訪日外国人にも人気だというJR品川駅の「アトレ品川」にある「BLUE BOTTLE COFFEE」。スーツ姿の日本人が黙々と行進する“社畜観察カフェ”というわけだが、漫画家・コラムニストの辛酸なめ子さんが次にブレイクしそうな○○観察カフェを、霞が関と渋谷で発見した――。

■東京・JR品川駅内「社畜観察カフェ」に行ってみた

先日「社畜観察カフェ」と呼ばれる東京・JR品川駅内のあるお店が話題になりました。港南口と高輪口を結ぶ長い通路「レインボーロード」を見下ろす位置にある「BLUE BOTTLE COFFEE」(「アトレ品川」3F)。ここから、同ロードを通る、数多のビジネスパーソンをコーヒーすすりながら見下ろしゆっくり流れる時間を満喫し、優越感に浸るというのが「社畜観察カフェ」の由来だそうです。インバウンド客には「日本のサラリーマン群像」をウオッチできるスポットとして知られているそうです。

1日約70万人が乗降すると言われる品川駅。スーツ姿の人が黙々と行進する姿は圧巻で、スマホで撮影する人も少なくなかったようです。観察される側からクレームがあったのでしょうか、「BLUE BOTTLE COFFEE」には「NO PHOTOGRAPHY」と、スマホカメラで通行人の写真撮影は禁止との英字表記もあるそうです。

通行量が多い退社時刻くらいにこちらのカフェに行ってみました。

まず、コンコースを通って目についたのは「BLUE BOTTLE COFFEE」の窓際の席にずらりと並んでいる人々の顔。首が横に並んで浮き上がっているようで、観察しながらも、逆に注目を集めているような……。無表情だと感じ悪いと反感買いそうなので、微笑んで見下ろしたほうが良いかもしれません。

カフェに入ると、カップルや一人客、外国人など18人くらいが「社畜観察」席に並んでいました。窓の外には興味を示さず,文庫本を読む女性、ビジネスパーソンを見下ろしながら優雅にチョコを食べる外国人、無言のまま人波を見下ろすカップルなど、思い思いの時を過ごしています。

一方、駅に向かうスーツの人々の規律正しく安定感ある足取りを見ると、品川で働く人は社畜というより、エリートに近い印象です。「社畜観察」と称する人は、上から見下ろすという位置関係で、少しでも優位に立っている疑似マウント感を得たいのかもしれません。

他に、優越感の錯覚を得られる「○○観察カフェ」がないか、探してみました。

■霞ケ関駅近くの「官僚観察カフェ」からの眺め

訪れたのは各省庁が並ぶ霞ケ関駅周辺。駅を出ると、農林水産省が入った合同庁舎や、外務省,裁判所などの、威圧感漂う建物が目に入ります。この街に一見して似つかわしくない(人のことを言えませんが)、自由人風の男性がお菓子を食べながら歩いていました。

この行為も、官僚に対するマウント的な意味合いがあるのでしょうか。また、ロン毛にシャツの前のボタンを3つくらい開いた業界人風男性が「女性に240万円かかったから……」などと大きな声で、電話で話しながら歩いてきました。なぜか官僚ではないクセが強めの人と遭遇しがちです。

このあたりはカフェが見当たらず、ストイックな街並みでした。よほど観察されたくないのでしょうか。もしくは、カフェで一般人への秘密漏洩を危惧しているのか……。

特許庁や資源エネルギー庁などが入る建物の方に向かうと、メガネにスーツのまじめそうな官僚風の方々が増えてきました。文化庁金融庁が入る中央合同庁舎7号館方面へ。ここでやっと商業施設が出てきました。「霞が関ビルディング」「霞が関コモンゲート」などの施設には飲食店が入っています。

霞が関コモンゲート」に足を踏み入れると、国家公務員風の若い男性が、廊下で立っておにぎりを食べながら電話しているところに遭遇。エリートはここまで自分を追い込んで働くのかと、戦慄を覚えました。

このビルではレストランでランチしているスーツ姿の女性2人も見かけましたが、折り目正しくシャキッとした姿勢に優等生感が漂っていました。また、霞が関ビルディングの地下のフリースペースにはパソコンを広げて働く方々がいて、静かな熱気が漂っていました。

「官僚観察カフェ」といえるのが、このビルのロビーフロアにあるカフェ。コーヒーは800円以上と高めですが、本格的な味わいで、街の風格に負けていません。窓からはちょうど霞テラスを通って、金融庁文部科学省、スポーツ庁の建物に出入りする人々の姿が見えます。

夕方になると噴水がライトアップされ、ゆったりした足取りで官僚や国家公務員の方々が歩いています。黒やグレーのスーツなどまじめな服装が多く、帰路につく彼らと一緒に駅へと向かっていると、自分も国を背負う精鋭の一員になったかのような錯覚が。観察というより、鋭気を吸収できそうです。

番外編の「○○観察カフェ」は、渋谷スクランブルスクエア内にある某カフェ。窓からの観察ではないですが、何回か訪れた時に、かなりの確率である業界の人がいることに気付きました。

それは、暗号資産系……。

■渋谷スクランブルスクエア内にある某カフェは「暗号資産カフェ」

暗号資産の会社の男性と思われる人が、客にセールストークしているシーンや、市場の説明をしている場面にたびたび遭遇しました。今、旬な「暗合資産系観察カフェ」とも言えるかもしれません。

今回改めて足を運んでみると、「表に出せない仮想通貨」「裏上場」「エストニアの銀行に口座開設」「グループテレグラムで連絡」といった怪しくもディープな言葉が飛び交っていました。客と業者でお互いどちらが暗号資産の知識を持っているか軽くマウントを取り合いながら……。

暗号資産の客がウォレットのパスワードを忘れると、もう資産を救出できなくなる」などの情報も参考になりました。「いつかオーガニックコインを作りたい」という言葉も聞こえて、暗号資産系男子の夢は、新たな仮想通貨を作って世に広めることのようです。

「国から助成金をもらってブロックチェーンを開発してドカンと入るのが楽しみ」「守りと攻めを同時にできる暗号通貨を目指したい」などと、壮大な夢を大きな声で語っていました。

毎日同じルーティンに飽きたら、刺激を得るためにも訪れたい「○○観察カフェ」。上から目線で観察するより、学びたい気持ちで見学させてもらったほうが、自分の仕事にもプラスの影響がありそうです。

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辛酸 なめ子(しんさん・なめこ
漫画家/コラムニスト
武蔵野美術大学短期大学部デザイン学科卒。雑誌連載、執筆活動の合間を縫ってテレビ出演も。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/rweisswald