新緑がまぶしいこの季節、京都に行ってみようか。そう思っている日本美術ファンの、そこのあなた! 特別展「雪舟伝説―『画聖』の誕生」が、2024年5月26日(日)まで、京都国立博物館で開催中だ。「雪舟」と名がつく展覧会なのに、チラシに大きく「『雪舟展』ではありません!」と書かれているのは、どういうこと?! それでは一緒に内覧会を見て行こう!

展示風景(国宝《慧可断臂図》雪舟筆 愛知・齊年寺蔵 室町時代 明応5年(1496) 通期展示)

近世や近代の日本美術史を振り返るとき、雪舟はもっとも重要な画家である。

国宝《秋冬山水図》雪舟筆 東京国立博物館蔵 室町時代(15世紀) 通期展示
  

現代の私たちにとっても、例えばこの国宝《秋冬山水図》は教科書で見たことがあったり、知らない人はいないぐらい超有名。それではなぜ、これほど高く評価されているのか。雪舟とはどのような人なのか。1420年生まれの雪舟に続いた、雪舟をリスペクトする他の画家たちの画業も振り返りながら、改めて雪舟を見て行こう! というのが同展の趣旨である。

国宝《天橋立図》雪舟筆 京都国立博物館蔵 室町時代(16世紀) 通期展示

展覧会は7章に分かれている。第1章は、雪舟筆の国宝や重要文化財ばかりが並ぶ。ひとりの画家で6件も国宝に指定されているのは、雪舟だけ! それらすべてを、この第1章で展示している! あれもこれもと、代表作品の連続パンチを食らう感じだ。

展示風景

第2章は、雪舟が中国の画家などに倣って描いたり、後世の画家たちに影響を与えた作品に注目する。その中には、「伝」雪舟筆のものも含まれているが、いずれにせよ、雪舟の画風や主題や様式は後世に継承されていったことがわかる。

《富士三保清見寺図》伝雪舟筆 詹仲和賛 東京・永青文庫蔵 室町時代(16世紀) 通期展示

桃山時代に雪舟の画風を継承した「雲谷派」と「長谷川派」を紹介する、第3章。「雲谷派」とは雲谷等顔、「長谷川派」とは長谷川等伯からはじまった流派。いずれも雪舟に直接師事したわけではないが、江戸時代にこのふたりが雪舟正系(せいけい)を争ったという逸話が流布した、というほど。じっくり眺めて、雪舟とのつながりを確かめたい。

展示風景(《竹林七賢図屏風》長谷川等伯筆 桃山時代 慶長12年(1607)京都両足院蔵 通期展示)

そして第4章では、雪舟の神格化に最も寄与した狩野派が登場! 狩野探幽ら、狩野派の画家たちは、雪舟に学びながらも、狩野派独自の様式を確立していったことで、江戸時代に強固な基盤を築いたのだ。

展示風景

江戸時代に、今より多く流通していた「雪舟画」を、第5章では見ることができる。徳川吉宗の命によって江戸に運ばれた雪舟筆《四季山水図巻(山水長巻)》を模写した《雪舟筆四季山水図巻模本》(狩野古信筆)や、長さ11.5メートルにおよぶ重要文化財《四季山水図巻》(雪舟筆)が展示されている。

展示風景

そして絵画だけでなく、文字資料でも、雪舟のことを知ろう!というのが、第6章。展示室には「涙でねずみの絵を描いた」という逸話が書かれた『本朝画史』のような出版物や、そのねずみの絵を描いた話の舞台となった宝福寺に建つ石碑の拓本《雪舟禅師之碑》など、とても興味深い資料ばかりが置かれている。

展示風景

最後の第7章は、宋元画を主な規範とした漢画系の画家の作品だけでなく、雪舟の名前から一文字もらった山口雪渓の作品まで、雪舟の影響を多様に受けた作品や画家を紹介する。

《駿州八部富士図》司馬江漢筆 江戸時代 寛政元年(1789) 通期展示

司馬江漢までも雪舟の影響を受けてるなんて意外! とか、尾形光琳画で乾山作という兄弟合作の《銹絵山水楼閣図四方火入》も?! とか、雪舟リスペクトの幅広さに衝撃‼

展示風景

雪舟というひとりのアーティストの軌跡をたどる個展ではないが、奇をてらった展覧会では決してない。雪舟という、ひとりのアーティストが生きている間だけでなく、雪舟が亡くなった後に、作品をリスペクトして模範にしたり、追随するアーティストがいるということ。雪舟を文字資料で記録に残す人がいたりすること。こうしたことの積み重ねで、今なお私たちは「雪舟」の偉大さに気付くことができる。そんなアーティスト雪舟を中心にした壮大なストーリーに、観客である私たちが巻き込まれるような展覧会である。

取材・文:藤田千彩

<開催概要>
『特別展 雪舟伝説―「画聖(カリスマ)」の誕生―』

会期:2024年4月13日(土)~5月26日(日) ※会期中展示替えあり
会場:京都国立博物館 平成知新館
展覧会公式サイト:
https://sesshu2024.exhn.jp/

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/ticketInformation.do?eventCd=2346346&rlsCd=002&lotRlsCd=

京都国立博物館一階入口