求人サイト「バイトル」で、何者かが嫌がらせの「なりすまし応募」をしたことで、大量の電話がかかってきたり、メールを送られたりして、業務を妨害されたとして、弁護士5人が4月26日、バイトルの運営会社を相手取り、計500万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。

原告によると、こうした嫌がらせは、共同親権の問題を訴える弁護士のほか、女性支援団体の代理人をつとめる弁護士らが狙われたと考えられるという。

対策を取らなければ同様の被害が拡大するおそれがあるとして、「一番悪いのは嫌がらせをする第三者だが、企業にも責任はないのか」という考えから、求人情報を掲載したバイトル側を訴えたという。

運営会社のディップ(東京都港区)は同日、弁護士ドットコムニュースの取材に「本日、弁護士らが、司法記者クラブにおいて記者会見をし、当社に対して民事訴訟を提起したことを明らかにしたことは、当社も認識しております。今後、当社は、訴状の送達を受け次第、内容を精査の上、適切に対応してまいります」と回答した。

●「ご応募ありがとうございます!」「面接日確定」数千通のメールで業務がパンク

原告は、岡村晴美弁護士(愛知県弁護士会)、太田啓子弁護士(神奈川県弁護士会)、神原元弁護士(神奈川県弁護士会)、端野真弁護士(広島弁護士会)、渡辺輝人弁護士(京都弁護士会)の5人。

被告となったディップは、日本最大級を誇るアルバイト・パート求人情報サービス「バイトル」などを運営している。

訴状などによると、2024年1月19日から、原告である弁護士や依頼者、所属事務所に対して、応募を受けた顧客企業から大量の電話やメールがあり、約1週間に渡って対応に追われたことで、業務が妨害されたという。

「ご応募ありがとうございます!」「面接日確定のお知らせ」といった連絡の数は、数十件から数千件にものぼり、たとえば渡辺弁護士の所属事務所には144回の電話、業務用のメールアドレスに2000通以上のメールが届いたという。

また、太田啓子弁護士の所属事務所には約400件の電話がかかってきたほか、太田弁護士の依頼者である仁藤夢乃さん(一般社団法人Colabo代表)には約3000通のメールが届いたという。

原告らは、ディップ社に被害を申告して対応を求めたが、渡辺弁護士によると、同社からは被害状況について一定の説明があったものの、嫌がらせを実施した第三者の特定は困難とされたという。

また、渡辺弁護士によると、ディップ社はこのような「イタズラ」は以前から存在したと説明した。渡辺弁護士が、同様の加害行為を防ぐための対策についても説明を求めたところ、同社からは「制限すると応募が減ってしまう」といった説明を受けたという。

嫌がらせをした第三者が一番悪いが、ディップ社に責任はないのか」(渡辺弁護士)

●「弁護士への嫌がらせが巧妙化している」

原告らによると、被害の状況から、何者かが、原告である弁護士や依頼者の連絡先などを使って、バイトルを通じて、さまざまな企業の求人広告に応募したと考えられるという。また、その規模からして、プログラミングも利用され、機械的に大量応募されたのではないかと指摘する。

5人の中で最初に被害を受けた岡村弁護士は、今回の嫌がらせは「一定の価値観に基づいておこなわれたと思う」と指摘した。

嫌がらせを受けたのは、共同親権に反対する立場からX(旧ツイッター)などで積極的に発信を続けることで知られる岡村弁護士のほか、Colabo弁護団の3人の弁護士だった。Xでの存在感が際立つ渡辺弁護士については、「巻き込まれた形だ」と同情した。

岡村弁護士は警察にも被害を相談しているという。

神原弁護士は、2017年に生じた弁護士への大量懲戒請求を引き合いに、弁護士への嫌がらせが「どんどん巧妙化している」と指摘する。

原告らは、有名人の肖像を悪用した詐欺広告で問題になっているフェイスブック(メタ社)と同様に、プラットフォームが今回の問題を放置するべきではないとの考えを示した。

「求人サイトにも責任」 なりすまし応募で「大量の電話・メール」、業務妨害された弁護士5人が運営会社提訴