情報統制が厳しい中国のSNSに、新型重攻撃ヘリの映像が投稿されています。輸出規制で部品などが入手しづらい中、より大型化されたとみられる攻撃ヘリの性能は如何ほどでしょうか。中国軍が台湾有事で投入する公算は大きいでしょう。

名称は「Z-21」か

中国のSNS上に2024年4月、「重攻撃ヘリコプター」と称する機体の映像が投稿されました。噂のあった新型攻撃ヘリコプター「Z-XX」で、「Z-21」と呼称されることになりそうだと投稿されています。情報統制されている中国のSNS上で新兵器が登場するということは、すでに開発は最終段階に来ていると見てよさそうです。

写真を確認すると、現用の中国軍Z-10攻撃ヘリコプターよりも大型化し、武装も強化されて、アメリカのAH-64アパッチ攻撃ヘリコプターと同様のコンセプトデザインと思われます。

攻撃ヘリコプターは空から柔軟な攻撃ができるプラットフォームとして重用されてきましたが、ロシアウクライナ戦争でその様相は変わりました。戦場の低空域ではドローンが無双状態です。両軍は防空システムを恐れて、有人ヘリコプターの活動域を狭めており、攻撃ヘリコプターも前線の後方を超低空飛行し、ロケット弾の射程を伸ばすため高射角で射撃して引き返すというあまり効果が期待できない使われ方をしています。偵察手段としてはすっかりドローンにお株を奪われてしまいました。

日本では防衛省が2022年12月に発出した、いわゆる「安保3文書」の防衛力整備計画の中で、攻撃ヘリコプターと偵察ヘリコプターを全廃する方針を示しました。またアメリカは2024年2月に将来型攻撃偵察機(Future Attack Reconnaissance Aircraft:FARA)プログラムをキャンセルしています。有人攻撃ヘリコプターの将来は明るくないようにも見えますが、中国が新型の重攻撃ヘリコプターを開発する意味は何なのでしょうか。

課題だったヘリコプター戦力の拡充

Z-21についてはまだ何も明らかにされていませんが、中国版UH-60ブラックホークともいわれる多用途ヘリコプターZ-20から発展したものと思われます。中国の軍事ブロガーによれば、Z-20と同じ動力装置とローターシステムを流用しているようで、開発リスク低減と期間短縮のためできるだけZ-20との共通項を多くしたとみられます。Z-21は2~3年で就役できるかもしれません。

胴体は外見上、Z-20よりもスリムになっており、攻撃ヘリコプターの標準的なタンデム座席配置となっているようです。自衛用チャフ散布装置や、電子戦用、通信用と思われるアンテナ類が見られ、エンジン排気管は赤外線放出を地上から検知されにくくなるよう上向きとなっています。

中国軍ヘリコプター戦力の拡充を課題としていました。現用のZ-10は初めての本格的攻撃ヘリコプターですが、原設計はロシアのカモフ設計局とされます。試験機ではカナダターボシャフトエンジンPT6C-67Cが搭載されていたのですが、輸出規制のため量産機では国産のWZ-9を搭載せざるを得ず出力が落ちてしまいました。

Z-21の開発には、Z-20を担当するハルビン飛機工業集団と、Z-10攻撃ヘリコプターを生産する昌和飛機工業公司が関与していると報じられています。しかし、多くの技術がまだ輸入頼りというのが現状です。

Z-10は陸軍と空軍で採用されましたが、海軍は使用していません。水陸両用作戦を直接支援する攻撃ヘリコプターは海軍にも有用と考えられるものの、海軍陸戦隊の航空旅団にも海軍航空兵にも配備されていません。理由は不明ですが、Z-10では力不足と判断されたようです。

なお、Z-10はパキスタンが採用を検討し、「高温かつ高所の環境での出力不足」を理由に見送ったという経緯があります。その後、中国はヘリコプターターボシャフトエンジンの研究開発に努めました。Z-21のような大型機にも十分な出力を提供できるエンジンが完成したのか、注目です。

決して時代遅れではない「有人ヘリ」

Z-21は台湾方面を睨んでいることは間違いなく、台湾海峡周辺にはヘリポートが建設されており、台湾有事ではヘリコプター部隊は重要な役割を果たします。建造が続く4万トンクラスの075型強襲揚陸艦に搭載され、水陸両用作戦の直接支援に当たる可能性が高いでしょう。さらに南シナ海の人工島、インド国境付近でも使えます。

中国は有人攻撃ヘリコプターの有用性を認めているようです。ロシアウクライナ侵攻で、「空飛ぶ戦車」ともいわれるKa-52アリゲーター攻撃ヘリコプターを投入しました。戦争の初期段階では防空システムに引っ掛かり多くのKa-52が失われたものの、2023年の夏には電子戦との併用など適切な戦術を開発し、供与された西側戦車を含む多くのウクライナ軍戦闘車両を破壊する戦果を挙げたと、イギリス国防省は評価しています。使い方次第というわけです。

またイスラエルも同様で、AH-64Eアパッチを増勢しようとしています。対ハマス作戦では、ドローン攻撃による目標周辺への付帯被害が批判されており、対峙するハマスアラブ武装勢力には有力な防空システムも無いので、ドローンを精密にコントロールする役割を持たせる(有人・無人機チーミング)ことを考えているようです。

台湾有事では陸海空の様々なアセットが動員され、システムとして運用されるでしょう。空にも様々な固定翼機、ヘリコプター、有人機、無人機が投入されると見られ、Z-21もそのひとつに過ぎません。使えるアセットの量と種類は多ければ多いほどよい、というだけのことかもしれません。

中国版UH-60ともいわれるZ-20。新型「Z-21」はこの発展型とも(画像:中国ニュースサービス