「フレッシュプリキュア!」が、以降のプリキュアに残した功績はあまりにも大きい。

【画像】4人目のプリキュアになる? と言われていたミユキさん

 初夏の追加プリキュア、CGによるダンスエンディング、キャラクターデザインの革新性、ドラマティックな物語……。

 21年目を迎えたプリキュアシリーズで「定番」となっている要素の多くは、この「フレッシュプリキュア!」から始まったのです。

●「フレッシュプリキュア!」15周年

 2024年は「フレッシュプリキュア!」15周年の記念イヤーです。

 2009年放送のプリキュアシリーズ第6作目「フレッシュプリキュア!」では、東映アニメーションのプロデューサーを、プリキュアを立ち上げた鷲尾天氏から梅澤淳稔氏にバトンタッチし、「フレッシュ」の名の通り多くの新しいことにチャレンジしました。

 従来のプリキュアの芯を残しながらも、これまでのプリキュアの枠にとらわれない多くの新しい要素は、子どもたちに受け入れられ大ヒット作品となったのです。

 これはプリキュアシリーズの売り上げを大きく伸ばすきっかけともなり、以降のプリキュアシリーズは、この「フレッシュプリキュア!」の手法が基本となっていきます。

 中でも、追加プリキュアキュアパッション」の存在は、後のシリーズにおける追加プリキュアフォーマットを確立したといっても過言ではないほどのインパクトを残しました。

 ※以降、「フレッシュプリキュア!」の内容に触れています。

●敵幹部イースキュアパッションへ転生

 敵幹部の少女「イース」が「キュアパッション」へと転生する物語は、当時のプリキュアファンに大きな衝撃を与えました。

 第23話「イースの最期!キュアパッション誕生!!」で描かれた、雨の中で泣きながら拳を交えるキュアピーチイースの死闘は、今でも「全プリキュアの中で最高のシーン」だと評するプリキュアファンも数多くいるほどです。

 「友達だと思っていた少女が敵幹部で、後にプリキュアになる」というドラマティックな展開のみならず、その後の「悪事をしてきたことことへの葛藤」を経て「家族」へとなっていく一連の東せつなキュアパッション)の物語は子どもたち、そしてわれわれプリキュアファンの心を強くつかみました。

 「初期ビジュアルにいない追加プリキュア」という概念も初だったため(それまでの「シャイニールミナスふたりはプリキュアMaxHeart)、ミルキィローズYes!プリキュア5GoGo!)は公開初期からビジュアルが出ていました)、そのインパクトの強さは相当なものだったのです。

 専用武器「パッションハープ」の玩具もヒット商品となり、このキュアパッションの成功を受けてか、以降のシリーズでは5~7月に追加プリキュアが加入する、というのも定番となっていくのです(これはちょうどお父さんの夏のボーナスの時期に重なるため、お財布のヒモが緩くなる側面もあったようです)。

チャンネル権を持っている両親に向けて

 このイースからキュアパッションへの転生の物語のように、「フレッシュプリキュア!」の特徴の一つに「年間を通しての壮大なストーリー展開」が挙げられます。

 ダンスとプリキュアの両立、敵組織である管理国家ラビリンスディストピア感、4人目のプリキュアは誰なのかという謎、敵からプリキュアになったことによる葛藤と贖罪(しょくざい)、家族になる物語、妖精シフォンの秘密など、縦軸としての物語が強く描かれました。

 梅澤プロデューサーによると、これは「保護者にプリキュアを認知してもらう」のが目的だったようです。

 「子どもはチャンネル権を持っていないため、両親が納得できる壮大なストーリーで両親を引き付けようとした」と後のインタビューで語っています。

梅澤 「プリキュア」は幼い女の子向けの作品ですが、彼女たちはチャンネル権を持っていない。両親が納得して初めて、女の子は「プリキュア」を見られるんです。ならば壮大なストーリーで、両親を引き付けようと考えました。子ども向けにはわかりやすいギャグ要素を入れて,みんなで楽しめるようにしました。ぴあ『プリキュアぴあ』(P87)

 そして、このストーリーの流れと玩具の販売もうまくかみ合いました。

 「フレッシュプリキュア!」の年末年始商戦は、「ほとんどの商品が売り場から無くなった」と玩具業界誌で評されるレベルで玩具販売も絶好調だったのです。

2009~2010年年末年始商戦総括商戦終盤には仮面ライダーWのすべての商品、フレッシュプリキュア!も「シフォンお世話になります」を中心にほとんどの商品が売り場から無くなった東京玩具人形協同組合『月刊トイジャーナル』(2010年2月号)

 この成功を受け、最大限に玩具が売れる「プリキュアの玩具販売の流れ」も定着していくのです。

 番組開始の2月は卒業、入学シーズンでメインアイテム(変身おもちゃ、妖精おもちゃなど)を発売、それが一段落したゴールデンウィーク前に「武器系のおもちゃ」を出し、その後、夏のボーナス時期に合わせて「ドラマティックに加入する追加プリキュア」の変身アイテムと武器アイテム、そしてクリスマスシーズンに大型の最終決戦用おもちゃを発売する、という一連の手法は後のシリーズにも受け継がれていくこととなりました。

●キャラクターデザインの革新性

 また、キャラクターデザインの大胆さもフレッシュプリキュアの特徴の一つです。

 これまでよりも頭身を上げ、スタイルも良い。ブーツではなく高いヒールを履き、スカートの中もスパッツではなく全員がフリル。拳を守る「ナックガード」もないなど、従来のプリキュアとは異なるそのスタイリッシュさに当時のプリキュアファンは魅了されました。

 「フレッシュプリキュア!」のキャラクターデザインを担当した香川久氏は、当時「ふたりはプリキュア」しか見たことがなく、プリキュアの「お約束」を知らなかったことが、逆に革新的なデザインにつながった、と後に語っています。

香川 いままでの『プリキュア』からは頭身をあげてほしいという梅澤プロデューサーからのオーダーがあって、キャラクターも「いままでのシリーズと変えても良い」という話でした。挑戦的なオーダーだったので、僕にとっては嬉しいことでしたね。過去の『プリキュア』シリーズに関わってなかったし、作品自体も『ふたりはプリキュア』しか見たことがなかったんです。でも『フレッシュプリキュア!』ではそれがよかったですよね。過去にとらわれることなくキャラクターデザインが出来たと思います。スパッツを履いているとか、拳にナックガード的なものを付けているとか、そういう『プリキュア』シリーズの決まりごとのようなものを知らなかったし、周囲から言われたこともなかったんです。ぴあ『プリキュアぴあ』(P100~101)

香川 あと今回の新しいことというとプリキュアスパッツを履いていないんです。でも、アクションをするのでスカートの中身が見えないようにしないといけない。フリルでうまく見えないように描いてます。健康的なセクシーさは大事だと思っていました。ぴあ『プリキュアぴあ』(P100)

 香川氏の言うように「健康的なセクシーさ」をまとったキャラクターは、子どもたちはもちろんのこと、多くのオトナプリキュアファンを魅了し、「プリキュアとはこういうものでなくてはならない」という固定観念も払拭(ふっしょく)、以降もプリキュアでも多種多様なデザインが採用されることへとつながっていったのです。

●当初はゲッターロボを意識?

 余談ですが、香川氏の中で「フレッシュプリキュア!」は「ゲッターロボ」のイメージが強かったようですね。

香川 最初は、僕の中では女の子向けというより「ゲッターロボ」のイメージが強かったです。――おお、永井豪先生原作のロボットアニメですね。バリバリに男の子向けですが。香川 赤、青、黄のイメージです。もちろん「ゲッターロボ」のキャラクターの性格をそのままというわけではなくて、あくまで色のイメージですけどね。“蒼乃美希”も“山吹祈里”もクールでも巨漢でもないですから(笑)。ぴあ『プリキュアぴあ』(P100~101)

●恒例のCGダンスエンディングも「フレッシュプリキュア!」から

 そしてもう一つ。

 「3DCGによるダンスエンディング」も「フレッシュプリキュア!」から始まりました。

 「フレッシュプリキュア!」はストーリー的にもダンスが重要なファクターとなっています。ダンスを軸にした理由として、梅澤プロデューサーは「徹底したアンケートの結果」であると語っています。

1つはタイトルを「フレッシュ」にすること。もう1つは「女の子が好きなことは全部盛り込む」ということでした。徹底してアンケートを取った結果、その中に「ダンス」があったんですよ。ならば今回は本格的なダンスをやろうと、監督も決めていないのに前田健さんに振り付けをお願いに行ったんです。ぴあ『プリキュアぴあ』(P86)

 当時は小・中学校での「ダンスの必修科目化」などもあり、ダンスが受け入れられやすい環境でもあったようです。ストーリーとダンスが密接にリンクし、前田健氏による振り付けも子どもたちにも踊りやすく、この画期的なエンディングダンスは大好評となりました。

 結果論ですが、このCGによるダンスエンディングにより、子どもたちが番組を最後まで見るようになったことによる視聴率のアップや、ダンスを覚えて踊るために音楽CDを購入する動機付けにつながった上、子どもたちがイベントに足を運ぶようにもなるなど「商業的にも大きな成功」となり、以降のシリーズでも定着、3DCGダンスエンディングはプリキュアを象徴するファクターとなっていくのです。

●水着やシャワーシーンは評判が良くなかった

 新しいことにチャレンジし続けた「フレッシュプリキュア!」ですが、中にはあまり評判の良くなかったこともあったようです。第2話で描かれた蒼乃美希キュアベリー)の「水着」「シャワーシーン」や、「告る」「彼氏」といったワードも親からの評判は良くなかったようです。

梅澤 実は大ブーイングでした。「コクる」「彼氏」というセリフも評判が悪かったです。中学生だから、必然性があるから、大丈夫というわけじゃない。両親が観せたくない作品になっては『プリキュア』じゃない、と痛感しました。ぴあ『プリキュアぴあ』(P87)

 こういった反省点も新しいことにチャレンジしたからこその結果ですし、「両親が観せたくない作品になっては『プリキュア』じゃない」という思いも、今のプリキュアシリーズに受け継がれているようにも感じます。

●現行シリーズの基礎を築いた

 「ふたりはプリキュア」がスタートしてから5年間でさまざまな試行錯誤を繰り返してきたプリキュアシリーズ

 6年目の「フレッシュプリキュア!」で、追加プリキュアのタイミング、1年を通しての壮大なストーリー展開と玩具販売、3DCGによるダンスエンディング、キャラクターデザインの多様化など、現行プリキュアの基本フォーマットが確立したのです。

 そういった意味でも「フレッシュプリキュア!」がプリキュアシリーズの歴史の一つのターニングポイントになっていたのは間違いないと、自分は思っています。

(C)ABC-A・東映アニメーション

●筆者:kasumi プロフィール

プリキュア好きの会社員。2児の父。視聴率などさまざまなデータからプリキュアを考察する「プリキュアの数字ブログ」を執筆中。2016年4月1日に公開した記事「娘が、プリキュアに追いついた日」は、プリキュアを通じた父娘のやりとりが多くの人の感動を呼び、多数のネットメディアに取り上げられた。

数々の新しいことにチャレンジした「フレッシュプリキュア!」(出典:Amazon.co.jp)