過去にヒットしたドラマ作品のリメイク版には、不安がつきものである。でも心配無用。令和には今田美桜が気を吐いて演じているからだ。



花咲舞が黙ってない』(日本テレビ)公式サイトより



 毎週土曜日よる9時から放送されている『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ)は、杏が主演した第1・2シリーズ(2014年、2015年)のリメイク作品だ。第3シリーズの主演は、今田美桜。ほんとに頼もしい。


 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、“リメイク請負人”としての今田美桜を解説する。


今田美桜白羽の矢
 古い価値観を変えるためには、ゆるやかな変革が必要である。筆者は基本的にはこう考えているが、穏健な態度ではどうしても変わらないときがある。ならば、過去の悪しき因習を根っこから抜き取ることも必要か。


 過去からタイムスリップしてきた昭和世代代表の不適切おじさんが、コンプラ的にアウトかどうかと毎回、頭を抱えながら、さまざまな問題に対して奮闘する『不適切にもほどがある!』(TBS、2024年)は、痛快なドラマ作品だった。過去も現在も喝破してしまう阿部サダヲは、強烈さのド直球。


 令和代表にだってド直球な大人物はいる。白羽の矢が立ったのは、今田美桜だ。若者世代ならではの感覚を研ぎ澄ませて、旧世代をやり込めることも辞さない。『花咲舞が黙ってない』の今田は、恐るべき動物的な勘を頼りに、あっちこっちへ奔走する。


◆地道な調査と手続き




 第1話。東京第一銀行の羽田支店勤務だった花咲舞(今田美桜)が、本部の臨店班に異動になる。初仕事は、まさかの羽田支店への臨店指導。監督する側の臨店とされる側の支店との関係性はあまりかんばしくない。


 それまで仲良くしていた同僚も、臨店班に配属された舞とはろくに口を聞こうともしない。彼女なりに働く環境の変化は受けとめつつ、いざ外から前の職場を点検すると、不審な点がいくつも見つかる。


 見つけたからには、ほっとくわけにはいかない。元上司の支店長・藤枝賢造(迫田孝也)に食い下がる。不正をつきとめるため、地道な調査を行い、変革の手続きをひとつひとつ重ねていく。


◆昭和世代の“あるクセ”




 有力な手がかりとなったのは、融資課の先輩だった根津京香(栗山千明)のあるクセだ。支店勤務時代、舞を呼び出すとき、根津は手書きのメモを渡していた。そのメモに書かれた「御願いします」でピンとくる。


 手がかりとなる文書にも「御願いします」とあり、舞は、「お」をわざわざ「御」に変換するのは、根津しかいないはずだと推理する。そうとわかれば、直接確認。その場面がなかなか面白い。


 変換のクセを指摘する舞は、「ここ、漢字で書く人、今どきなかなかいなんで、昭和っぽいっていつもつっこんでたんですけど」とストレートにバッサリ。「そんなことで」と鼻で笑う根津に対して、舞が食い気味の「はい」。間髪入れずに迫る舞の性格はキツい。単にキツいだけでなく、今田が演じると、さわやかなキツさとなる。


◆機械的な性格と感情が同期する面白さ
 このさわやかなキツさが、花咲舞というキャラクターの行動原理になっている。不正に気づいたら、すぐ行動。おかしいことはおかしい。これは指摘すべきかどうか。なんて考えない。


 考える前から、口をついて正当な言葉を繰り出す。だからキツい。無意識のキツさだ。ある意味、機械的ではあるが、その分、精度はいい。だったらいっそのこと、不正取締役サイボーグにでもしたらどうかとも思うが、そういうことでもない。


 生身の今田が演じることで、トライアンドエラーを繰り返す主人公の心の成長物語でもある。『不適切にもほどがある!』の阿部サダヲのような明らかな人情肌とは違い、きちきち不正を取り締まる機械的な性格と人間としての等身大の感情が、次第に同期する様子が面白いのだ。


◆時代に合わせてリニューアルする“リメイク請負人”



花咲舞が黙ってない』HPより



 本作は、杏主演で2014年と2015年に放送された第1・2シリーズのリメイク作。ちょうど10年前と2024年の現在では、びっくりするくらいコンプラ的状況への過敏さは違う。もっと早くからアップデートされてたら、こんな過敏になる必要はなかったのだが。


 杏主演版では、終始、無表情に近いクールな演技によってサイボーグ感がかなり強かった。2024年版では時代に合わせて、機械的な性格は残しつつ、全体としては過敏な時代に対する角がとれている。キャラクター自体が、ゆるやかな変革のアップデートを示しているともいえる。


 石田ひかり主演の1992年版を30年ぶりにリメイクした『悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~』(日本テレビ、2022年)も今田主演。


 今田が演じたのは、規格外の存在として社内をばしばし変革する新人社員だ。過去から現在に物語世界をアップデートしながら、作品を時代に合わせてリニューアルする“リメイク請負人”今田美桜の役割は、もっと評価されて然るべきだ。


<文/加賀谷健>


【加賀谷健】音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu



『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ)公式サイトより