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 アメリカで、他人のIDや個人情報を盗み、35年間に渡ってまんまとその人物になりすましていたとして告訴されていた男がようやく罪を認めた。

 この巧妙ななりすまし事件により、個人情報を盗まれた被害者は、誤って逮捕された上に、精神病院送りにまでなっていたことがわかった。

【画像】 元同僚の身分証明書を偽造し本人になりすます

 このなりすまし男、マシューデヴィッドキーランズ(58)は、逮捕された時「ウィリアムドナルド・ウッズ」という名前でアイオワ大学病院に勤務していた。

 1988年、ニューメキシコアルバカーキのホットドックスタンドで、キーランズは本物のウッズ氏と同僚だった。

 1990年キーランズはウッズ氏の氏名と生年月日が記載されたコロラド州の身分証明書をこっそりと入手し、それを偽造して元に戻した。

 1991年にはウッズ氏の名が入った2枚の小切手で車を購入しようとしたがは不渡りとなった。そこでキーランズは盗難車でアイダホ州へ向かい、車を乗り捨てて有り金を引き出すと州外へ出た。

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州外に引越しさらに家系情報を悪用、借金をかさねる

 車の盗難容疑でウッズ氏の名で逮捕状が発行されていたが、裁判所文書にはそれが実際に執行されたかどうかは記されていない。

 その後、キーランズは1994年にウッズの名をかたったまま結婚して子どもまでもうけた。

 2012年、キーランズはAncestry.comという家系図サイトで見つけたウッズ氏の家系情報を悪用、ウッズ氏の出生証明書をケンタッキー州から違法に入手することに成功した。

 1年後、キーランズはウィスコンシン州ハートランドに引っ越した。その後はアイオワ大学病院のIT部門で働き始めた。

 2016年から2022年にかけて、ウッズ氏の名前で車を購入したりローンを組んだりして、その総額は20万ドル(3000万円)に達した。

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キーランズに先手をとられ、本物のウッズ氏が偽物として逮捕される

 一方、本物のウッズ氏は2019年当時、ホームレス状態となりロサンジェルスで生活していた。

 彼は何者かに自分のクレジットカードが使われ、その金額がふくれあがっていることに気が付き、そのことを銀行に訴えたが、一連の秘密の質問に答えられなかった。

 キーランズの電話番号とウッズ氏の口座番号が紐づけされてしまっていて、秘密の質問も変えられていたのだ。

 ウッズ氏は本物の社会保障カードや身分証明書を提出しても自分がウッズ本人であることを信じてもらえなかった。

 銀行がキーランズに確認の電話をすると、当然すらすら応答でき、本物のウッズ氏のほうが〝なりすまし〟だと思われてしまった。

 銀行側は手順に従って、キーランズが〝本物〟のウッズであることを確認した後、警察に通報、警察は両方の〝ウッズ〟に接触して捜査を進めた。

 キーランズは、ウッズ氏の社会保障カードと出生証明書、そしてウィスコンシン州運転免許証のコピーをロス市警に提出した。

 間の悪いことに本物のウッズ氏が当時ホームレスだったこともあって、警察はキーランズを本物とみなし、ウッズ氏を逮捕した。

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本物は自分だと主張し、精神病院に送られる

 本物のウッズ氏は、ID窃盗となりすましの罪で逮捕、起訴されたが、自分は正真正銘本物のウィリアムドナルド・ウッズだと主張して頑として譲らなかった。

 そのため、2020年に裁判を受ける精神的能力がないと判断され、カリフォルニア州精神病院に送られてしまった。

 病院でウッズ氏は向精神薬を投与され、その他の精神疾患治療を受けさせられるはめになった。

 2021年、2年あまり精神病院生活を送った後、本物のウッズ氏はID窃盗の罪状については争わないことを認めた。

 つまり、彼は有罪判決は受け入れたが、有罪は認めなかったということだ。

 精神病院での入院期間を加算された上で懲役2年の判決を言い渡され、その後釈放された。数百ドルの罰金と、ウィリアム・ウッズという名前を使わないことも求められた。

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事件が発覚したきっかけ

 ウッズ氏は誰かが自分のIDを盗んで利用していると確信していたので、どうしても裁判所命令に従うことはできなかった。

 そこで彼は、キーランズが住んでいたハートランド警察を含む複数の法執行機関と接触し始めた。

 嘆願書がアイオワ大学警察のイアン・マロリー刑事のところに届くと、捜査が開始された。

 マロリー刑事は、ウッズ氏とキーランズから同じ出生証明書を入手し、ふたりのDNAをウッズ氏の実父のDNAと比較し、どちらが本物かを突き止めることができた。

 2023年7月、キーランズはマロリー刑事との面談で父親の名前を訊かれ、うっかり養父の名前を出してしまい、ついに化けの皮がはがれた。さらにDNA鑑定の結果も追い打ちをかけた。

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完全な証拠を突き付けられ35年間のなりすまし人生に終止符

 ついにキーランズは、〝自分の人生は終わった、すべてを失った〟と観念し、どうやって35年間も他人のIDを使ってなりすましていたかを延々と自白した。

 彼は翌日逮捕され、出生証明書の虚偽使用と偽のID提起の罪で起訴された。

 この事件の判決はまだ出ていないが、キーランズは国家信用組合管理局の金融機関に対する虚偽の陳述の罪で最高30年の懲役、加重ID窃盗の罪で2年の懲役を言い渡されると思われる。

References:Man Uses Another Person’s Identity for 35 Years, Causing Them to Be Imprisoned and Sent to Mental Hospital / written by konohazuku / edited by / parumo

 
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他人の個人情報を盗んで35年間なりすました男。被害者は冤罪で逮捕され精神病院送りに