ランダムでおもちゃがもらえるマクドナルドのハッピーセット。2024年の2月23日から登場したのは「星のカービィ」のぬいぐるみだったが、発売されるやいなや各店で大行列が発生。翌日には売り切れ状態となり、続々とオークションサイトで転売される事態になったのは記憶に新しい。

高い需要が招いた事態といえば話は簡単。とはいえ、いちキャラクターとしてなぜここまで広く大衆に支持されているのだろうか。初代『星のカービィ』が発売されたのが、1992年4月27日(ちなみにカービィの誕生日にも設定されている)。30年以上もカービィが愛され続けている理由が、改めて気になるところではある。

X(旧:Twitter)星のカービィ研究所(@Yumekawa_Kirby)」なるアカウントを運営する夢川閔巳(ゆめかわみんみ・@Yumekawa_Gamer)氏にその魅力について語ってもらう。

カービィグッズに「300万円以上使った」

一枚の写真には収まりきれないほどの量のグッズを所有する夢川氏。一体今までどれほどカービィに投資してきたのだろう。

「数えたことはありませんが、グッズはおそらく1500〜2000点はあると思います。1体20万円ほどのぬいぐるみもあるので、総額で300万円以上は使っていそうです。特に、海外版のゲームパッケージは気に入っていて、ゲーム自体が好きなのと日本では手に入らないという高鳴り感があります」

ピンク色でまるいシルエットは、万人ウケする愛らしさといえよう。ハマる人が多いのもうなづけるが、ここ数年で目にする場面が特に増えた気がする。何かきっかけがあったのだろうか。

25周年の時(2017年)ですね。ぬいぐるみはもちろん、懐中時計オーケストラCDやスーツケースなど数多くのグッズが発売され、キャラクターとしての人気が急激に高まった印象です。『ゲーム自体はやらないけどゲームのキャラクターが好きな層』に刺さったのでしょう」

◆謎に包まれた要素を考察する楽しさも

ゲームやアニメなどのキャラクターには、プロフィールがきっちりと設定されていることが多い。当初はぼんやりしていても、続編やスピンオフなどで徐々に補完されることもしばしば見受けられる。

一方、カービィは多くの要素が謎に包まれたままなのだ。カービィファンにとっては、隠された部分について想像を膨らませるのも楽しみのひとつのようだ。

出生も性別も不詳なんですよ。ただ、アクションゲームの中では飛び抜けてテキストが多いほうで。ラスボスとの対戦前にも、カービィラスボスが長尺で会話するパートがあります。そうしたところから出生の秘密などを考察しますね

◆多くの人が満足できる『星のカービィ3

カービィを知り尽くす夢川氏だが、特に好きな作品はあるのだろうか。

1998年に発売された星のカービィ3ですね。コンパクトにまとまっていてわかりやすいし、手描きのような温もりのあるグラフィックも好きですね。そして、ラスボスが“考察の余地しかない”描かれ方をしており、その部分を考えるのも楽しいです。ライトなゲーマーからヘビーゲーマーまで、多くの人が満足できる作品だと思います

◆『星のカービィ ディスカバリー』はシリーズ最高傑作のひとつ

これからカービィに初挑戦してみたい人にオススメの作品は、『星のカービィ ディスカバリー』(2022年発売)だそうだ。

カービィの生みの親である桜井政博さんが退いたあと、制作の中心になった熊崎信也さんが手掛けている作品です。熊崎さんは“中二病”っぽい方でして、桜井さん時代は『コレクション』や『森を抜けて』と比較的シンプルだったBGMの曲名が、『星(ほし)統(す)べる頂点』や『いつしか双星はロッシュ限界へ』と、見ての通り尖ったテイストになっているんです。同時に曲のテイストもかなり鋭利に変わりました」

補足すると、「ロッシュ限界」は、天体同士が破壊されずに極限まで接近できる距離のこと。確かに、“中二病”と称される理由もわからなくはない。また、“考察欲”を喚起する伏線にも繋がっているらしい。

「同作でカービィと一緒に旅をするのがエフィリンというキャラクター。実は、このエフィリンラスボスの片割れなんですよ。つまり『ロッシュ限界』にも、『近づきすぎず、一定の距離を保つ必要がある』という暗喩を感じてしまうんです」

楽曲だけでなくストーリーも、シリーズ最高傑作のひとつだと夢川氏は太鼓判を押す。

「謎の渦に吸い込まれたカービィが、広大な文明と自然が融合した『新世界』に迷い込む設定になっています。そこで出会った謎の生物エフィリンと共に、囚われてしまったワドルディ達を助ける旅をしてゆくのですが……ラスボスエフィリンには非常に深い関係があって。その先はネタバレになるので、ゲームで楽しんでみてください!」

◆“星のカービィを蘇らせた男”熊崎氏

カービィは長年普遍的な人気を保っているイメージがある。しかし、シリーズ存続に暗雲が立ち込めていた時期も存在する。それを乗り越えた立役者が前出の熊崎氏だ。

2000年ごろから3作ほどボツが続き、新作がリリースされない期間は実に10年にも及びました。熊崎さんは『このままでは星のカービィが終わってしまう』といった思いを抱き、『星のカービィwii』(2011年発売)にディレクターとして参加し、心血を注いだんです。ちなみにこの作品については、任天堂社長(当時)の岩田聡さんが『10年分の思いを背負っています』と言及したほどですから、並々ならぬ制作陣の熱量がこもった1本と言えるでしょう」

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個人的には、とっつきやすいシンプルな操作性も人気に寄与している気もしてならない。さらに「吸い込んだ相手の能力をコピーする」アクションが、他国の食文化を独自解釈し、カレーやラーメンを国民食に昇華させた日本人の気質にマッチしていたのではないか……さすがに飛躍しすぎだろうか。

<取材・文/Mr.tsubaking>

Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。

夢川氏のコレクション。壮観の一言である