オービスに撮られた写真は、出頭時に警察署で確認できます。しかし、もしこの写真がいきなり自宅に送られてきたら、「知られたくない運転中のプライバシー」が家族に知られるかもしれません。こういった通知の方法は、お国柄があるようです。

取り締まりか、個人のプライバシーか

自動車を運転していてスピード違反の自動取り締まり装置(オービス)をピカッと光らせてしまったら、日本では出頭通知書が届きます。指定された日時に警察所に赴くと、オービスが捉えた速度違反の決定的瞬間の写真を提示され、違反を認めると赤切符が切られ、その後略式裁判で罰金が確定し……といった流れが基本的に待っています。

では、このオービスの証拠写真が自宅にいきなり送り付けられたとしら、どうでしょうか。

ある日、あなたが自宅の郵便受けをのぞくと、見慣れぬ封筒が届いていました。

「裁判所から手紙??」と首をかしげながらうっかり配偶者のそばで封筒を開けてみると、写真が。そこにはハンドルを握っている自分と、助手席に配偶者ではない同乗者の姿。というか、配偶者には絶対に見られたくない、かつ、バッチリと写った同乗者の姿が。その時、背後から写真をのぞき見る配偶者は、能面のごとく豹変しているのか、はたまた鬼の形相か。

すったもんだの結果、速度違反の罰金刑以上に恐ろしい「家庭内処刑」が待っていた、あるいは、「家庭内処刑」にも処してもらえず、あっという間に独り身に――世界では、そんな「とんでも誤爆事件」に発展する可能性もはらんでいる恐ろしい装置が、オービスなのです。

そうした阿鼻叫喚の状況が多発したことから、イタリアでは今後は罰金刑の通知書のみを送付し、オービスの証拠写真に関してはいきなり送り付けない「日本式」にすると正式発表しました。

背景には、自動車産業に誇りを持つイタリアのお国柄がありました。

スーパーカーの国ならではの苦悩

イタリアは、黄色の背景に黒の跳ね馬(はねうま)のエンブレムと、真紅のボディがアイコン化しているF1の象徴フェラーリや、全高が低くて地を這うように走るイメージが定着しているランボルギーニなど、フルスロットルでぶっ飛ばしたくなるスーパーカーのメーカーを多く抱えています。

そんな速度自慢の国民性からか、イタリアの交通事故死者数は、2010年の4114人から減少傾向ではありますが、2022年も未だに3159人と、コロナ禍の間を除いて3000人をなかなか下回れていません(欧州委員会による)。

このため、政府は欧州大陸で最も多い1万1000台のオービスを国内に設置していますが(BBCによる)、これらのオービスが国民のプライバシーを侵害している、ということなのです。

最近では、覆面姿でオービスを壊して回る謎の人物まで出現し、立派な犯罪行為にもかかわらず、オービスの多さに怒りを覚えている人々の間で熱狂的な支持を得ているほどの社会問題になっています。

こうした国民の怒りを少しでも抑える措置として、プライバシー保護の観点から写真の送付は廃止されることになりました。

では、イタリアフェラーリと同じく跳ね馬のエンブレムで高い人気を誇るポルシェを有すドイツではどうでしょうか。2013年にはイタリアと同着で交通事故死者数のワーストを記録し(欧州連合の統計局ユーロスタットによる)、一部の高速道路では速度規制そのものがないなど、同じくアクセルを踏み込む文化圏です。

ドイツでは原則的に、助手席などの同乗者はきれいさっぱりと消し去られた状態に画像編集された写真が自宅に届くのです。そこには、たった一人でドライブを楽しんでいるようにしか見えない運転手の姿が写っているのみで、助手席はあたかも空席のように見えるように「仕事」が施されています。

ただ、助手席が配偶者の場合も、きれいさっぱり消した状態で写真が届きます。一度でもその状態のオービス写真を受け取ったことがある家庭では、助手席に誰も乗っていない写真が次に送られて来たとしても、場所と時間次第では心穏やかには見過ごせないのではないでしょうか。

オービス一つ取ってもお国柄が出ますが、やはり写真の取り扱いに限っては、「日本式」が一番穏便な方法だと思われます。

日本のオービス(画像:写真AC)。