平安神宮 桜音夜(さくらおとよ)〜紅しだれコンサート2024〜』(2024年4月3日(水)〜7日(日))の開催に際して、東京発の東海道新幹線のぞみ号の一車両を貸し切り、1日限りの特別イベント『上野耕平と行く桜音夜』が4月7日(日)、実施された。サクソフォン奏者の上野耕平による演奏を至近距離で楽しみながら、サクソフォンや鉄道に関するトークもたっぷり楽しむ約90分の旅。イベントの様子を写真とともにお伝えする。

上野耕平

上野耕平

●上野耕平〈サクソフォン奏者〉
東京藝術大学器楽科卒業。第28回日本管打楽器コンクールサクソフォン部門第1位・特別大賞(史上最年少)。第6回アドルフサックス国際コンクール第2位。デビュー以来、常に新たなプログラムにも挑戦し、サクソフォンの可能性を最大限に伝えている。ソリストとして国内のほとんどのオーケストラと共演。音楽以外にも鉄道と車を愛し、深く追求し続けている。

 

のぞみ333号は、東京駅を10時39分に発車し、品川駅新横浜駅でそれぞれ乗客が乗車した。乗客が揃った後、上野耕平が車両に現れ、「世界最速のコンサートが始まります。まさかいつもお世話になっている東海道新幹線の車内でコンサートをできる日が来るなんて思ってもいませんでした」「昨夜は全然眠れませんでした。憧れの新幹線で演奏なんてなかなかないことですから」などと挨拶。

早速上野は、乗客に配られたサイン入りポストカードにオリジナルスタンプを押してまわったり、持ち込んだ楽器ケース(アルトサクソフォンソプラノサクソフォンが入っている)の重さを体験してもらうために乗客にケースを手渡したりと乗客との交流を暫し楽しむ。

オリジナルスタンプを押す上野耕平

オリジナルスタンプを押す上野耕平

サイン入りポストカードが配られた

サイン入りポストカードが配られた

序盤に演奏されたのは、バッハ無伴奏チェロ組曲 第1番〜プレリュード〜」と「アメイジング・グレイス」。車両の前方で吹いたり、通路を行き来しながら吹いたりとスタイルはまちまちだったが、音色ははっきりと聞こえたし、新幹線の車両でサクソフォンの音色を楽しめるのはなかなか斬新だった。

上野耕平

上野耕平

面白かったのは「車両チャイム」のパート。初代の「鉄道唱歌」から、伝説のチャイムと言われる「黛(まゆずみ)チャイム」、「AMBITIOUS JAPAN!」、「会いにいこう」……という変遷を語りつつ、ワンフレーズを演奏。車両チャイムについての思い入れは深く「いつか(演奏を)やりたいです」と話すほど。そして、大の鉄道好きとして知られる作曲家ドヴォルザークの“鉄オタ”小噺を話した後に、「家路」を聴かせた。

上野耕平

上野耕平

上野が鉄道に詳しいことは事前に聞いていたが、その知識と熱量は想像以上。乗車している車両が「4月に車検を終えたばかりのピカピカの車両」であることや、時速500キロで走るリニア中央新幹線の営業運転に向けた走行試験がなされている「リニア実験線」に乗車した経験などの“鉄オタ”トークを展開。普段東海道新幹線に乗っているときは見落としがちな(?)豆知識をいろいろと話してくれた。「吹奏楽と出会う前は電車の運転手になろうと思っていた」と上野自身も語っていたが、その鉄道愛は確かに伝わった。

イベント中、車窓にも気を配り、富士山が見えるポイント(この日は生憎の曇り空で見えなかったが)や、上野が東海道新幹線に乗るときに必ず見ているという廃車を解体する場所、そして上野の思い出の地であるアクトシティ浜松なども適宜解説していた。

上野耕平

上野耕平

優雅で可愛らしい、ボノー「ワルツ形式によるカプリス」を演奏した後は、乗客も撮影OKの「ダニー・ボーイ」。アンコール武満徹「小さな空」。乗客からの質問にも気軽に答えながら、目的地・京都駅までのおよそ90分にわたる濃密な旅を終えた。乗客は往路で特別な経験をした後、その日の夜に行われた『平安神宮 桜音夜〜紅しだれコンサート2024〜』での押尾コータロー(ギター)×上野耕平(サクソフォン)のコンサートも楽しんだ。きっと忘れられない時間になったのではないだろうか。

取材・文・撮影=五月女菜穂

観客のリクエストに応える上野耕平