【元記事をASCII.jpで読む】

 Fastlyは、2024年4月19日、2024年度の事業戦略説明会を開催、あわせて、ぐるなびによるCDNおよびWAFの活用事例が披露された。

 同社は、CDN(コンテンツ・デリバリー・ネットワーク)をはじめとする、企業システムとユーザー間で必要となるウェブ技術を「エッジクラウドプラットフォーム」より展開している。

  Fastlyのカントリー・マネージャーである今野芳弘氏は、「現在、生成AIが注目されているが、ユーザーとの間に位置するウェブ技術をバランスよく統一することで、投資したAIやB2Cのシステムがビジネスの役に立つ」と提案する。

エッジクラウドプラットフォーム”を中核に4つの領域でサービスを展開

 Fastlyのエッジクラウドプラットフォームでは、主に4つの領域のサービスを展開する。

 CDNやメディア配信、画像最適化、ロードバランシングなどの「ネットワーク」、WAFやレート制限、DDoS対策などの「セキュリティ」、グローバルでスケールされるサーバーレスの「コンピューティング」、そして、同社サービスやユーザー体験をリアルタイムに監視する「オブザーバビリティ」だ。

 これらが、グローバルで313Tbpsのネットワーク容量を備えた、プログラマブルな単一のプラットフォームから提供される。

 Fastlyの日本法人の設立は2015年であり、国内においてもメディアや金融、コマース業界を中心にサービス導入が進んできた。その中で、4つの領域のサービスをフル活用しているのが日本経済新聞だという。

 同社は日経電子版において、ユーザーに近いエッジキャッシュからコンテンツを返して、約90%のキャッシュヒット率で、最新のコンテンツを高速に表示する仕組みをFastlyで構築。ユーザーの行動ログもビジネスに活用し、パブリッククラウドの約400台のサーバーを、運用コストを軽減できるFastlyのサーバーレスのコンピューティングに変更している。

 FastlyのCDNの特徴は、キャッシュされたコンテンツを高速にパージ(削除)できることだ。オリジンのコンテンツが更新された際には、平均150ミリ秒というスピードで、即座に最新情報に置き換えられるという。加えて、静的・動的コンテンツの両方をキャッシュして、より高速なユーザー体験を実現する。

月間UU数3200万人の「楽天ぐるなび」を支えるFastlyのCDNとWAF

 説明会では、FastlyのCDNとWAFを活用する、ぐるなびのCTOである岩本俊明氏が登壇。「Fastlyを導入したきっかけは、CDNの高速なキャッシュパージ機能が魅力的だったため」と説明する。

 ぐるなびの運用する飲食情報サイト「楽天ぐるなび」は、月間ユニークユーザー数は3200万人(2023年12月時点)かつ会員数は2563万人(2024年1月1日時点)であり、掲載店舗にアクセスするために、常に大量のトラフィックが発生しているという。

 サービスパフォーマンスの向上がユーザーの満足度に直結するため、「常に改修をし続けてきた」と岩本氏。一方で、ユーザーに魅力的な体験を届けるべく、サービスや機能を拡充するほど処理は複雑になり、結果的にパフォーマンスが低下してしまうという課題を抱えていた。

 また、楽天ぐるなびは、ほぼすべてが動的サイトであり、例えば店舗の更新した情報をすぐに反映するなど、最新情報を提供し続ける必要があった。「通常のCDNでキャッシュすると、古い情報が出てきてすぐに消さなければいけない。動的サイトにおいては、リアルタイムにキャッシュをパージできる機能が重要」(岩本氏)。

 加えて、ユーザーのアクセスが北海道から沖縄まで地理的に分散しており、通常のCDNではロングテールなリクエストに対してキャッシュが分散し、ヒット率が低下してしまう。そのため、配信拠点がたくさんある分散型のサービスではなく、Fastlyのような戦略的に配信拠点を配置することでパフォーマンスを高める“集中型”のサービスが求められた。

 ぐるなびはFastlyのCDNを導入することにより、キャッシュヒット率を90%以上に向上させ、かつ東京・大阪の配信拠点を利用する構成をとることで、最大で20倍のサイト高速化を実現している。「パフォーマンスを維持しながら、より動的サイト、よりユーザーが求める機能を拡張できるサイトを展開できている」と岩本氏。

 もうひとつのFastlyの活用が、WAFによる運用の効率化だ。「従来型のWAFは、専門的な知識が必要なことが一番のネック」と岩本氏。例えば、ルールを正規表現で記述するといった手動での運用は、手間も費用もかかる上に誤検知のリスクもあり、自動で検知・ブロックする“ブロッキングモード”を利用するのが難しかった。

 Fastlyが提供する「Fastly Next-Gen WAF」は、各リクエストのコンテキストに基づき脅威を検出する「SmartParse」などで脅威検知率を高めており、「約90%のユーザーがブロッキングモードで運用するなど、誤検知が少ないことが特徴」だとFastlyの今野氏。

 ぐるなびは、PoCでの閾値の調整などを経てNext-Gen WAFを導入、現在、完全なブロッキングモードで運用されており、誤検知も発生せず、脅威をブロックできているという。岩本氏は「これまで、WAFに張り付いていたネットワークエンジニアが別の仕事に回ることができている」と成果を語った。

“Fastly=CDN”からの脱却を図り、新規パートナー獲得を目指す

 最後にFastlyの今野氏から2024年度の事業戦略が説明された。

 同社は“CDNからエッジクラウドプラットフォーム提供者へ”という目標を掲げ、日本経済新聞やぐるなびなどの実績を基に、これまでの“Fastly=CDN”というイメージの脱却を図る。「既に多くの顧客がエッジクラウドプラットフォームをフルに活用しており、普及を促進すべく、ユースケースやメリットの整理や拡大に取り組む」と今野氏。

 そのために注力するのがパートナーエコシステムの拡大だ。現在、IDCフロンティアインフラレッドの2社であるリセラーパートナーを拡充していくと共に、2024年2月にはマネージドサービスのパートナープログラムを開始、新規MSPパートナーの獲得を目指す。

 また、セキュリティのポートフォリオに、エッジクラウドプラットフォームを活用してボットを検出し、不正なアクセスを遮断する「Fastly Bot Management」を追加。このようなセキュリティの新機能や、リアルタイムCDNを中心に、パートナーと共同でサービスの訴求を進めていく。

 

 またセキュリティにおいては、A10ネットワークスとの戦略的なパートナーシップも拡大していく。2023年には「A10 Next-Gen WAF, Powered by Fastly」が提供開始され、「A10 Thunderシリーズ」のアプリケーション配信・負荷分散の拡張機能として、FastlyのNext-Gen WAFが統合された。

 共同セミナーの開催やA10ネットワークスのパートナーへのトレーニングを実施し、新たな市場に対する訴求を強めていく。

「楽天ぐるなび」のユーザー体験を支えるFastlyのCDNとWAF