オリジナルTVアニメ『アストロノオト』が放送・配信されている。本作は朝食付きのアパート“あすトろ荘"を舞台にしたSFラブコメディ。次から次へと魅力的なキャラクターやドラマが飛び出す作品で、総監督の高松信司と監督の春日森春木は、年齢や性別を問わず誰もが揃って楽しめる“テレビアニメらしいテレビアニメ”を目指したという。

エピソードを重ねるごとに面白さと熱量が上がっていく本作はいかにして生まれたのか? 両監督に話を聞いた。

本作の企画がスタートしたのはなんと8年も前! 『こちら葛飾区亀有公園前派出所』や『銀魂』シリーズなど数々の人気作を手がけてきた高松監督は、オリジナルで企画を立案。『ツルモク独身寮』や『ショコラ』などでも知られる窪之内英策がキャラクター原案を手がけることになっていた。

高松 窪之内さんからビジュアルもあがってきて、さぁ作ろうか! というタイミングで企画が閉じることになってしまったんです。でも、数年後に同じプロデューサーから「やっぱり、この企画をやりたい!」と連絡がありました。企画が一度ダメになったのは外的な要因が理由で、自分としては“泣く泣く企画を閉じた”感じだったので、ぜひやりましょう!という気持ちでしたね。

企画の一時凍結と再開が、結果として現在、私たちが楽しんでいる『アストロノオト』を生み出すことになった。

高松 最初の企画の時のお題は“ロボットもの”だったんです。ですから、ロボット+ラブコメで企画を立てて、窪之内さんにデザインもお願いして企画書をつくったんですが、企画がリスタートする際には“ロボットものじゃない”って言われたんですよ(笑)。その結果、SFラブコメという設定と、窪之内さんが描いた膨大な量のイラストが手元に残った。

窪之内さんは今ではいろんなアニメーションのデザインもされていますけど、この作品が初のアニメーションの仕事で、ものすごい熱量と物量で描かれたデザインでした。私としてもこの企画が一度閉じた時に後ろ髪がひかれる部分があるとすれば、窪之内さんに描いていただいたデザインが本当に素晴らしかったこと。

だから、リスタートする際には“このデザインから企画を考えよう”ということになったんです。最初は企画に対してデザインしていただいたんですけど、今度は“デザインありき”で企画が進んでいったんです。

その結果、ロボット中心の物語から、東京にある木造アパートで暮らす人々の物語に設定がシフトした。主人公の料理人・宮坂拓己は、朝食付きのアパート“あすトろ荘"に住み込みで働くことになり、大家の美女・豪徳寺ミラに恋心を抱いている。しかし、アパートの住人はクセ者揃いで、日々トラブルと事件が連発。さらに拓己は知らないが、大家のミラは宇宙人で“ある使命”を背負って地球に来ているという。

主人公とヒロインの恋の行方、コミカルな展開……本作の根幹にあるのは“あの頃のテレビアニメを現代の観客に向けてつくりたい”という高松監督の想いだ。

高松 80年代のシリーズアニメのテイストゴールデンタイムにお茶の間で家族そろって一緒に楽しめる、そういう作品を現代にやりたいと思ったんです。そこで浮かんだのが、あの頃、テレビアニメでたくさんやっていた“ラブコメ”でした。それを“昔のまま”やるのではなく、現代を舞台に、現代の人たちの事情や悩みを踏まえてやりたいと思ったんです。

そこで、短編アニメーションや『ドラゴン、家を買う。』などを手がける春日森春木監督がプロジェクトに加わった。

春日森 僕は80年代のテレビアニメを子どもの頃に家で観ていた世代です。でも、実際に作品をつくる上では“現代のラブコメをやる”というイメージでつくりました。もちろん、コンセプトや設定に80年代アニメ的な要素は感じるんですけど、懐かしいものをやろうという気持ちはなかったですね。

往年の人気アニメの持つ”王道感”がありながら本作に新鮮さを感じるのは、“あの頃のアニメ”の味わいと、現代の観客に向けた視点や表現が両立しているからだろう。

高松 いまの深夜アニメの多くはアニメーションが好きな人のための作品ですけど、そうではなくて、誰もが楽しめるものにしたかったんです。

作り手として楽しいことを楽しくやって、結果として楽しいものができた

春日森春木(監督)、高松信司(総監督)

本作は地上波放送だけでなく、配信でも楽しめるが、かつての地上波アニメや、週刊連載の漫画のように毎週1話ずつ観ていく楽しみがある。ひとつひとつのエピソードが楽しめる内容でありながら、シリーズを貫く謎や伏線、設定があり、週が進むごとに物語の熱量が上がっていく。

高松 脚本が“送り書き”なんです。最初に全体の長い物語を作ってから切り分けるのではなく、まず1話を作って、「さぁ2話はどうしよう?」と考えて、2話ができたら3話を……という風に作っていきました。だから、物語の真ん中あたりまで、いくつかの設定がまだ決まってなかったりもしました(笑)。そこは昔のテレビアニメと同じで、1年間続くアニメシリーズの最終回の内容は最初の段階では決まっていなくて、作っていく中で最終回ができていく。

今回は最終回の内容は決めてありましたけど、その過程は脚本のうえの(きみこ)さんとのやりとりの中で作っていく。そこが面白かったですし、「次週はどんな内容になるんだろう?」というテレビアニメのライブ感が楽しめると思います。

春日森 制作中はコロナ禍だったのでリモートで話し合いながら1話ずつ作っていきました。物語が進んでいってもいくつかの部分は自分たちでもまだ決めていない部分もあったりして。

高松 キャラクターが何かを探している時、実は自分たちも探していたりしましたね(笑)

春日森 制作さんは不安だったかもしれないですけど(笑)。僕たちは本当に楽しんで作ってました。

高松 ある程度まで脚本が進んだ時点で、最初の方の脚本を少し修正したり。そこはオリジナル作品の利点であり醍醐味ですよね。

本作のポイントは、作品が進化していくきっかけを“スタッフ全員”がもたらしたことだ。

春日森 うえのさんの脚本を読んで「このキャラクターにこんな過去があったのか!」と驚くこともありましたし、キャラクターデザインのあおき(まほ)さんが窪之内さんの漫画を読み込んで、各キャラクターの“ギャグ顔”を描いてきてくれたこともありました。

高松 “ギャグ顔”は窪之内さんが「ここまで読み込んで描いてくださってありがとうございます!」と言ってくださったものなので、もちろん、本編で使いました。作画からのアプローチもありましたし、中央集権型じゃなくて、みんなでアイデアを出していく。それこそがチームでアニメーションを作る面白さだと思うんです。

春日森 面白いものはぜんぶ採用! みたいな感じでした(笑)。とにかくキャラクターが面白いので、どうすればこのキャラクターが生きるのかドキドキワクワクしながら考えていきましたし、それがお客さんにちゃんと伝われば、同じようにドキドキワクワクしてもらえると思います。

作り手たちのアイデアが積み重なり、時間をかけて設定やドラマが膨らんでいった『アストロノオト』は、繰り返し観ることで新たな発見があり、1話観るごとに誰かと話したくなる魅力がある。

高松 テレビアニメって「昨日のあれ観た? 来週はどうなるんだろうね」って話をしながら楽しんでいたと思うんですよね。

春日森 昔は学校で話していたと思うんですけど、今はSNSもありますから1話ずつ観ていって、みんなで盛り上がってもらうと楽しめると思います。

高松 僕としてはすべてを作り終えて「ああ!楽しかった!」という感じです。作り手として楽しいことを楽しくやって、結果として楽しいものができた。そんな感覚はあります。

春日森 子どもの頃に好きだったアニメ、家族みんなで観ていたアニメ、みんなで話のできるアニメをいつか自分でもつくりたいと思っていたので、それが実現できてよかったなと思っています!

拓己とミラの恋の行方は? ミラが地球にやってきた使命の全貌とは? アパートの住人たちの予想外の過去とは? 1話ずつ楽しみ、予想し、誰かと感想を言い合いながら最終回まで楽しめそうだ。そして、まだ言えないが最終回は誰もが予想しなかった……『アストロノオト』は最後の最後の最後まで見逃せない!

『アストロノオト』

放送&配信中

Blu-rayBOX
9月25日(水)発売

(C)アストロノオトアストロノオト製作委員会

『アストロノオト』