“大東亜戦争”と呼んじゃダメ?

 陸上自衛隊の部隊(第32普通科連隊)が、硫黄島で行われた戦没者追悼式典を紹介するSNS投稿で「大東亜戦争」と表現したことが物議を醸し、削除・修正した。当時、欧米諸国の植民地だったアジアを開放し「大東亜共栄圏」の創設を目指していた日本。東条英機内閣は1941年12月10日、「対米英戦争」「支那事変」などを総称して「大東亜戦争」と呼ぶことを決定した。

【映像】「大東亜戦争」の様々な呼称

 終戦後、GHQの命令により「大東亜戦争」の呼び名は禁止され、現在はアメリカ側の呼称である「太平洋戦争」が定着している。その他に「アジア・太平洋戦争」「先の大戦」といった呼称も。『ABEMA Prime』では、「戦争の呼び方論争」について考えた。

■「大東亜戦争」呼称の是非

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 国際政治学や平和研究が専門の新潟国際情報大学・佐々木寛教授は、「自衛隊大東亜戦争という言葉を使うのは論外」と主張。「誰が誰に、どういう文脈で言っているのかが大事。今回は自衛隊が、SNS上の不特定多数に言った。『“太平洋戦争”はGHQの押しつけだ』との主張は、複雑な歴史を単純化している」との考えを示す。

 また、「“大東亜共栄圏”を大義名分に、侵略戦争を行い、多数の死者を出した。そもそも大東亜の“大”は誇張表現で、“東”はヨーロッパからの見方」とした上で、「陸上自衛隊は、旧陸軍の病理と決別するために努力した。しかし、自衛隊幹部の靖国神社をめぐる組織内文書にも、“大東亜戦争”は使われた。よりデリケートに考える必要がある問題だ」と訴えた。

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 政治学者の岩田温氏は「大東亜戦争の呼称は問題ない」と主張。「開戦の詔勅には“自存自衛”と書いてあり、自分たちの国を守るために行う戦争と示されていた。アメリカとイギリスが“大西洋憲章”を作ったのに対し、日本が自国の理念を訴えたのが“大東亜新秩序”だ」。アジア諸国を集めた大東亜会議では、大東亜共同宣言が採択されたが、「共同宣言は今読んでも、おかしなことは書いていない」。

 その上で、「アメリカが使用を禁じたのは、大東亜会議や共同宣言が思い出されると都合が悪いから。ナチスドイツと同等に悪い国としたいがために、徹底的な言論統制を敷いた。戦争の反省も含め、日本人が戦った大義名分を考えると、大東亜会議や共同宣言は無視できず、“大東亜”を使うことに問題はない」と語る。

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 これに佐々木氏は「大本営発表の形で、正確な情報や認識がゆがめられる中で、戦争が行われていた。戦争の目的も美化されていた。知識人には、本当にアジアを解放しようとしていた人もいたが、最悪な結果となった。そこには反省があり、間違いを美化し続けるのは、歴史修正主義と言わざるを得ない」と反論。

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 表現を使いづけることで、植民地化ナショナリズムをあおらないか。岩田氏は「アジアという概念自体が、ヨーロッパから押しつけられたもの。当時よく『日本が植民地主義をとるための口実では』との議論があったが、むしろ日本は植民地をなくすために全力を尽くしていた。『全部悪かった』の一言で片付けるのは問題だ」と答える。

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 近現代史研究者の辻󠄀田真佐憲氏は、今回の論点は「言葉自体の是非」と「自衛隊連隊の投稿として適切だったのか」の2つがあり、わけて考えないと混乱してしまうという。「前者は文脈次第で、学問領域でも忠実に使うケースと、批判的な意味を込める場合がある。後者は、やはり誤解を招く。短い文章に出てきて、解説もないと『あれ?』と思わせる。余計なことをやったに尽きる」と解説する。

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 今回、陸上自衛隊第32普通科連隊が行った「大東亜戦争」投稿について、木原稔防衛大臣は「硫黄島が激戦の地であった状況を表現するため、当時の呼称を用いたもの。その他の意図は何らなかったとの報告」「大東亜戦争という用語は、現在一般に政府として公文書において使用していないことを踏まえ修正」との見方を示している。

 岩田氏は「表現の自由だから問題ない。アジア侵略を賛美する文脈であれば問題だ」というが、辻田氏は「個人ではなく、自衛隊公式のアカウント。政府や防衛省としての見解は議論されていない」と返す。また、論点は他にもあり、「“太平洋戦争”の呼称には、左派からの批判もある。戦場となったのは主にアジアだが、日米が太平洋上で戦っているようなイメージを持たれてしまう。そこで“アジア・太平洋戦争”という呼び方も出てきた」と補足した。

■「“大”を使いたいなら“アジア太平洋日本大敗北戦争”」

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 ならば、どう呼ぶべきか。佐々木氏は「地域で考えれば『アジア太平洋戦争』。本当に“大”を使いたいなら、冗談っぽく言って『アジア太平洋日本大敗北戦争』。日本は“終戦”と言うが、実際には“敗戦”。国家目標を立て、組織的に対応したが、結果的には侵略戦争で普遍性もなかった。その反省が戦後のスタートだが、負けた大原則を外して『いいこともあった』と言うのは換骨奪胎でしかない」と話す。

 さらに、「自分たちが加害者であった歴史は、誇りある日本人として立て直すために重要。ドイツ人はナチスとしっかり向き合って克服してきた。克服する姿勢が、被害者側と共有できる歴史を作る。脳天気に“大東亜”と言うことは、歴史から何を学ぶかを忘却している」との考えを示す。

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 パックンは、アメリカでは「おおまかに“第二次世界大戦”として学んだ」と振り返り、「アメリカが戦ったのは三国同盟。日本はナチスとあまり関係ないと思っているが、アメリカ人から見れば『支えているじゃないか』となる。日本は被害者意識が強く、加害者意識が薄い。アメリカも反省すべき点が多々あるが、“大東亜戦争”は反省が含まれない言い方ではないか」と述べた。

 「名称すら決まらないのは、戦争博物館がないことが大きい」と辻田氏は推測する。「アメリカも諸外国も、国立の戦争博物館では近現代史が描かれ、国民が学習することで、歴史観のベースになる。歴史を『65点はいいことをした』『35点は間違っていた』といった配分で描く施設を、日本もそろそろ作るべき」と提案。

 佐々木氏は賛同しつつ、「国立と民間の博物館は少し違う」といい、「市民社会同士の歴史も構築しなければならない。“修復的正義”のもと、加害者と被害者が歴史的事実を共有しながら、二度と繰り返さないような歴史を共同で構築できる。新しい歴史づくりは、今の世代の責任だ」と自論を述べた。

 先日、辻田氏はフィリピンを訪れ、「日本が戦場にしたが、ASEAN世論調査では約97%が日本人に好感を持っている。現地の人に聞くと、『日本人を許しても、あのことは絶対に忘れない』と口をそろえる。歴史の共有は可能で、できる所からやっていくべき。新たな研究や国際情勢の変化で、和解できる場面はある」とした。

 こうした背景もあるなか、結局どのような表現がベターなのか。「“太平洋戦争”や、より中立な“第二次世界大戦”が無難。“大東亜戦争”を使う場合は、覚悟の上で使う必要があり、説明する責任も生じる」と答えた。(『ABEMA Prime』より)

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