■新聞の総広告費はピーク時の2割台に激減

底なしの落ち込みにあえぐ新聞広告の窮状を打開しようと、日本新聞協会が新聞広告とネットの連携について初めて本格的な調査を行い、「新聞広告とネットの組み合わせで相乗効果を発揮できる」とする報告書を3月末にまとめた。

メディアの広告市場は、グーグルやヤフーに代表されるネット広告が席巻し、新聞の総広告費はピーク時(1990年)の1兆3593億円から、2020年には4000億円を割り込んで2割台にまで激減、さらに縮小トレンドが続いている(2023年は3512億円)。

広告媒体としての新聞力が著しく低下し、新聞全盛時代のような広告効果を見込めない中、ライバルと目してきたネットとの協業で活路を開こうという訴えからは、新聞界の藁にもすがりたい必死さが伝わってくる。悲鳴にも似た叫びは、はたして広告主を新聞広告に振り向かせることにつなげられるだろうか。

■報告書に書かれた新聞業界の悲痛な叫び

新聞協会の報告書を精査してみる。もっとも、新聞界の視点に立った調査であることを事前に指摘しておきたい。

新聞×ネットが生み出す広告シナジー~多メディア時代における新聞の役割とメディア接触者の動向調査」と銘打った今回の調査は、2023年秋、全国の15歳以上79歳以下の男女1200人を対象に実施。調査対象者を、メディアの利用実態に応じて①新聞・ネット利用者②新聞・テレビ利用者③テレビ・ネット利用者④ネット利用者⑤テレビ利用者または全部使わない人の5群に分けて、それぞれの意識や行動を調べたことが特徴だ。

新聞広告が「ネット利用者」にリーチする実態を詳細に調べて、広告主に新聞広告の強みを再認識してもらったうえで、ネットと組み合わせた広告戦略を再構築してもらうことに力点が置かれている。

まず、メディアを評価する際に重視するポイントを聞いたところ、

新聞のベスト3は

「安心できる」47%
「情報が正確で信頼性が高い」46%
「情報が整理されている」39%

と答えたのに対し、

ネットは、

「日常生活に役立つ」50%
「自分の視野を広げてくれる」49%
「親しみやすい」43%

がトップ3となった。

この違いを受けて、新聞とネットはメディアとしての評価軸がぶつかる対立関係ではなく、互いに補完する関係にあることが明らかになったと強調した。

■新聞広告は「ネット広告の効果を高める」と主張するけれど…

そのうえで、新聞広告とネットの関連について尋ねたら、ソーシャルメディアで新聞広告に関する投稿を見たことがある「ネット利用者」が46%と半数近くに上り、さらに「いいね」や「リポスト(リツイート)」など何らかのアクションをした人は28%もいたことが判明。しかも、いずれも、ネットに精通する若年世代(15~39歳)が中高年世代(40歳以上)より高いスコアを記録した。

これらの数字から、日常的に新聞に接しない若年層にも、新聞広告がソーシャルメディアを通じてリーチできる可能性があると力説した。

さらに、ネットで見た広告を、新聞でも見た場合に「理解が増す」と答えた人は39%、「信頼性が増す」が32%に上った。これに対し、テレビはそれぞれ34%、23%。雑誌36%、22%。ラジオ31%、21%にとどまったことから、ネット広告の効果をもっとも高めるメディアは、新聞であることが立証されたという。

■新聞広告の強みは「高い信頼性」

一方、「ネット利用者」の約半数が、ネットで入手するニュースの提供元をチェックしており、「信用できる提供元」として挙げたのは、新聞社56%、テレビ局49%、雑誌17%、ネットメディア16%の順だった。

また、「情報が信頼できる」と評価する広告メディアは、新聞が44%に上ったのに対し、ネットは17%しかなく、両者の間には著しい乖離があった。

新聞社発の情報が高い信頼を得ていることがうかがえ、「信頼」というキーワードが新聞広告の強みになっていることが確認されたという。

報告書は、こうした一連の調査データを踏まえ「新聞広告をネットと組みわせることで、新聞広告の強みがより発揮され、広告の訴求力を高めることが期待できる」と結論づけたのである。

■広告主から見向きもされていない

だが、新聞広告の窮状をみると、こうした訴えが、どこまで広告主に刺さるかは見通せない。

電通が2月末に発表した「2023年日本の広告費」をみると、国内の総広告費は前年比3.0%増の7兆3167億円と、2年連続で過去最高を更新。中でも、新聞やテレビからネットへのシフトが一段と進んでいることが明らかになった。

ネットは、7.8%増の3兆3330億円で、全体の半分近い45.5%を占めるまでに飛躍的に成長した。

一方、新聞は5.0%減の3512億円、テレビも3.7%減の1兆7347億円にとどまり、雑誌1163億円とラジオ1139億円を合わせてもマスメディア4媒体の総広告費は2兆3161億円(前年比3.4%減)に過ぎず、束になってもネットにはかなわない状況だ。

新聞の総広告費は、1990年の1兆3593億円をピークに、2006年に1兆円を割り込み、リーマンショック後の09年には半減、コロナ禍を経て23年はさらに半減、今や広告費全体の5%にも満たなくなってしまった。

肝心の新聞の総発行部数が、1997年の5376万部から2023年10月には2859万部と、ほぼ半減。新聞の影響力が低下しているだけに、新聞広告の媒体価値が下がるのはやむを得ないだろう。

■新聞には「信頼性の高さ」があるが…

新聞協会の今回の報告書は、新聞広告の復権を主眼にしているため、一定のバイアスがかかっていることは否めない。

そこで、あらためて新聞広告の特性を客観的に見てみたい。

まずメリットから。

先に挙げた「信頼性の高さ」は、新聞に掲載されるためには新聞社の広告審査基準をクリアしなければならないことで裏打ちされ、紙面で見られる広告情報は一定の安心感を共有できることを意味する。それは、掲載企業や商品の価値を高める「ブランディング」にもつながる。

ほかにも、「不特定多数の人に読まれる」「中高年世代へのアプローチに適している」「高収入層へアプローチしやすい」などが挙げられる。

一方、デメリットとしては、

・さまざまな読者に同じ情報を提供するため、きめ細かいターゲティングができない
・情報の流れが一方通行のため、認知や購買につながったかどうかを測ることが難しい
・読者が中高年層に偏っているため、若年層向けの商品やサービスには向かない

などが指摘される。

裏を返せば、いずれも、ネット広告のメリットということになる。

■きめ細かいターゲティングも、効果測定も難しい

広告主にとって広告を出稿する最大の狙いは、最終的に商品やサービスを購入してもらうことにある。そのためのコストが低ければ、なおよい。

そうした観点に立てば、ネット広告は、年齢、性別、エリア、趣味趣向、デバイスなど、対象を細かくターゲティングできるため、広告情報のリーチ度は新聞広告とは比較にならないほど高い。

また、広告の表示回数、クリック回数、自社サイトへの誘導、購買の可否まで正確に計測できるため、効果測定の差は歴然としている。

新聞広告とネット広告の特性は真逆であり、リーチ度と効果測定というネット広告のメリットは広告主がもっとも把握したい情報であるがゆえに、ネット広告にシフトするのは自明だろう。

■ネットにもテレビにも太刀打ちできない新聞広告

実は、新聞協会の今回の調査では、「メディア別の広告の印象・評価」について18項目の設問を設けており、その結果は、新聞広告の現在地を示している。

新聞の折り込みチラシを除くマスメディア4媒体の中で新聞がトップだったのは、「情報が信頼できる」44.0%、「ゆったりと広告を見聞きできる」36.5%、「地域や地元の情報が多い」30.2%、「企業の環境問題への取り組みがよくわかる」24.4%、の4項目のみ。

一方、ネットは「必要な情報を改めて確認できる」40.3%、「知りたい情報が必要十分に得られる」40.0%、をはじめ10項目で新聞を上回った。

12項目でトップを占めたのは、テレビだ。「印象に残る広告が多い」57.6%、「見聞きした、読んだことが記憶に残る」42.9%、「広告を行っている企業に関心を持つ」39.3%、「情報がよく理解できる」39.1%、「商品やサービスの内容などを的確に伝えている」37.8%、「役に立つ広告が多い」28.5%、などだ。

利用者目線に立てば、なおテレビに一日の長がありそうだが、ネットメディアの勢いを押しとどめることができるかどうか。

いずれにせよ、新聞広告は、もはやネットにもテレビにも太刀打ちできないのが現実なのである。

■新聞広告が生き残る方法はあるのか

では、新聞広告は、このまま朽ちていくのだろうか。

ネット広告は、あらゆる広告主にとって、使い勝手がいいことは間違いない。ただ、ネット上には、フェイクの情報があふれ、真偽の定かでない広告や悪意のある広告が大量に出回って、社会問題化している。ネット広告の最大の弱点といってもいい。

それだけに、新聞広告の「信頼性の高さ」は魅力的に映るはず。ネットで見た広告を「新聞でも見た」となれば、より大きな安心感を生み、広告効果を高めることにつながりそうだ。

広告主にしてみれば、ネット広告が新聞広告との連動で広告価値を最大化できるなら、新聞広告を活用する方策をあらためて検討することもありえよう。

新聞協会の報告書は、そこに一筋の光明を見出そうとしている。

■このままでは読者にも、広告主にも見捨てられる

広告市場で、新聞がネットに抜かれたのは2009年(テレビは19年に逆転された)。その時、それでも現在の倍近い6700億円以上の広告費があった。だが、当時の新聞界は、ネットを目の敵にしていて、ネット広告と連携しようとする動きはほとんどなかった。ネットの軍門に降るようで潔しとしなかったのである。その時点で、新聞とネットのシナジー効果を強力に打ち出していれば、広告主のネットシフトを押しとどめ、新聞の広告費はもっと早く底打ちしていたかもしれない。

成功体験を引きずった新聞経営陣の不毛なメンツやプライドと先見性のなさが、新聞界の衰退を招いたことは隠しようもない。

「新聞から広告がなくなる日」が来る前に、ネットとの連動で新聞広告が活性化するなら朗報に違いないのだが……。

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水野 泰志(みずの・やすし)
メディア激動研究所 代表
1955年生まれ。名古屋市出身。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。中日新聞社に入社し、東京新聞(中日新聞社東京本社)で、政治部、経済部、編集委員を通じ、主に政治、メディア、情報通信を担当。2005年愛知万博で博覧会協会情報通信部門総編集長を務める。日本大学大学院新聞学研究科でウェブジャーナリズム論の講師。新聞、放送、ネットなどのメディアや、情報通信政策を幅広く研究している。著書に『「ニュース」は生き残るか』(早稲田大学メディア文化研究所編、共著)など。 ■メディア激動研究所:https://www.mgins.jp/

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wako Megumi