亡父が残した「エンディングノート」に書いてあった内容で遺産を分けないといけないのか──。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。

人生の終わりに備えて要望や意向などを記すエンディングノート。近年、“終活”での利用が広がっています。

相談者の父は、(1)母に半分、相談者と兄に四分の一ずつで遺産を分ける、(2)その後母が亡くなった際には、相談者と兄と兄嫁の3人で分ける、と書き残していました。(2)については、残された母が兄嫁の世話になるからという配慮だそうです。

ところが、母は父亡きあとすぐに施設に入所しており、兄嫁は母の世話を何もしておらず、また日頃から母への当たりが強かったようで、相談者としては兄嫁が遺産を手にするかもしれないことに納得がいきません。

ノートには署名、捺印、日付がありませんでしたが、父の書いたものであることは確かなようです。「父の財産である以上、従うしかないのだろうか」と悩む相談者ですが、法的にはどうなのでしょうか。河野晃弁護士に聞きました。

●有意義だが要件揃ってないと「遺言としては無効」

──エンディングノートは遺言書と同じように扱われるのでしょうか。

大前提として、人が自分の死後のことなどについての希望を書き記すエンディングノートについては、一般的には民法に規定されている「遺言」としての効力はないといえます。

遺言として法的に有効と評価されるためには、「その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」とされています。相談者のケースでは、署名、捺印、日付がないということですので、法的に有効な遺言とはなりません。

エンディングノートの類は、法的にどうこうという堅苦しい話は抜きにして、作成者の方の思いをあとに残された人に分かってもらえるように作るものであって、財産の分け方など、まさに法律的な話が問題となるような場合に備えるという目的としては不適当であると言えます。

──法的に有効な遺言でないとすれば、従う必要はないということでしょうか。

はい、相談者のケースでは、相続人が残されたエンディングノートに縛られることはありません。有効な遺言が残っていないということであれば、相続人全員で遺産分割協議を行うことで、被相続人(亡くなった方)の財産(遺産)を分けることができます。

この場合、父の相続人としては、相談者から見て母と兄と自分の3人ということになります。母が亡くなった場合の相続人は兄と相談者の2人のみで兄嫁は無関係ということになります。

──今回のケースでは母に残した遺産のその後の分け方まで指示していたようですが、そのようなことは可能なのでしょうか。

遺言として有効なのは、あくまでも遺言作成者自身の財産に関することであり、妻や子どもの財産の分け方についてまで指示することは出来ません。遺産であっても、いったん妻や子の財産となった以上は同様です。

──近年「終活」でエンディングノートを作成する人が増えています。

エンディングノートは原則として法的な拘束力を持ちませんが、自分が亡くなった後のことについて配慮するという意味で非常に有意義なものだと思います。その際、自分の財産について配慮をしてもらえると、後の無用な紛争を避けられることになります。

少しでも財産がある方は、公正証書遺言を作成することで、愛する家族が揉めることを防ぐことにつながります。

「私には大した財産がないので」とか「うちは子どもたちが仲良しなので揉めることはないです」などと言われるケースも少なくありませんが、相続人同士で揉めるケースは何も莫大な財産があるケースに限られません。実際に揉めたケースで、依頼者が「自分のところが揉めるとは思っていなかった」とおっしゃっる場合も多いです。弁護士など専門家にご相談することもぜひご一考ください。

【取材協力弁護士】
河野 晃(こうの・あきら)弁護士
兵庫県弁護士会所属。2010年弁護士登録。民事事件(中小企業法務・交通事故等)、家事事件(離婚・相続)、刑事事件など、多種多彩な業務を行う。趣味はゴルフ、野球など。日本一話しやすい弁護士を目指す。
事務所名:水田・大江法律事務所
事務所URL:https://www.bengo4.com/hyogo/a_28201/l_137891/

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