さまざまな事情を抱えた人たちが利用するラブホテル。一般的には、ドキドキ、ワクワクしながら、ときにはヒソヒソと向かう場所だ。

 しかし、ラブホ街に暮らす住人は違う。実家がラブホ街にあり、学生時代はラブホで清掃員としてアルバイトをしていた前田裕子さん(仮名・20代)。ラブホ街住人ならではのラブホ利用法や、住人も疑問に感じた変わった宿泊プランを教えてくれた。

夫婦喧嘩の一時避難場所

 ラブホにひとりで宿泊する人がいる。それはビジネスの出張だったり、ライブ参戦後だったりするケースがほとんど。しかし、意外にも多いのは、1日に何回も“派遣のお姉さん”を呼んで楽しむ男性や、帰る場所のない女性が男性を誘う場合だという。

 そんななかで、ラブホ街で暮らす住民があえてラブホを利用する理由は少し変わっていた……と前田さんは話す。

“実家に帰らせていただきます!”

「最近の夫婦喧嘩でも、このセリフは登場するのでしょうか。私の母も父と喧嘩をしたとき、よく“実家に帰らせていただきます!”と言い放ち、家を出ていきました」

 前田さんの母親の実家は、自宅と同じ区域のラブホ街にあり、すぐ行き来できる距離だったそうだ。

「心配になった私が、母の実家をのぞいてみると、母の姿はありませんでした。まあ、2日後には、母は元気に戻ってきて、何事もなかったようにしていましたが……」

 ある日、母親に「どこで過ごしていたのか」と聞いてみたという。すると……。

ママ友が経営するラブホにひとりで宿泊する母

「ああ、あれはね……Aちゃんの家でお世話になったの」

 Aちゃんとは前田さんの同級生で、同じ区域でラブホを経営していた。つまり、ママ友が経営するラブホにひとりで宿泊していたというのだ。

「いや~、噂には聞いていたけど、中もキラキラピカピカでビックリしたわ! 人に会わないし静かだし、ゆっくり過ごして気晴らしできて。お風呂も広いしベッドも広いし、お部屋でご飯も食べられるし……」と興奮気味に話す母親の“ラブホ初体験”がこの日だったそう。

「確かに廊下で人とすれ違うこともなく、部屋に入るときさえ気をつければ、プライベートは守られています。母のように少しだけ家出したい人にも、ラブホはオススメかもしれないですね」

 ちなみに、料金はかなり割引きしてもらい、朝食はラブホのモーニング、昼食は外食、夕食はママ友の母の手料理を部屋に運んでもらったと、嬉しそうに説明する母親にア然。前田さんの心配をよそに、母親の家出はラブホを満喫するという異様な出来事だった。

ラブホの宿泊プランは独特

 最近は、キャラクターをイメージした部屋や文豪気分を味わえる部屋など、さまざまな宿泊プランを提供するホテルや旅館が人気を博している。では、ラブホはどうなのだろうか。

 前田さんは、「私の実家があるラブホ街にも、おもしろい宿泊プランを売りにしているホテルがあります」と紹介してくれた。

 なぜ、ラブホ街の住人がそれを知っているのか。それは、看板やノボリが出ており、愛犬の散歩中に思わず立ち止まって見入ってしまうからなのだとか。

「ラフな服に、犬を連れてラブホの看板を凝視する……怪しい人に見えるでしょうね」

“ツーベッドのお部屋が6室ございます”

 ホテルAの看板にはこう書かれていたという。シングルベッドが2台置かれたツインルーム。一般的なホテルとしても利用でき、「ご家族、お友達とのご宿泊にご利用ください」とも強調されていた。

ラブホ街でもかなりギラギラした外観のホテルAなので、入りにくそうだな……と思ってしまいました」

女子会プラン始めました”

 ホテルBにはこう書かれたノボリが揺れていたという。

“ジャグジーでのんびり…シャンプーバイキング開催中!”
“カラオケに大画面での映画、アニメ見放題!”
“ケーキセットにドリンクサービス!”

「半日プランらしいのですが、防音装備もあるので、推し活に使うのもよさそうとは思いました。でも、エレベーターや廊下で賑やかな女性の団体に遭遇する可能性があるのは、利用者としては困ると思います」

◆高さ制限のない屋外駐車場、ラブホも団体客誘致か?

“第二駐車場あります”

 ラブホ街の端に位置するホテルCの売りは、高さ制限のない屋外駐車場があることだった。“バス、トラック駐車可能”と書かれているそうだ。

「団体客の利用が可能なのかもしれません。外国人観光客カプセルホテルが人気と聞いたことがあり、日本独自の文化のラブホも楽しんでもらえそうだなとは思いました。ただし、未だにホテルCの駐車場にバスが停まっているのを見たことがありません」

 長くラブホ街にいる前田さんも知らない“ラブホの謎”は、まだまだありそうだ。

<取材・文/資産もとお>

―[ラブホの珍ハプニング]―


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