春たけなわの北京。「霞の衣」と題したいけばなの展示会が市内のデパートで行われました。展示されたのは、池坊北京華月学会(日本語表記「池坊北京華月スダディグループ」)の先生と弟子たちによる43点の作品。560年余りの歴史を有する池坊の全スタイルである「立花(りっか)」「生花(しょうか)」「自由花(じゆうか)」が網羅されていました。

2019年に発足した同団体による一般向けの花展の開催は、2022年秋に続いて今回が2回目です。俳句の季語である「霞の衣」をテーマに選んだのは、総監督を務める北京在住の池坊華道総華督・堀江森月さん(61歳)。堀江さんは「さくらが満開の吉野山」をイメージして準備に取り組んできたとしながら、「柳の新芽の柔らかいグリーンが美しく、桃や杏の花が一斉に咲き誇る北京の春も愛でたい」との思いを語りました。

会場は前回同様、デパート側が無料で提供したものです。大学や研究所が密集する海淀区というエリアは、外国の文化に興味があり、文化的素養も高い客層が多いことで知られています。総経理の胡綺年氏は、花展について「匠のこころが生み出した美の宴」と褒め称え、「中国に源流を持つ華道の歴史、伝統文化を現代の暮らしに広めていくためにも、日本で多くの工夫が行われていることを、より多くのお客様に伝えていきたい」と花展の意義を前向きに評価しました。

13日午前に行われた開幕式とテープカットには、金杉憲治日本大使も出席しました。金杉大使は「日本の伝統文化がこうした形で中国の皆様に愛されることは喜ばしいことだ」と挨拶し、花展が日中の相互理解を深めるきっかけとなることに期待を寄せました。そして、花展を見学した後、「日本と中国はつながっていると実感しました。中国で生まれ育ったものが日本に伝わって、また違う育ち方をしている。そういう交流のあり方が日本と中国の関係では好ましいと思います」と感想を述べました。

会場では、作品に関する解説だけでなく、池坊の歴史に関する講義や、無料体験レッスンも実施されました。


参加者からは「知識が深まっただけでなく、実際に花をいけて、美を作り出せたことがとても楽しかった」「いけばなは余白のアートだと実感できました」「花をいける時に、取捨が大事だと初めて知りました」「美を愛でる気持ちに国などは関係ない」といった声が寄せられました。

さて、北京でいけばなを教える人、学ぶ人は一体どのような人たちなのか。彼らは花を介して、どのような対話と交流をしているのか、花展の会場で取材しました。

【堀江森月さん】吉野山のさくらも北京の枝垂れ柳も愛でたい

池坊北京華月スタディグループ代表の堀江森月さんは兵庫県出身の日本育ち。中国と縁を結んだきっかけは、「日中友好」がライフワークの父親が勧めた北京留学でした。そして、当時知り合った中国人の男性と結婚し、日本での暮らしを経て、2005年に生活の拠点を北京に移しました。

はじめはすべてが手探り状態。花屋に間借りをし、いけばなを教え始めたのは2009年でした。中国経済の高度成長を背景に、茶や伝統文化に目覚める人が増えたのと歩みを同じくして、自分の教室を開いた生徒さんの教室も含めてグループの教室は3ヶ所に増えました。この三つの教室が連携して2019年に「池坊北京華月学会」が発足しました。

堀江さんの作品

生徒は脚本家、経営者、フリーランス、美術教師など、職業はまちまち。日本のサブカルチャーから来た人もいれば、東洋の伝統思想や西洋のクラシックアートに興味がある人もいます。人数は多少の増減はあるものの、最近は30人あまりに落ち着いていそうです。

「高尚な目標なんてない。ただ、毎回のお稽古をみんなが一生懸命やってここまで来た」と、堀江さんは2回目の花展の開催に際して感想を語りました。

そう語る一方で、不意に涙もろい一面を見せる場面も。堀江さんは2年前の秋の花展で、メディアの取材を受けた際、コロナ禍で帰国がままならず、父の最期を見とれなかったことを思い出し、ポロポロと涙をこぼしていました。そして、今回、主催者代表として挨拶に上がったときにも、マイクを握ったまま、数十秒も言葉を詰まらせていました。

その時に胸に込み上げてきたものは何かと聞くと、「もう無我夢中でした。一つ一つの課題を自分たちで解決してきて、やっとこの日を迎えることができたんです」と心の内を明かしてくれました。

今回の展示会の開催も、すべてが自分たちの手作りでした。ポスター、会場のレイアウトデパート入口の飾り付はもちろん、ゲストたちが胸につける生花のコサージュも、動画共有サイトで作り方を調べ、クリップなどの材料は通販サイトのタオバオで調達して、皆で力を合わせて間に合わせました。

一番の目玉である出展作品も、開催前日に会場で弟子たちと一緒に完成させたものです。作業は日付が変わるまで続き、深夜1時半になって、ようやく最後の一人が会場を離れました。花材の面でも困難に見舞われました。寒暖の差が激しかった今年の気候の影響もあり、予約していた花材が入手できず、ギリギリまで何ができるかさえわからなかったそうです。

今後については、「入門者や初心者を教え続けていく。コツコツと裾野を広げていければ、それがまた一つの力になる」と抱負を語りました。

「両親が日中友好に関することをずっとやっていたので、今回の花展が少しでもそういう力になれたのなら、ちょっと自分を褒めてもいいかなという気になりました」

最後にお弟子さんたちの作品の評価を聞いてみると……。

「みんな本当に一生懸命いけているので、100点だと思います」とにっこりと笑顔で答えてくれました。(提供/CRI)

北京市内のデパートで「霞の衣」をテーマに花展が開かれました。俳句の季語である「霞の衣」をテーマに選んだのは、池坊総華督の堀江森月さん。花展に込めた思いについてマイクを向けてみました。