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 「グリーンカレー」をはじめとしたレトルトのタイカレーを手掛ける「ヤマモリ」が、タイフードを販売開始して今年で25年目を迎えます。

 「グリーンカレー」「ガパオ」「マッサマン」など、今でこそタイのグルメは国内でも人気がありますが、発売当初ははたしてどれくらい知名度があったのでしょうか?

 ……と、気になっていた矢先に「ヤマモリのタイカレー全種を食べに来ませんか」とのお誘いがあったので、ヤマモリの東京オフィスへお伺いして、タイフード事業が始まってから今に至るまでのお話を聞いてきましたよ!

 お話してくれたのは、ヤマモリ 営業本部 マーケティング統括部 商品企画部長の弓矢健大さん。日本では知られていないタイのグルメの商品化に野望を燃やしていました。そのエピソードは追って。

「タイフードを日本へ」の前にタイで醤油を作っていた

ナベコ:こんにちは。今日はヤマモリのタイフードについてお話を聞かせてください。ヤマモリさんってもともと、お醤油の会社なんですよね。

ヤマモリ 弓矢さん:はい。明治22年に三重県で醤油の醸造業からスタートしました。

ナベコ:失礼ながら、あまりお醤油のイメージがなく……。

弓矢さん:醤油メーカーとしては比較的に新しい会社で、業界シェアとしては大きくないので仕方がないので。ヤマモリは、実は、レトルト食品への参入が早く、1969年に国内初となるレトルトタイプの「釜めしの素」を発売しました。 業界ではレトルト食品パイオニアとして知られています。

ナベコ:ずいぶん幅広く手がけてらっしゃるんですね

弓矢さん:そうですね。この他、プライベートブランド(PB)やOEMなども多く手がけていて、和洋中問わず様々なフードを作ってきた歴史があります。

ナベコ:へえ。でもまだタイカレーとのつながりが見えないです。なんでタイカレーを始めたんですか?

弓矢さん:えーと どこからお話ししたらいいのか。タイでの事業に関わったのは1988年が最初です。当時の取引先の会社のひとつがタイへの進出を計画し、合弁事業を持ちかけてくださったので、これに参加する形で出資したのです。

ナベコ:その時は他社さんが主体ということですか。

弓矢さん:そうです。最初はあくまで出資での参入でした。その後、縁があり、現地の会社との共同事業として、タイでの醤油醸造事業を始めました。当時、日本食が注目され始めていたので、タイ現地のレストランや食品工場へ、醤油をおろしました。

ナベコ:日本の味をタイに広めたんですね。

弓矢さん:はい。こうして、タイでの事業に関わるうちに、タイの食文化も正しく日本へ伝えるのが使命ではないかと考えるようになりました。それが今に繋がるタイフード事業のきっかけです。

ナベコ:へええ。

驚き! 最初は「タイカレー」の概念がなかった

弓矢さん:最初からタイカレーでいこうと決めていたわけではないですが、日本では国民食としてカレーが人気なので、受け入れられやすさを狙って、タイの伝統的な煮込み料理を、タイのカレーとして販売することにしました。

ナベコ:と言っても当時は、タイカレーって日本では全然知られてなかったんじゃないですか?

弓矢さん:それどころか、タイカレーという言葉自体がありませんでした。

ナベコ:え?

弓矢さん:現在、タイカレーとしてグリーンカレーマッサマンなどいろいろな種類のものが売られていますが、そもそも、タイではカレーという名前ではありません。タイでは「ゲーン」というスープのような煮込み料理をご飯にかけて食べる文化があります。これが日本人にとってはカレーに近いのではないかと、「タイカレー」と名前をつけました。

ナベコ:名前をつけて……、ということは、ヤマモリさんが日本での「タイカレー」の概念を生み出したということですか?

弓矢さん:当時の社長(現会長)はそのように言っています。 ただ、きちんと調べたわけではないので、同時期にタイカレーと名のる商品やメニューが本当になかったかどうかは定かではありません。一般的には使われていなかったことは確かです。

ナベコ:そうなんですね!

試行錯誤して作るも、スーパーの売り場がとれず

弓矢さん:「じゃあ、タイカレーを作ろう」と決まっても、道のりは簡単ではありません。まずはタイの料理についてきちんと学ばなくてはなりません。当時の開発担当はタイ現地の料理学校に通いました。

ナベコ:現地の学校に。それは、大変だったでしょうね。

弓矢さん:はは、最初に聞いた時はびっくりしたかもしれないですね。こうして基礎からかためていきましたが、現地の味をレトルト食品にするには壁がありました。というのも、タイカレースパイスだけではなく大量にハーブを使いますが、ハーブって加熱すると香りが損なわれてしまうため、レトルト食品に向いてないんですよ。

ナベコ:レトルト食品は加熱殺菌の工程がありますからね。へぇ~、同じカレーでもスパイスがメインのカレーと特性が違うんですね。

弓矢さん:そうです。当初はかなり苦労したそうですが、2年くらいの開発期間を経て、なんとか商品を完成させました。

ナベコ:最初に発売したのは、「グリーンカレー」「レッドカレー」「イエローカレー」の3種類。これを選定した理由は?

弓矢さん:グリーンカレーレッドカレーは現地でも最も食べられている「ゲーン」でしたので、まず最初に、と考えました。また、イエローカレーインドカレーの要素もあって、味覚的にも食べやすいので、こちらも加えました。

ナベコ:確かに、イエローは見た目がインドカレーのようですね。私はグリーンカレーが一番好きです。

弓矢さん:ありがとうございます。ありがたいことに、今もこの3種は好評ですし、他にも様々なタイカレーを発売していますが、先ほども申し上げたようにタイカレーという概念がまずなかったし、最初は商品をスーパーに置いていただくまでが大変で……!

ナベコ:そ、それは、お察しします……!

弓矢さん:営業はずいぶん大変な思いをしたようです。その中でも、こだわりの商品を揃えるような一部の小売店さんが、当初から「面白いね」と扱ってくださいました。

■次ページ[販売開始してもなかなか売れず。そんなヤマモリのタイカレーが跳ねたきっかけとは!?

苦節を乗り越えてようやく跳ねたタイカレー

弓矢さん:2000年4月にタイカレーシリーズが晴れて販売開始となりましたが、スタートしてからも売上げは芳しいものではなかったです。我々として多くのお客さんにタイカレーの味を知ってもらおうと、試食なども行いましたが、初めての方には「こんなの食べられない」とお声をいただいたり、それはもう……。

ナベコ:タイカレーをそれまで食べたことないと、びっくりしちゃうかもしれないですね。

弓矢さん:それでも、タイカレーの販売強化の方針はゆるめず、2004年にはタイカレーをはじめタイフードの製造を目的とした自社工場をタイに建設しました。タイのハーブスパイスを安心安全で衛生的に加工し、生産を広げるためには自社工場が不可欠でしたから。

ナベコ:売上が伸びないまま! 大丈夫だったんですか?

弓矢さん:そうですね……。当初、工場の稼働率が低かったので、現地のスタッフに様子を尋ねたところ、従業員の手があまって工場内を清掃しているという話をききました。

ナベコ:うおお、焦りますね。でも、今はヤマモリさんのタイカレーって人気ですよね。私自身、普通のスーパーでよく見かけるので買っています。ヒットするきっかけってあったんですか?

弓矢さん:マーケティング専門誌の「日経プラス1」に取り上げられたのが大きかったです。「夏に食べたいぜいたくレトルトカレー」というのがあって、2010年に1位に選ばれました。これをきっかけに問い合わせが殺到しまして。2000年に発売してからおよそ10年、じわじわと成長してきたタイカレーの売れ行きが、急激に加速しました。

ナベコ:よかったです! ほんとに!!

弓矢さん:タイカレーが売れなかったから、タイの工場でタイフードではなく釜めしを作っていたかもしれませんからね。タイフードを挫折しなくてよかった。当時の社長がタイフードの事業を推進しようと言った時、社内では反対もあったそうですが(笑)、後になってみると先見の明でした。

ナベコ:反対があったんですね(笑)。まだ世に知られていないジャンルを展開するとなると慎重になりますから。きっかけがあったにせよ、他にはない味でクセになる、商品自体の魅力がヒットの秘訣ですね。

弓矢さん:そう言ってもらえるとうれしいです。最初食べるとびっくりするけど、次第に慣れて、おっしゃるようにクセになる性質があります。

ナベコ:日本でも徐々にタイのグルメが馴染んできたんでしょうね。タイカレーは他社さんの商品でもみかけるし、ファミレスでも「ガパオ」とかタイをテーマにしたメニューは珍しくなくなりました。

弓矢さん:そのような流れはあると思います。その中でも、ヤマモリが“本格的なタイの味”というイメージ付られたことは大きかったかと。スタート当時からの「タイの現地の味を日本へ」「万人受けしなくても、本当においしいものを」という理念が実を結んだものと思います。

ナベコ:そんなヤマモリさんが、今年新しいカレーを出したとか。どんな味か気になります。

弓矢さん:ふふふ、自信作ですよ!


 苦節をのりこえて今に至るヤマモリ。25年目となる今年、新作レトルトカレー「ゲーンパー」を発売。はたして、その味とは?

 後半に続く!→[え「タイカレー」ってこんなにあるの!? 「グリーンカレー」で有名なヤマモリの新作にびっくり
 

タイには「タイカレー」は存在しない…! 発売25年目のヤマモリ「グリーンカレー」の苦難