「推し」という言葉が使われるようになって久しい。「推し」をテーマにした作品や「推し活」「推し事」といった関連用語も数多く誕生している。もともとはアイドルグループやアニメ・ゲームのキャラクターに対して使われていたが、近頃は「推し」の存在も多様化しつつあるようだ。もしも、「推し」が自分の家族になったら?遠い存在であるはずの「推し」と近しい間柄になったら?

【漫画】本編を読む

一風変わった「推し」との関係性を描いた、かときちどんぐりちゃん(@katokich)さんの「推し嫁ルンバ 嫁ぎ先のお姑さんがいつも私に冷たいと思っていたら、実は推しとして見られていた話」が電子書籍化され、話題を呼んでいる。

息子の嫁・朋美にひとめぼれした姑・エマ。「推し」である朋美との同居生活が始まると、エマは平静を保てずに、動揺する日々が続く。たとえば、真夜中にふと目覚め、自室を出た所で朋美に遭遇して、心臓が止まりそうになる。また別の日には、パックをしている最中、朋美に声を掛けられて思わず叫び声をあげてしまう…。「推し」と一つ屋根の下に暮らすというのは、かくも身が持たない生活のようだ。

「嫁が眩しすぎて顔を直視できない、口もきけない」エマと、「私なんてどうせ気に入られていない」と悲観する朋美。すれ違いの日々が続くが、2人の心中を察して、何とか勘違いを解きたいと奮闘する周囲の人々。そして、多くの読者からも、エマと朋美のもどかしいやり取りに共感と応援のコメントが寄せられた。作者のかときちどんぐりちゃんさんに本作を制作する中での苦労や喜び、そしてご自身のお話について聞いた。

■エンターテインメントに徹することの難しさ

――お気に入りのキャラクターについてお聞かせください。

エマの一人息子・ひろしです。飄々としたところが朋美さんにぴったりだと思っています。

――本作を描いている中で、一番苦労されたことは何でしょうか?

連載を開始する前に大まかな全体の構想を練って、編集部と情報共有しながらブラッシュアップしていったのですが、最初に提出したプロットが説教くさい感じだったため「エンターテインメントに徹してください」と差し戻されました。その後も、自分では思いもよらない展開やセリフを提案されることがあり、逡巡する思いもありました。でも、振り返ってみれば、お陰で自分のアウトプットの間口が広がったのだと思い、感謝しています。

――本作を描いている中で、一番うれしかったことは何でしょうか?

SNSを通じて多くの皆さんからたくさん感想をいただいたことと、尊敬している先輩漫画家さんから「楽しみに読んでいるよ」と言われたことです。

■心から楽しく描けたのは、読んでくださった方の存在があったから

――漫画はいつ頃から描かれていますか?また、描くようになったきっかけについてお聞かせください。

幼い頃からノートの端っこに絵を描いて、漫画家になりたいなと思っていました。30歳近くになってから4コマ漫画を雑誌に投稿し始め、一時期連載を持ったものの数年でとん挫。コロナ禍で本業が暇になって数十年ぶりに漫画熱が再燃し、SNSに自作を掲載するように。お陰様で、徐々に読んでくださる方や絵描き友達が増えました。

――好きな作品や影響受けた作家さんについてお聞かせください。

生まれて初めて好きになった漫画は少年チャンピオンの「マカロニほうれん荘」でした。その後、同級生の影響で萩尾望都さんの作品を読むようになり、少女漫画にハマりました。

――今後、どのような作品を描いていきたいと考えていらっしゃいますか?

誰も読んだことのないような、世界に1つだけの不思議な漫画を描いてみたいです。

――読者の方にメッセージをお願いします。

「推し嫁ルンバ」執筆中は、SNSを通じて読者の皆様から寄せられる感想が、何よりも励みになりました。商業メディアで漫画を発表する、という初めての挑戦でしたが、苦しい気持ちを感じることなく、心から楽しく描けたのは読んでくださった方の存在があったからです。インターネットですぐ反応をいただける今の時代に発表する機会があり、本当によかったです。この場を借りて深く感謝申し上げます。

息子の嫁・朋美が眩しすぎて直視できない姑・光林寺エマ。仲良くしたいのに、嫁の前ではそっけない態度を取ってしまう。「推し嫁ルンバ 嫁ぎ先のお姑さんがいつも私に冷たいと思っていたら、実は推しとして見られていた話」より