世界最大規模の野外音楽フェスコーチェラに出演を果たした平野紫耀、岸優太、神宮寺勇太のNumber_i。ステージ後には、デビュー曲「GOAT」がアメリカのiTunes総合チャートで10位にランクインし、見事な全米進出となりました。



『Number_i「GOAT」初回生産限定盤A』COOVELITE



◆「King & Prince」のドリーミーなポップスからの激変
 旧ジャニーズ時代には「King & Prince」として活動していた3人。大ヒット曲「シンデレラガール」は甘く切ないコードとメロディの王道アイドル歌謡でした。グループ名の通り、おとぎ話の国からやってきたドリーミーなポップスだったのです。
 ところが「GOAT」でイメージが激変します。重厚な低音と強烈なアタックが鳴り響くハードコアヒップホップは世間を驚かせました。日本だけにとどまるつもりはさらさらない。サウンドが物語っていました。
 ビジュアル面も変わりました。キンプリ時代にはキラキラ、ヒラヒラのデコレーションでしたが、Number_iにはそのような甘さは一切ありません。ダークトーンで統一したシックなセットアップスタイルはワイルド。K-POP勢にはないビターな男らしさの打ち出し方が新鮮です。


イメチェンに成功。だが急激さは過去からの反動のよう
 コーチェラ、iTunesへのランクインという結果からも、徹底的なイメージチェンジは成功したと言えるでしょう。誤解を恐れずに言えば、Number_iの面々もようやく時代に合流できた感覚があるのではないでしょうか。



『Number_i「GOAT」初回生産限定盤B』COOVELITE



 筆者も「GOAT」には驚かされました。こんな音で来るとは予想もしていませんでした。これはアイドルという枠組みでは語れない音楽だと感じました。


 けれども、同時に引っかかるところもありました。「GOAT」での表現が、段階的な成長ではなく、過去からの反動として急激にあらわれているように感じるからです。


 それは、「GOAT」のクオリティに問題があるという意味ではありません。むしろ、高すぎるクオリティ、隙のない洗練に、“変えなければ”という強迫観念めいたものが聞こえるのですね。


◆劇的な変化はキンプリ時代と決定的な断絶を生んだ
 ご存知の通り、旧ジャニーズ事務所をめぐっては大きな問題がありました。社会を揺るがせたニュースと、所属タレントたちの独特なパフォーマンスとの間には決して薄くない関係があったと多くの人が考えています。


 そのために、新会社での作風が前事務所でのそれと同じであってはならないとのドグマがあったとしても不思議ではありません。



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 そして、「GOAT」は見事にそれを達成しました。旧ジャニーズ事務所では絶対に作れなかった、同時代的なかっこいい音楽です。


 しかし、ツッコミどころを消して世界基準に合わせるほどに、旧ジャニーズのやっていたことがいかにユニークだったかが浮かび上がってしまう。皮肉なことに、「GOAT」はそのことも証明してしまっているのですね。


 劇的な変化は決定的な断絶を生みました。Number_iにとってキンプリという過去は存在しないものになってしまったのです。「GOAT」は、そう宣言している曲なのです。


◆確かにかっこいいが過去を否定しているのでは
 もちろん、年齢を重ねたアイドルは表現の方法や作風を変えていきます。海外で言えば、ロビー・ウィリアムスブリトニー・スピアーズジャスティン・ティンバーレイク、マイリー・サイラスジャスティン・ビーバー、ワン・ダイレクションなどなど、みんなデビュー当時とは違った音楽をしています。


 けれども、それはあくまでも段階的に、です。自らの持ち味を保ちつつ、少しずつオプションを加えていき、出来ることの範囲を広げていくのですね。だから、息の長いキャリアを歩めるのです。




 それを踏まえて、「シンデレラガール」と「GOAT」をどう考えたらいいのでしょうか? 筆者には、変化、成長というよりも、むしろ過去を急速かつ執拗に反転させているだけだと感じました。


 かっこいい。確かにかっこいいのだけれど、その根拠となっているものが否定的なエネルギーなのではないかということですね。


 変えなければならないやむにやまれぬ事情があったのは理解できます。しかし、言葉はきつくなりますが、どうしてもただ服を着せ替えただけに見えてしまう。


キンプリとの間の溝を埋めることに期待
 とはいえ、今年の元旦にデビューしたばかり。モダンで硬派なパフォーマンスをこなせることは十二分に証明してくれました。




 となると、今度はキンプリとの間の大きな溝を埋めるものを期待したいところです。


 その甘さが配合されたとき、Number_iは確かなアイデンティティを手にするのでしょう。


<文/石黒隆之>


【石黒隆之】音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4



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