●イメージそのものが頼りにされている
きょう17日、日本テレビの新番組『世界頂グルメ』(毎週水曜22:00~)がスタートする。同番組のレギュラー放送化が報じられたとき、「世界中の“地元メシ”を紹介する」という内容以上に注目を集めたのは、ハライチとともに佐藤栞里がMCを務めること。

佐藤は今春の編成によって、19時台の『有吉の壁』、20時台の『1億人の大質問!? 笑ってコラえて!』、そして22時台の『世界頂グルメ』と、日テレの水曜ゴールデン・プライム帯4番組中で3番組のMCを務めることになる。

特筆すべきはその地道な足取り。『笑ってコラえて!』のサブMC就任が2015年10月、アシスタントMCを務める『有吉の壁』のレギュラー化が2020年4月、MCを務める『世界頂グルメ』のレギュラー化が2024年4月と、時間をかけて“水曜の顔”となったことが分かるだろう。

なぜ、佐藤栞里は日テレの“水曜の顔”となれたのか。テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。

○今も変わらぬ「ハシゴ酒」の好印象

佐藤のタレントイメージが「感じがいい」「親しみやすい」であることは、業界関係者のみならず世間の人々も分かっているのではないか。

振り返ると、佐藤がテレビの世界で脚光を浴びたのは『笑ってコラえて!』の「朝までハシゴの旅」だった。夜の酒場で初対面の人々と、よくお酒を飲み、気さくに言葉をかわす姿を見せて好感度が急上昇。同番組のサブMCに抜てきされたが、それから約10年がすぎた今も、当時の印象からほとんど変わっていない。

その他の番組でも、『沸騰ワード10』では“立ち食い”への偏愛を見せ、『ヒルナンデス!』ではモデルながら前髪のセルフカットに挑戦するなど、主に日テレの番組で好感度が上がる振る舞いを連発。

「謙虚で気取ったところがない」「誰かを攻撃するようなことは言わない」「幸せオーラや色気を出しすぎていない」「芸能界やバラエティに染まっていない」など、女性タレントが嫌われる要素がまったく見当たらないクリーンなイメージが定着していった。特に日テレが求めるコア層(13~49歳)、なかでも女性層やファミリー層から嫌われづらいことが重用の背景にある。

実際、佐藤はどの年齢層からも一定の好感度があり、悪口を言われづらいキャラクターのため、作り手たちがバラエティにありがちなトークの対立構図に佐藤を組み込むことはない。つまり、笑いにつなげる技術やコメント力を求めるのではなく、佐藤のイメージそのものを頼りにしているのだろう。
○大物たちに認められ中高年層にも強い

次に、佐藤を起用する映像面での効果も見逃せない。これは彼女に限った話ではないが、バラエティの出演者には楽しげなムードを醸し出す上で笑顔が重要であり、特にコロナ禍以降はその傾向が増している。

その点、常に笑顔の印象がある上に、笑いどころでは大きな口を開け、目尻を下げまくって笑う佐藤はそのシンボリックな存在。なかでも働く人々にとって水曜の夜は、休み明けの月曜から3日目で疲れが出始めるころだけに、笑顔による癒やしの効果は大きい。

彼女の笑顔は視聴者だけでなく、共演者の笑顔も誘っている。『有吉の壁』の出演芸人たちが佐藤の笑顔から元気と安心感を得ていることからも、それが分かるだろう。

さらに、共演者という観点では、『笑ってコラえて!』の所ジョージ、『ヒルナンデス!』の南原清隆、『世界一受けたい授業』の堺正章などの大物たちに認められてきたことが彼女の武器となっている。これは長年その大物たちを支持してきた視聴者からも認められ、中高年層にも強いということではないか。

●女性MCは「親しみやすさ」重視に
ここまで挙げてきた佐藤に関するポジティブなイメージは、MCというポストに置くことで「=番組の印象」となる。これまでバラエティのサブMCやアシスタントMCを務める女性タレントは優香、小島瑠璃子新井恵理那、あるいはアイドルやアナウンサーなどビジュアル優先のキャスティングが基本だった。

また、『王様のブランチ』(TBS)の女性MCが優香、本仮屋ユイカ新川優愛という女優路線から佐藤に変わったことを見ても、求められるものが「親しみやすさ」重視に移ったことが分かるのではないか。

なかでも日テレは、バラエティの女性進行役に水卜麻美、岩田絵理奈、市來玲奈など、親しみやすいタイプのアナウンサーを起用する傾向があった。今春の動きを見ても佐藤だけでなく、34年ぶりのゴールデン帯音楽番組『with MUSIC』のMCに親しみやすいタイプの有働由美子を起用している。

一方、他局に目を向けて見ると、現在放送中の朝ドラ虎に翼』(NHK総合)主演の伊藤沙莉も「親しみやすさ」を評価されるタイプであり、現在の視聴者感情に合う存在なのだろう。
○実は芸歴24年目のキャリアを誇る

ただ、佐藤栞里のようなタレントばかりそろえてもバラエティは面白いものにはなりづらいのも事実であり、「さまざまなタイプをそろえる中で、安心感や好感度を担うポジションを託している」のが本当のところだろう。

例えば『有吉の壁』は、毒舌の有吉弘行や必死な芸人たちの姿があるからこそ佐藤の親しみやすさが生きるし、『笑ってコラえて!』も主役は全国各地の一般人だからこそMCには笑顔で見守る佐藤の存在がハマりやすい。「他局より出演者の人数が多く、編集にこだわって笑いどころを詰め込む」と言われる日テレのバラエティにとって佐藤の存在は「面白そうな番組」というムードを作る上で大きいのではないか。

それにしても決して皮肉ではなく、取り立ててトークやリアクションに秀でているわけでもない女性タレントが、これだけ長く多くの番組でMCを務められるのは快挙と言っていいかもしれない。

ただ、芸歴24年目もの長いキャリアを持つ佐藤は単に「感じがいい」「親しみやすい」だけのタレントではない。小学生のころから大人に囲まれた中でモデルを務め続け、数々の現場で礼儀やプロ意識などを学び、制作側の意図を汲み取る力を培ってきた。実際、佐藤が昨年7月まで11年にわたってモデルを務めたファッション誌『MORE』(集英社)の編集者たちと話したとき、彼女の対応力や協調性を称える言葉を聞いたことがある。

佐藤の出演番組をよく見ていると、笑顔で見守っているだけでなく、何げない言葉で台本を進めたり、話を展開させたりなど、裏回しのような言葉を発していることが少なくない。さらに、MCを務める番組ですらMCというより裏回しのような佇まいで振る舞えることが、自然体で謙虚な印象を保っているようにも見える。

「他の出演者よりどう目立つか、どう爪跡を残すか」を考えるタレントが多い中、佐藤のような存在は希少なだけに、今春の起用で日テレとの関係性はさらに深まっていくのではないか。

木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら
(木村隆志)

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