多くの人にとって未知の経験である「カウンセリング」。しかし、長年精神科に漫然と通っていても、今ひとつ調子の上がらない人は少なくないという。そのような人は、一度“トラウマ”の可能性を疑ってみるといいだろう。例えばトラウマによって「複雑性PTSD」を発症していないかなどだ

 科学的エビデンスにもとづいたトラウマ治療の啓蒙は重要だが、そのすぐ脇には、「新宗教」「カウンセリングおばさん/おじさん」「スピリチュアル」といった悪徳ビジネスが待ち構えている。いかにこれらの“野良カウンセラー”を忌避するかも、今や患者にとって必須のスキルとなりつつあるのだ。

 苦労の果てに公認心理師および臨床心理士資格所持者の治療にたどり着いたというのは、生い立ちのトラウマに起因する複雑性PTSDを抱える都内在住の宮崎サチさん(仮名・39歳)だ。彼女に話を聞いた。

◆5000円支払い小一時間説教を受ける

新興宗教とか、スピリチュアルはさすがにやばいだろうってはた目にもわかります。でも『カウンセリング』を標ぼうされるとわからなかったんですよね。後で知ったんですけど、『カウンセラー』『セラピスト』は名称独占じゃないからやりたい放題らしいですね。すっかり騙されましたよ。まあ私が無知だったと言えばそれまでなんですけど……」

 そう語るサチさんは「『公認心理師』と『臨床心理士』の資格を両方持っている人じゃないと絶対ダメ」と何度も念押しした上で、民間の野良カウンセラーに「騙された」という経験を語り始めた。

「『なんとか心理カウンセラー』にかかっちゃったことがあるんです。カフェの2階みたいなところに通されて、なにかの『裏紙』に個人情報を全部書くよう強制されました。過去の傷つき体験を話したところ、『あなたの自信のなさが全然ダメ』『自分で不幸を呼び寄せている』と説教を小一時間受けました。全く納得できない内容だったんですけど、料金の5000円はなんの躊躇もなくしっかり取られました」

スタバで患者を号泣させた様子をSNSに投稿

「ちょっと前にネットで見たんですけど、スターバックスで『カウンセリング』して患者を号泣させて、その一部始終をSNSに誇らしげにアップする『カウンセラー』もいたみたいですね。今は投稿を削除してるみたいですけど……本当、気をつけなきゃダメですね」

 そんなサチさんが「公認心理師と臨床心理士のダブルライセンス」に強くこだわるのは、「どちらかを所持しているだけでは安心できなくて、両方持ってることで最低限のスタートラインに立てるから」だという。

「私も『臨床心理士』だけ持ってるカウンセラーにかかったことがあるんです。通院先のカウンセリングルームだったんですけど、主治医は信頼できるし、まあ大丈夫だろう、と甘く見積もっちゃったんですよね」

◆カウンセリングで毎回「結婚」を勧められ…

 そのカウンセラーは「ユング心理学が専門」と語ったとのことだ。

インテーク面接(初回のカウンセリング)で私にトラウマがあることはおおかた話したつもりだったんですよ。そしたらそのカウンセラーは『私は宮崎さんほど大変な経験はしてないからわからない』って……。仕事のやる気はあったみたいですけど、毎回のカウンセリングでトラウマ体験を執拗に根掘り葉掘り聞かれたので、しんどくなってしまったんですよね。私が苦しくなってカウンセリングを止めることを相談しても、次の予約を強制的に入れられまして……。止めるのに苦労しましたね。

『書く』と言ってた引継書も結局書いてくれませんでしたし。私の傷ついた体験は先生が自分の『肥やし』にするためにあるのかって、ほんと悲しくなりましたね。他にも、同じく臨床心理士の先生ですけど、カウンセリングで毎回私に『結婚』をすすめてくる人もいましたね

◆“治療迷子”の果てに…

 現在、サチさんは「ソマティック・エクスペリエンシング」を始め、「EMDR」などの身体的なトラウマ治療を継続中だという。

「まず心理教育を通して、自分はダメだっていう考えの修正を図るんです。ある程度土台が整ってきてからEMDRのスタートです。トラウマ記憶を思い起こしながら先生が左右に振る指を目で追うんです。パルサー”っていう、振動する道具……黒いたまごみたいなんですけど……それを手で握ったこともあります
 
 サチさんは手元のスマホで素早く検索し、「あったあった」と“パルサー”のサイトを見せてくれた。

「ちょっとうさんくさいですよね(笑)。科学的なエビデンスに基づいたトラウマ治療なことははっきりしてるんですけど、見た目怪しげだなーって。だからこそ、公認心理師・臨床心理士2つの資格を持ってることは必須なんですよね。有資格者で、研修でトレーニングを受けた人でないとEMDRはやっちゃいけないことにもなってますしね

 トラウマがより複雑になるほど、治療の完成までの道が長いことは事実だろう。余計な回り道をせずに済む人が一人でも増えれば幸いである。

<TEXT/二階堂ゆり>

二階堂ゆり】
ライター。東京都在住。ギャグ漫画をこよなく愛する。好きな作品は『スナックバス江』、『無能の鷹』など。分野は医療や福祉、学問が中心だがなんでも書きまくりたいと思っている。積極的に取材も行う

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