昨今は60歳の定年退職を迎えた後も働くシニアが増えています。一方、年金の受け取りが始まる原則の年齢は65歳です。そこで湧いてくるのは「働きながら年金をもらうことはできるのか?」という疑問です。基本的には働いて賃金を得ながら年金をもらうことができますが、一定額以上の収入を超えると年金(厚生年金)が減らされたり、全額支給が停止されたりする制度があります。本記事では今年(2024年)71歳を迎える、働くシニアの親友2人を例に解説します。

「身体が動くうちは頑張りたい」60歳・定年退職後も働き続けることを選んだ、同期入社の親友2人

今年71歳を迎えるウミヲさんフネヲさんはともに新卒採用でとあるお菓子メーカーに入社しました。同い年の同期入社の2人は出会ってすぐに意気投合し、たちまち大親友に。

2人は同じタイミングで結婚し、同じタイミングで出世。30代で迎えたバブル崩壊も、50代で襲われたリーマンショックも、どんなときも共に歯を食いしばって乗り越えてきました。

そんな2人は59歳のとき「60歳で定年退職をする」か、「再雇用制度を利用して、働き続ける」か、決断を迫られます。「長年身を粉にして働いてきたのだから」と、ゆっくりしたい気持ちがある一方、仕事が生きがいの2人は「身体が動くうちは頑張りたい」という気持ちもあります。仕事を辞めたことで「社会との繋がりが一気に薄くなってしまうのでは?」という不安もありました。

加えて、日本人の平均寿命は伸びており、「身体が動くうちに老後資金を出来るだけ貯めておきたい」という思いもあります。2人は悩んだ末、より明るいシニアライフを目指して、職場の再雇用制度を利用して働くことにしたのです。

定年退職者が利用する再雇用制度とは?

再雇用制度とは、高年齢者雇用安定法第9条にある「65歳までの雇用確保措置」に基づいて各会社が導入するものです。

■「65歳までの雇用確保措置」(高年齢者雇用安定法第9条)

定年年齢を65歳未満に定めている事業主は、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、「65歳までの定年の引上げ」「65歳までの継続雇用制度の導入」「定年の廃止」のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を実施する必要があります。(抜粋元:高年齢者の雇用|厚生労働層

「65歳までの継続雇用制度の導入」が、本人が希望すれば定年後も引き続き雇用する、再雇用制度等に当たります。

令和3年の法改正で、定年年齢・60歳から70歳へ引き上げが努力義務に

本制度は令和3年4月1日に改正され、65歳までの雇用確保(義務)に加え、65歳から70歳までの就業機会を確保するため、下記のいずれかの措置を講ずる努力義務が新設されています。

1. 70歳までの定年引き上げ 2. 定年制の廃止 3. 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入 (特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む) 4. 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 5. 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入 a.事業主が自ら実施する社会貢献事業 b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

(抜粋元:高年齢者雇用安定法 改正の概要|厚生労働省 ハローワーク 1ページ目

なぜこのような法改正が施行されたのでしょうか? これは、少子高齢化に伴う労働力の不足に対応して、社会保障制度の持続可能性を拡大するためです。

一方、日本人の平均寿命と健康寿命の差は2010平成22年)年から男女ともに、徐々に縮小傾向にあります。一昔前と比べて、シニアが人生のなかで健康的に過ごせる期間の割合が伸びたことで、60歳をすぎても「働く」という選択肢が定着しました。今後ますます、60歳を過ぎても働く意思のあるシニアは、貴重な労働力となっていくでしょう。

〔参照:平均寿命と健康寿命|e-ヘルスネット(厚生労働省)〕

「なんで俺だけ年金が減ってるんだ?」通帳の見せ合いっこで痛恨の事実が発覚!

ウミヲさんとソラヲさんが勤めるお菓子メーカーの再雇用制度は年齢による制限がなく、定年の60歳をすぎて働き続けて気づけば10年。2人とも70歳を過ぎても健康だったため、2024年も2人そろって継続して働くことを決めました。

2024年の4月、お金に無頓着な2人は互いの貯金額が気になり、いっせいのせいで、通帳を見せ合うことにしました。

するとソラヲさんはビックリ! ソラヲ「あれれ? なんで俺だけ年金が、いつの間にか半額以下に減っているんだ?」「ウミヲ、お前は半分に減ってないよな?」ソラヲ「そうだね。僕は『50万円の壁』を超えてないから」「『50万円の壁』? なんだそれ?」

ソラヲさんは、狐につままれたような表情です。なぜこのような事態が起こったのか、見ていきましょう。

なぜ、ソラヲさんは年金が停止されたのか? 

日本の年金制度には、一定額以上の賃金をもらっている60歳以上の厚生年金受給者を対象に、当該老齢厚生年金の一部または全部の支給を停止する仕組みがあります。これを「在職老齢年金」といいます。「在職老齢年金制度」は2022年(令和2年)に改正されました。

2022年4月から、給与をもらいながら年金を受給している人(厚生年金の被保険者および70歳以上の使用される人)は、(賃金+年金)の合計額が50万円(令和6年度)を上回る場合、賃金に対し、年金が停止されます。

ここでいう賃金は、「標準報酬月額(厚生年金保険法第20条)」+「標準賞与額(厚生年金保険法第24条の4)/12」のことを指します。ウミヲさんソラヲさんのように70歳以降の場合には、「標準報酬月額に相当する額」+「標準賞与額に相当する額/12」となります。

また、ここでいう年金は、加給年金額、繰下げ加算額及び経過的加算額を除いた老齢厚生年金のことを指します。老齢基礎年金は含まれません。

つまり、ソラヲさんは賃金と厚生年金を合わせて50万円を超えたため、年金が停止されていたのです。ウミヲさんは賃金と年金を合わせて50万円を超えていないため、年金を受給しています。

※70歳未満であっても、給与をもらいながら年金を受給している、厚生年金の加入者は本制度の対象となります

65歳のときのソラヲさんの年金は総額「月16万円」

ソラヲさんの年金受給が始まった65歳のときを振り返ってみましょう。ソラヲさんは65歳のときに、国民年金厚生年金を合わせて「月16万円」受け取っていました。

その後、ソラヲさんの頑張りと物価高による賃金の目減りへの対応で給与はアップ。結果、賃金と厚生年金の合計が50万円を超え、厚生年金の受給は停止。

ソラヲさんが70歳(2024年に71歳を迎える予定)で手にする年金は、国民年金の6万7,808円(令和6年4月分からの、昭和31年4月1日以前生まれの方の老齢基礎年金の満額)のみとなっため「年金が半分以下になっている!」とビックリしたのです。

ソラヲ「そんな制度があるなんて全然知らなかったよ」ウミヲ「見落としがちだよね」ソラヲ「頑張って働いた結果、給与がアップして年金が半分以下になったのはショックだが、後悔はない。この年になっても、こうしてお前と一緒に働けているなんて、俺たちは幸せ者だよな」ウミヲ「そうだね。75歳になってもお互い身体が元気だったら、一緒に南の島に移住してのんびりしようよ」ソラヲ「それ最高だな!」

年金の制度は複雑です。加入期間や年齢などによって適用されるルールはまさに千差万別。分からないことがある人は、「ねんきんダイヤル」に電話したり、お近くの年金事務所の窓口に足を運んだりして積極的に相談しましょう。

(参考:年金制度の仕組みと考え方|厚生労働省

※登場するキャラクターは架空の人物です

THE GOLOD ONLINE 編集部

(※写真はイメージです/PIXTA)