランクのプレイヤーとして選ばれる。血液を自在に操るスキルを手に入れ、生活も立場も一変。戦い続ける日々のなかで、徐々に世界を救う存在“救世主”としての頭角を現していく。

――本作はどのような経緯で生まれましたか?

【江藤俊司さん】構想スタートは2021年夏からです。小説原作などがある作品ではないため、まず、既存のwebtoon作品を編集さんたちとリサーチした上で、「ソーシャルゲームライクにレアリティを担保するギミック」として『扉』、さらに、「その『扉』の中には何がある or いるのか…?」という順序で構想を固めていきました。物語が壮大になってきたので、折々で構想を補強&再設定し直すことはありますが、常に「透晴が救世主になっていく物語である」という主軸を突き通していくことを念頭に置いています。

――透晴がイジメられっ子だったという設定も、彼の成長ストーリーであることで読者への感情移入を促しているかと思います。キャラクター設定でこだわった点は?

【江藤俊司さん】透晴については、まず「世の中から軽視され、嘲笑さえ受けた存在が、むしろ世界を変えていく」という、大きなテーマを背負えるキャラクターにしようと考えました。発表当時のiPhoneや各種SNS、2021年当時の国産webtoonもそうですが、「新しくてよく分からないもの」が受け入れられ、台頭していく様子に重ねて描きたいと思ったからです。透晴の成長物語は、当時、これから増えていくであろう「国産webtoon黎明期の主人公」として相応しいと思いました。

――透晴の持つ“虹”ランクは、フルカラー縦読みにマッチしたwebtoon作品ならではの能力かと思います。異世界や超人的な能力の設定について、何かインスピレーションを受けたものはありますか?

【江藤俊司さん】『扉』のランクは、ソーシャルゲームライクな分かりやすさのための設定です。虹色が設定できるのは、フルカラーならではですので、個人的にとても気に入っています。超人的な能力の由来は、「人間よりも上位の存在に付与されたものだろう」という単純な想像からの逆算です。個々のスキルに関しては、私個人が能力バトルや歴史、神話が好きなのでその辺りの影響が色濃いと思います。

――逆にwebtoonで表現する難しさはありますか?

【江藤俊司さん】私は“横読み”出身ですので、やはり最初はwebtoonのコマ間の異様な広さや、見開き&横長のコマが使えないことに違和感がありました。ですが、「スワイプしてシームレスにスクロールしていく」という特性を理解して以降は、むしろ未開拓の表現を模索しながらスタイルを構築していけることに毎日面白さを感じています。スワイプ量を見越して、自由自在にテンポコントロールする楽しさは、横読み作品にはない強みであり、ネーム作家の腕の見せ所かと思います。

■webtoonヒット作の三大要素は「キャラ」「ドラマ」「サービス」

――「何度も読み返している」という読者コメントも散見されています。作品の世界観を構築する際のこだわりは?

【江藤俊司さん】相反するようですが、「無理して説明しない&出し惜しみしない」の2点です。特に序盤は、キャラクター表現&ストーリー進行に必要な情報以外はすべて削ぎ落として、バトル描写や世界観を感じてもらうことに注力しました。連載開始前、設定等はかなり詳細に詰めていましたが、物語の進行に合わせて、なるべく無理が生じないように補足しています。逆に、ストーリー内に出てくる謎や伏線などは、進行上どうしても開示できないものを除き、出し惜しみせず、可能な限り早く作中で回答&回収するようにしています。「なるべくモヤモヤを残さずワクワクしていただく」というのが基本方針です。

――担当編集として、遠藤さんが話の終わりや予告、次の話の始まりなどで心がけていることはありますか?

【遠藤寛之さん】話の終わりは「ヒキ」と呼ばれる部分で、ヒキは毎回すごく意識しています。「ワクワクするヒキになっているかどうか」はすごく意識していて、例えば「強敵が出てきてピンチ!」で終わるのではなく、その強敵に対して「主人公や味方キャラクターの逆転の一手を示唆」して終わらせることで、次の話での主人公の活躍に期待感を持つことが出来ます。読者の方は「ヒキ」に対して、このあとどんな楽しい読書体験が待っているのか、を期待しているので、それをイメージしやすいようなヒキにするのが大切だと思います。話の始まりの部分は「掴み」と呼ばれる部分で、ここではその話での「達成コンセプト」や「キャラの行動目的」を見せることで、読者の方がその話に何を期待して読めばいいのかを示唆することを心がけています。

――LINEマンガだけでなく、近年バトルファンタジー作品はかなり増えている傾向にあります。他の作品との差別化や読者をひきつける要素など、この作品独自でこだわった点はありますか?

【江藤俊司さん】差別化というほどではありませんが、意識したのは、「主人公である透晴以外のキャラクターも愛して欲しい!」という気持ちで登場人物を増やし、キャラクターを立てていったことだと思います。結果、透晴と同等、場合によっては透晴を凌ぐ人気を獲得するキャラクターが多数出て来ました。多様な世界観や人生観を表現するには、“良い”登場人物が多数必要になりますので、現在のスタイルを選んで正解だったと思っています。

――編集者の視点ではいかがでしょう?

【遠藤寛之さん】ヒットする作品には「キャラ」「ドラマ」「サービス」が三大要素としてすごく大切だなと思っていて『神血の救世主』はこの3つがきちんとバランスよく配合されていると思っており、それが人気につながっていると分析しています。特に「キャラ」や「ドラマ」はすごく意識しています。初期リリース話数である15話くらいまでの部分はwebtoonという市場で勝負する上で、人気傾向のある主人公の活躍に集約するような展開を意識していました。ですが、リリース直後に一定の反響を得て、長く続けられそうな兆しが見えてからは、長期連載に耐えうるようなキャラクター人気の獲得に舵を切っていったことで、結果差別化と人気につながっていったのかなと思います。

――三大要素の「サービス」についても聞かせください。

【遠藤寛之さん】例えばwebtoonのヒット作でよく見られる「ド派手なエフェクトを用いた画作りによる主人公の無双展開」などは読者へのサービスとなり、その部分に期待して読まれている方も多いと思います。『神血の救世主』の場合はそこからさらに味方のキャラクターに「読者の方が喜ぶギャップ」を持たせてキャラクターを立たせたり、キャラクターの対立や過去を描いてドラマを生み出したりすることで、キャラやドラマ自体が読者にとってのサービスとなるような展開を心がけています。

■読者にはwebtoonかどうかは関係ない「作品として人気になってほしい」

――本作は、LINEマンガにおける国産webtoon 作品の中で、2024年1月の月間販売金額位を記録しました。コメント欄に「LINEマンガの看板作品になるのでは」という熱い声も多く、回を重ねるごとにファンも拡大していっています。

【江藤俊司さん】大変、本当に有り難いことだと思っています。数字や金額が作品の価値のすべてではないことは理解しつつ、それでもチーム全員の成果として、たくさんの方にお読みいただいているという事実が、ただただ嬉しいです。

――読者からの反響で印象に残っていることはありますか?

【江藤俊司さん】透晴と大我の決着について、肯定と否定、どちらも大量のコメントをくださったことです。好き嫌いを超えた、コメントいただいた皆さまそれぞれの価値観を表明いただいているようで、こういったことはなかなか起こらない光栄なことと思い、「ここまで描いてきて本当に良かったなぁ」と強く感じました。

――国産webtoonの躍進が加速していると感じますが、国産webtoon作品を担当する編集から見て、今後目指していきたい目標があれば教えていただけますか?

【遠藤寛之さん】まずは「国産」という枕言葉なしで「全webtoonの中で1位」と言えるような実績をつくりたいなと思っています。そのためには長期連載に耐えうるストーリーやキャラ作りはもちろん、グローバルでの配信や人気の獲得も重要になってきますし、より多くの読者の方に届けるためのアニメ化などのメディアミックスも重要だと考えています。その次は「webtoon」という枠を超えて人気になる作品になればいいなと思います。読者の方にとっては作品を読んだ時に楽しめるかどうかが大切なのであり「webtoonかどうか」というのは関係ないと思っています。作品の編集をする時も「webtoonとしてどうか」以上に「作劇として魅力的かどうか」はいつも意識しています。

――webtoon作品は躍進はしているものの、感覚としては“まだ始まったばかり”という人も多いのでは。今後根付かせていく上で、必要なことは何だと思いますか?

【遠藤寛之さん】大切なのは「フラッグシップになるような作品」だと思います。魅力的で面白い作品があれば読者の方も読んでみようと思うでしょうし、クリエイターさんも可能性を感じて制作に参入してくれるはずです。そうしてプレイヤーがどんどん増えいくことで市場が形成されていくのではないでしょうか。『神血の救世主』がそのフラッグシップになればいいなという思いはずっとあります!

イジメられっ子の主人公が救世主に『神血の救世主~0.00000001%を引き当て最強へ~』(C)江藤俊司/疾狼/3rd Ie/ナンバーナイン