東京23区」における持ち家率は65%を超えています。不動産価格の水準が非常に高いにも関わらず、多くの人が持ち家を手にできているのはなぜなのでしょうか。そこで本稿では麗澤大学未来工学研究センターで教授を務める宗健氏の著書『持ち家が正解!』(日経BP)から一部抜粋して、「首都圏」と「地域」間で不動産価格の格差が拡がる原因について解説します。

地方から流入する高学歴女性

コロナ禍の影響で東京都への人口の流入超過が止まった時期もあったが、1都3県全体で見れば人口の流入超過の傾向は止まっていない。東京都への人口集中も再び始まっている。

その流入超過の多くは、地方からの進学・就職による若年層が占めており、なかでも地方からは高学歴の女性の流入が多いことはかねて指摘されている。

日本では勉強ができる子がいじめに遭いやすい傾向があることはかねてから指摘されており、地方ではダイバーシティーどころか、いまだに男女間で大学進学率に大きな差がある場所も多い。

男性に比べて女性の大学進学率が低い場所では、大卒女性は地域で少数派となり、男性優位の地域社会では生きづらい。

女性の場合は自分よりも学歴の高いパートナーを好む、いわゆる上方婚と呼ばれる傾向があるため、地方では結婚相手が見つけにくいこともある。そのため都市へ移住する、もしくは都市部の大学に進学して、そのまま出身地には戻らないといったケースが多くなる。

結果として首都圏、特に東京都には男性だけでなく若い高学歴の女性が集まることになるが、この状況を結婚市場として経済学的に分析したのが中川雅之「東京は『日本の結婚』に貢献」(2015年)である。

この研究では、高学歴女性が地方で自分と同等以上の学歴を持つ男性を見つけることは困難だが、都市であればそれが可能になることを示し、「効率的な結婚市場である東京都は、未婚者を引き付け、カップルとして周辺県に送り出すという、大都市圏の中心都市と郊外都市に一般的に観察される機能を、全国的な規模で果たしている」と喝破している。

東京都の婚姻率や出生率は低いが、これはいざ結婚するとなると生活コストが高いため、周辺県に流出しているためだという。つまり東京は男女の出会いの場として重要な役割を果たしており、中川氏は「このような実態を背景とすれば、東京大都市圏への一極集中に対して、強い介入を行うことはやや慎重にすべきではないだろうか」とも指摘している。

首都圏では高学歴・高収入世帯の再生産が繰り返される

実態はより明確で、結婚した世帯の所得が東京都内で暮らすには十分でない場合は周辺県へ流出し、夫婦両方が大卒の正社員で、東京都内で暮らすために十分な所得がある場合には、東京都内にとどまることが多くなる。

こうして、東京で生まれ育った勉強のできる若者に加えて、地方の勉強ができる若者が東京に集まり、その一部が所得の高い高学歴カップルとなって再生産される。

2018年の住宅・土地統計調査(住調)によれば、東京23区の子どもあり世帯の持ち家率は65.4%で、全国平均の76.2%よりは低いが、不動産価格の水準を考えれば相当高いといえるだろう。

実は首都圏の不動産価格の高騰と、家賃と不動産価格の地域差は、こうした居住者属性である程度説明ができる。こうした傾向が今後も続くのであれば、首都圏の不動産価格は平均としては上昇を続け、一方で首都圏内でも価格差が広がっていくのかもしれない。

そして残念ながら、こうした状況は再生産され、都市と地方の格差も広がっていくだろう。

宗 健

麗澤大学工学部教授/AI・ビジネス研究センター長

(※写真はイメージです/PIXTA)