夜の暗い道を照らす道路灯は、車両のドライバーや歩行者の視界を確保することで安全をもたらす役割を担っている。しかしその道路灯は今や、ただの“明かり”としてだけでなく、情報伝達などの新たな役割も担う「スマート道路灯」へと進化を遂げている最中だ。

さまざまな技術が必要となるスマート道路灯の開発については、電気やセンサ、通信、そしてバーチャルツインなどあらゆる領域で知見を持つ4つの企業が協力。そして2023年には、静岡県裾野市を舞台に実証実験が行われるなど、社会実装に向けた取り組みが加速している。

そんな中、実証の場となっている裾野市長やプロジェクトに参画する企業に対して、新たなアイデアを提案した学生たちがいる。ある日の裾野市役所には、京都女子大学の学生18名が訪れ、大人たちを前にスマート道路灯の活用可能性についてプレゼンテーションを行った。将来を担う学生たちは開発中の新技術をどう活用するのか、その発想に迫る。
裾野市を舞台に4社がスマート道路灯の実証を実施

「日本一市民目線の市役所」をスローガンに掲げる裾野市では、2025年までの交通事故による死亡者ゼロ、年間人身事故発生件数200件以下という目標の達成に向け、歩行空間のユニバーサルデザイン化や先進技術の導入、データの利活用などといった“未来都市化”の取り組みを進めている。

その一環で裾野市は、スタンレー電気、加賀FEI、NTTコミュニケーションズ(NTT Com)、ダッソー・システムズと共同で、“スマート道路灯”を活用した路面凍結による交通事故削減に向けた実証実験を2023年2月より実施。裾野市のリアルフィールドを活用した同実証では、路面に「凍結注意」の文字を描画することで、車両のスリップ事故や歩行者の転倒などの事故に対する防止効果を検証したという。

またこのスマート道路灯は、灯具機能や路面描画機能に加え、エッジAIカメラや環境センサなども搭載しており、常時ネットワークにも接続していることから、交通状態の把握や予測、さらに道路灯自体の故障や不点灯などの監視の効率化にも貢献するとのこと。またそれに限らず、収集データを基にしてバーチャルツインを構築しシナリオ分析を行えるなど、さまざまな活用可能性・発展性が期待できるとする。
○発表したのは京都女子大学データサイエンス学部の学生たち

このようにさまざまなメリットにつながりうるスマート道路灯について、今回その可能性の探索に携わったのが、京都女子大データサイエンス学部の学生たちだ。

京都女子大のデータサイエンス学部は、2023年4月に開設されたばかりの学部。その名の通り、データサイエンスの基盤となる分野を学ぶとともに、社会の課題を洞察し解決に向けてデータサイエンスを応用できる人材を育成することが目指されている。なお同学部は、2023年9月にダッソー・システムズとの間で連携・協力していく包括的協定を締結し、データサイエンス教育やIT人材の育成、さらにITを活用した街づくりへの貢献に向けた連携を行っており、スマート道路灯に関する実証実験に参画していたダッソー・システムズを介した産学連携の一環としてプロジェクトに参画した。

今回のプロジェクトにおいて、京都女子大では、スマート道路灯の活用法・発展性についてアイデア出しを行うワークショップを開催したとのこと。文字やアイコンを描画する“照射機能”、AIカメラやセンサを活用した“センシング機能”のそれぞれについて考えながら、最後にはそれらを組み合わせた“複合シナリオ”として、効果的な活用方法を探ってきた。

そして今回、ワークショップでディスカッションを行った8グループのうち代表者の学生たちが参加し、プロジェクトに参画する事業者の前で実際にプレゼンテーションを実施。裾野市長の村田悠(はるかぜ)氏やダッソー・システムズのフィリップ・ゴドブ代表取締役社長などが見守る中、スマート道路灯の新たな可能性を提案したのだ。

○交通安全に限らない活用方法 - 街づくりへの貢献も

今回のプレゼンテーションに参加したのは、8グループ合計で18名の学生。プレゼンテーションのテーマは「スマート道路灯とローカル5Gを用いた交通安全課題の解決を目指す実証事業」で、スマート道路灯が持つ特徴を整理しながら、解決すべき課題やそのアプローチについて発表された。

8グループすべてがスマート道路灯の特徴として重視していたのが、表示内容を“リアルタイム”で変更できる点だった。従来の道路灯では明かりとなるだけだったのが、これからは情報伝達の役割も担えるようになる上、ローカル5Gの活用によって常時通信が可能であることも、想像の幅を大きく広げたようだ。しかし、その活用方法については、さまざまな角度が見られた。

ドライバーの安全運転を助けるという目的で多く提案されたのは、天候情報や道路状態など時々刻々と変化する状況を伝える機能。路面凍結をはじめとする状態をセンシングし、わかりやすく伝えることが必要だという。また、渋滞情報なども通知できれば効率的な運転にもつながる、というアイデアも見られ、非常時の交通整備についても活用できる可能性が提案された。さらにその表示方法についても、路面への描画に限らず、車に搭載されたカーナビとの通信が効果的、という意見もあった。

一方で違った角度からのアプローチとして、“街づくりへの活用”という方向性も。文字情報に限らずさまざまな描画が可能であることから、広告の表示やキャラクターとのコラボレーションなどエンターテインメント性への期待があるようで、中には裾野市という土地柄から富士山と絡めたり、「スポーツツーリズム」への活用を構想するグループもあった。

これらのほかにも、安全確保という側面では、道路周辺の動物を監視し、さらには音や光で追い払うという案や、不審者監視に活用するという“交通”の枠を越えた街の保全も提示された。またスマート道路灯が持つ特徴でもある「エネルギー効率の高さ」に着目するグループもあり、サステナビリティへの関心の高さもうかがえた。

○若者の意見も活かし今後も新技術の社会実装に挑戦

プレゼンテーションを終え、村田市長からフィードバックが述べられた。裾野市では実際に動物が原因となる交通事故リスクがあることから、動物の飛び出しへの対策に関する提案が印象に残ったとのこと。また車に限らず、災害時の避難所への案内など歩行者に対する活用可能性の提案も、新たな気付きになったようだった。

村田市長は、実証実験に参加した4社への感謝を述べながら「今後もこうした交通システムの構築や社会インフラの整備を進めるため、裾野市を実証の場として使っていくことをお約束する」とコメント。今後も新たなアイデアを試し、そして社会課題の解決へと貢献していく場としていく姿勢を見せた。

将来の社会インフラにするために企業同士が協力して実証を行うスマート道路灯。そんな新技術を作っている最中の事業者、そして自治体の首長を目の前に、その活用方法を提案するこの機会は、学生たちにとって貴重な実学の機会になったことだろう。一方で事業者側としても、将来を担う若者たちのアイデアから新たな気付きを得ながら、人材育成にもつなげることができる。新たなテクノロジーを媒介とした産学連携の機会が、教育としてさまざまなメリットを提供するとともに、産業に対しても大きなブレイクスルーを生み出すかもしれない。
(鶴海大輔)

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