古代ヨーロッパではマフィアと同じ残忍な手法を使って、人を生き埋めにしていたようです。

仏トゥールーズ第3大学ポール・サバティエ(Toulouse III)はこのほど、約5500年前の遺跡から首と両足首を後ろ手に結ばれて生き埋めにされた2人の女性の遺骨を発見したと報告。

これはイタリアマフィアが行う「インカプレッタメント(incaprettamento)」という殺人手法と同じで、首と両足首を紐でつなぐことで自然に首が絞まっていく残虐な手口です。

では、古代ヨーロッパ人は何のためにこの方法を使ったのでしょうか?

研究の詳細は2024年4月10日付で科学雑誌『Science Advances』に掲載されています。

目次

  • 5500年前にマフィアと同じ殺人手法が行われていた
  • 「農業の儀式」として神に捧げられた可能性
  • 1万年以上前からヨーロッパで行われていた⁈

5500年前にマフィアと同じ殺人手法が行われていた

この遺跡は、南フランスのアヴィニョン近くにあるサン=ポール=トロワ=シャトーで20年以上前に発見されたものです。

研究チームは今回、その遺跡で見つかっていた3人の女性の遺骨を再調査し、彼女たちがどのように亡くなったのかを明らかにしようとしました。

遺骨の体勢や側に残っていた遺物を調べたところ、3人のうちの1人は高齢の女性で、特に紐で縛られた形跡もなく、自然死によって亡くなったことが判明しています。

体勢も普通に膝を軽く曲げた状態で横向きに寝かされていました。

これは埋葬された古代の遺骨によく見られる体勢です。

実際の遺骨と埋葬時の復元イメージ
実際の遺骨と埋葬時の復元イメージ / Credit: ERIC CRUBÉZY et al., Science Advances(2024)

ところが残りの2人はまったく様子が違いました。

この2人は若い女性で、首と両足首が後ろ手を介するような形できつく結ばれていたのです。

その体勢で横に寝かされますと、よっぽど体が柔らかくないかぎり、両足首が紐を引っ張って自然と首を絞めてしまいます。

研究者によると、これはイタリアマフィアが見せしめや警告のために行う「インカプレッタメント(incaprettamento)」という殺人手法と同じだという。

両足首が紐を引っ張って自然に首を絞めてしまう残虐な手法
両足首が紐を引っ張って自然に首を絞めてしまう残虐な手法 / Credit: ERIC CRUBÉZY et al., Science Advances(2024)

さらに2人の女性の上には大きな岩の重しが乗せられていました。おそらく生き埋めにした後に身動きできなくするためのものと考えられます。

あまりに陰惨で残虐な手口です。

なぜ古代人はこのような残忍な方法で女性たちを生き埋めにしたのでしょうか?

「農業の儀式」として神に捧げられた可能性

研究者によると、3人の女性が見つかった場所はただの平凡な埋葬地ではありませんでした。

3人の女性は穀物などを保管する「サイロ」という貯蔵庫を模した大型の容器の中に埋葬されていたといいます。

さらにその上には地中に埋められたサイロを覆う形で、木造の構造物が建てられていました。

加えて、その木造の構造物は夏至の太陽の通り道と一致するように建てられ、日の出の光がサイロに取り込まれるように設計されていたのです(下図を参照)。

サイロの上の木造構造物が夏至の日の出の通り道と一致
サイロの上の木造構造物が夏至の日の出の通り道と一致 / Credit: ERIC CRUBÉZY et al., Science Advances(2024)

それからサン=ポール=トロワ=シャトーに見られる他の埋葬地には、遠く離れた場所から集められた動物の骨や出土品などが多数見つかっています。

これらを踏まえてチームは、この地域が人々の多く集まる「儀式の場」であり、3人の女性は農業に関連する儀礼のために、神への捧げ物として人身御供にされた可能性が高いと結論しました。

ただその方法として、なぜインカプレッタメントのような残忍な方法が取れられたのかは定かでありませんが、研究者らは「誰かによって殺められるのではなく、自分自身の体の力で首を絞めて死に至ること」が重要視されたのではないかと見ています。

古代人の目には、このような亡くなり方が自らの命を自らの意志で神に差し出しているように映ったのかもしれません。

さらにチームが調査を進めてみると、インカプレッタメントの手法は今回の例より遥か昔から古代ヨーロッパで度々行われてきたことがわかってきました。

1万年以上前からヨーロッパで行われていた⁈

チームは今回の発見を受けて、ヨーロッパ各地で見つかっている埋葬地の遺体に関する文献を調べてみたところ、インカプレッタメントを使った遺体が14カ所の遺跡で20件も見つかったのです。

最も古い例はチェコ共和国の遺跡で見つかった紀元前5400年のもので、最も新しい例が今回のサン=ポール=トロワ=シャトーで見つかった紀元前3500年のものでした。

これはつまり、インカプレッタメントの手法が少なく見積もっても2000年にわたってヨーロッパ各地で行われてきた普遍的な慣習の一つであることを示唆しています。

さらにそれだけではありません。

チームはイタリア南部に浮かぶシチリア島のアダウラ洞窟の中で紀元前1万4000年〜1万1000年の間に描かれたと見られる壁画を記述した文献を見つけました。

そこになんとインカプレッタメントの方法で縛り首にされた2人の人間の姿が描かれているのが発見されたのです。

黒で強調されたものがその壁画の例
黒で強調されたものがその壁画の例 / Credit: ERIC CRUBÉZY et al., Science Advances(2024)

実際の遺体までは見つかっていませんが、これはイタリアマフィアの用いる残虐な処刑方法が1万年以上も前の古代人の儀式に起源を持っていた可能性を示しています

またマフィアとはシチリア島を起源とする組織的な犯罪集団のことです。

もしかしたら、この壁画が見つかったアダウラ洞窟こそがインカプレッタメントの発祥の地なのかもしれません。

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参考文献

Neolithic women in Europe were tied up and buried alive in ritual sacrifices, study suggests
https://www.livescience.com/archaeology/neolithic-women-in-europe-were-tied-up-and-buried-alive-in-ritual-sacrifices-study-suggests

Investigation of Tomb Burial Reveals Sick Neolithic Ritual Sacrifices
https://www.ancient-origins.net/news-history-archaeology/neolithic-ritual-sacrifices-0020629

元論文

A ritual murder shaped the Early and Middle Neolithic across Central and Southern Europe
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adl3374

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

古代ヨーロッパの生贄の儀式が「イタリアマフィアの処刑の手口」とそっくりだった