星野リゾートの星野佳路社長は4月17日に開催した記者発表会で、戻りつつあるインバウンド需要への“危機感”を明らかにした。

【グラフ画像】オーバーツーリズムの「悪化状況」

 星野社長はコロナ禍を振り返り、観光業界全体が労働力不足に陥っている現状を指摘した。コロナ禍によって、本来は徐々に伸びていくはずだった労働力需要は急激に下落したのちに、急激に上昇している。同社はこうした変化に対応するために、退職率低減と採用強化に乗り出しているという。

 星野リゾートは今年、750人の新卒社員を採用している。中途採用を含めると今年中に1000人の採用を目指すという。コロナ前の2019年は社員数2866人、39施設だったところから、24年は4697人、69施設まで規模を拡大することになる。きたる観光需要の増加に備えながら、新たな潜在需要の掘り起こしも図る姿勢だ。

 並行して、24年入社の大卒社員の初任給は21万4800円から24万円へ引き上げている。年間休日数は115日とし、宿泊業・飲食サービス業の平均102.9日を上回る水準を実現した。

 加えて労働力不足から脱却するためには「最適な業務内容を確認」し、「真の必要人員を把握」「必要人員をそろえ、維持する」ことが必要だとした。

 星野社長が各施設を視察した際には、現場スタッフから「『身体的負担』が上がったとしても『心理的負担』を下げたい」という声も上がった。こうした現場の声を取り入れながら、スタッフの身体的負担を適正に低減させていくという。

オーバーツーリズム問題は「悪化」している

 星野社長はインバウンド(訪日外国人観光)需要についても触れた。コロナ禍前から懸案だった、局所的に観光客が集中し地域の交通インフラや住民に悪影響を及ぼすオーバーツーリズム問題については、残念ながら「悪化している」とした。

 都道府県別の訪日外国人の宿泊数をみると、19年は上位5都道府県に全体の約65%が集中していたところから、23年には約75%と、さらに訪日外国人が集中している。

 「この悪化はかなり深刻で、インバウンドは大都市圏に集中している。04年の観光立国戦略会議で、日本の地方の新しい経済基盤を作っていこうという目的で『観光立国』を目指していた。現在それとは逆の方向に行っているということが、私の中ですごく大きな懸念になっている」(星野社長)

 星野社長は現在高知県福井県山口県で新たなプロジェクトを進めていることに触れ、インバウンド需要の地方分散に貢献していきたいとした。

 また地方への誘客を促進する上で、国立公園を観光コンテンツとして強化することも重要だとした。「日本は『文化観光』は得意だが『自然観光』は苦手」(星野社長)とし、自然観光を強化することで、まだインバウンドの経済効果が表れていないところにも恩恵をもたらすと展望を話した。

観光業界全体における労働力不足のイメージ