X(Twitter)のホラー界隈で知らぬ者はいない人間食べ食べカエル氏(@TABECHAUYO)によるホラー映画コラム「人間食べ食べカエル テラー小屋」では、"人喰いツイッタラー"が、オソレゾーン関連のオススメ作品を厳選し、その見どころを語り尽くすします!

【動画】「胸騒ぎ」予告編

今回は、オソレゾーンが配給協力する「胸騒ぎ」の見どころを語っていただきます。

「ボーダー 二つの世界」「ハッチング 孵化」「イノセンツ」など、陰鬱なホラー・スリラー映画を次々と放つ北欧映画界。そこに新たな衝撃作が名を連ねた。北欧はデンマークより放たれた「胸騒ぎ」は、観れば間違いなく人間が嫌いになる恐るべき映画である。

休暇でイタリアを訪れたデンマーク人の3人家族が、現地でオランダ人一家と出会う。意気投合した2つの家族はそのまま解散。そして数週間後、オランダ人一家から招待を受けた3人は彼らの住む家へと向かう。それが恐怖の入り口だった……。

ホラー映画にも色々なジャンルがあるが、本作はヒトコワ系に属する。この映画には人間の悪意が、それはもうたくさん詰まっている。胸糞悪いという言葉だけでは足りない。よくもまあそんな邪悪な展開を思いついたな!と言いたくなる。ちなみに、監督曰く自身が実際にある家族と出会った実体験をベースに、話を膨らませて本作の製作に至ったとのことだ。

主人公一家が出会うオランダ人家族は、やたらフレンドリーに話しかけてくる。この時点で危険レーダーがピコンとなるが、とはいえ、それで無下にするのも難しかろう。そうしているうちに、あれよあれよという間に距離を詰められて、何だかんだで流されて先方の家に行くことになる。

ここからしばらくは、タイトルにもなっている「胸騒ぎ」にフォーカスがあたる。この映画のいやらしいところは、家に行ってすぐに何か起きるわけではなく、ただず~~~~~っと、なんか相手のちょっとここが変だなぁとか、この言動モヤっとするなぁみたいな、小さな小さな違和感と不快感を積み上げていく点にある。エンタメホラー的に「家に入ったら殺人家族でした!」で、血みどろスプラッター!みたいなことにはならない。自然に囲まれた美しい映像とともに、胸の中をざわつかせる違和感を描き、観客の不安を丁寧に育て上げていく。ここが他のヒトコワスリラーと一線を画す本作の肝である。とにかく、この過程が精神的にキツくてしょうがない。息の詰まるような人間模様を堪能することが出来る。

劇中では、人間同士の関係性から生じるパワーバランスも露わになる。異なる2つの家族が一つ屋根の下で共に過ごす。片方が招待してもてなし、片方がそれを受ける。その関係性は決して公平ではなく、なんとなく立場の上下を感じてしまう。自分たちの家ではなく赤の他人の家で過ごすため、やはり招待された側はアウェイな空気を感じる。更に、主人公一家はもてなされているという立場上、何か変なことがあってもすぐにそれを指摘しづらい。

こうして何となく動けないでいるうちに、違和感は加速度的に増していくのだ。そして遂に事態が急変する。この一連の流れは非常に生々しく感じた。この映画では、人間の悪意だけでなく、どうしようもない弱さも同じくらい描かれている。何か変なことがあっても、自分に非が無く一方的に害を受けても、それに対して何も言えない。ちょっと踏ん張っても結局すぐ受け流されて元の上下関係に戻ってしまう。結果、それが首を絞めて自分の立場が更に弱くなる。地獄を煮詰めたみたいな悪意があふれ出し、なあなあで受け流す弱さがそれを最大限に増幅させる。

私もどちらかというと気弱な方で、他人にあまり強く指摘することができない。そうしていると、人によってはどんどん増長していって、その挙句に舐め腐って無茶な要求をしてきたりする。別にケンカを売れというわけではないが、最低限、相手と対等な立場で関係性を築くために堂々とする必要はある。本作を観ていてその考えを思い出した。

見終わった後は、確かに心底落ち込んだけど、不思議とそれと同時に気合も入った。この映画はただ気分を悪くさせるために作られたのではない。多分だけど、ちゃんと言うべき時に言わないと、やると決めた時にやり切らないと大変な目に遭うよ、という啓蒙も兼ねているのではないだろうか。これは非常に辛い映画ではあるが、他人にナメられがちな人にも観てほしい。そんなことを思わされる映画だった。

オソレゾーン配給協力作品「胸騒ぎ」(5月10日より新宿シネマカリテほか全国公開)は、5月3日(金)~5月6日(月・祝)、シネマ映画.comでで劇場公開前プレミアム配信。5月2日(木)までお得な前売り券を販売中です。ぜひこの機会にシネマ映画.comをご利用ください。

「胸騒ぎ」 © 2021 Profile Pictures & OAK Motion Pictures