4月、新入社員が今年もやってきました。そこで「すぐ辞めた新入社員」の記事の中から、反響の大きかったトップ10を発表。第7位の記事はこちら!(初公開2020年4月10日 集計期間は2018年4月~2023年12月まで 記事は取材時の状況)
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 春といえば、多くの企業が新入社員を迎え入れる時期。新卒はもちろん、転職してきたという人も。新しい仲間の活躍を心待ちにする声がある一方、新入社員にまつわる苦い記憶を思い出すという人もいる……。

◆新入社員が突然1週間の有給申請、そのまま退職することに…

 2018年、入社3年目だった片瀬綾さん(仮名・当時24歳)のもとに、初めて直属の後輩がやってきた。ずっと鹿児島県で育った新入社員の彼は、大学卒業を機に県外へ飛び出したという。

「すごく明るくて、ハキハキしている一方で、少し天然っぽいところがありました。そんな雰囲気が私としては可愛くて、他のおじさん社員たちにも好かれていたと思います」

 周りの社員たちの期待に応えるように、どんな小さな仕事でもしっかりこなそうと努力していたそうだが、ゴールデンウィークが明けた初日の月曜日の朝から彼の様子がおかしくなった。

「出勤してすぐ、給湯室で私と彼は部長たちのお茶を用意していたのですが、突然『今日午後から金曜日まで休みたいんですけど、どうしたらいいですかね』と言ってきました。理由を聞いたのですが、話したくないようでした」

 体調不良ではなく、私用で休みたいとのことだった。片瀬さんの会社では入社と同時に12日ほどの有休が与えられるのだが、休むには事前申告が必要だった。片瀬さんは「せめて今日休暇申請して、明日から休んだら?」と提案したのだが、「どうしても今日休みたい」と少し焦るような表情で言ってきた。

 そこで上司にお願いし、個別に話す時間を設けてもらった。事情を聞いた上司は、月曜日午後から金曜日までの休暇を許可することにした。ゴールデンウィーク後、出社早々いきなりその週をまるまる休むとは何事だろうか。

「理由については“個人的な理由なので”ということで教えてもらえなかったのですが、家庭の事情か何かだと思っていました」

◆5月末で退職することに…

 翌週の月曜日、彼は出勤してきた。いつも通り、ハキハキと挨拶しているのを見て安心したのもつかの間……その数日後に、片瀬さんは彼が5月末で退職することになったと他の社員から聞いた。

 彼の身内が病気なのか、とにかく何かただならないことが起きたのだろうと多くの社員が気にかけた。本当の退職理由が語られないまま、彼は退職した。しかし、退職から1週間もしないうちに、片瀬さんは本当の理由を知ることになる。

「辞めた後にある社員が彼と食事に行ったそうで理由を聞いたらしいんです。なんでも、上京後に出会った人からビジネスの誘いを受けて、そちらで頑張りたいからだったみたいです。でも、そのビジネスが、マルチ商法みたいらしくて。もしかしたら騙されているのかなってみんなで話したのを覚えています」

 怪しそうに見えても真っ当なビジネスはこの世にたくさん存在している。彼が騙されているのかどうかはわからない。しかし鹿児島から上京してわずか1か月のうちに出会い、22歳の青年の心を奪うほどのビジネスとはどんなものだったのだろうか。今となっては知る由もない。

◆新人は新卒だけじゃない。30代転職女子が生んだ“ホラー”事件

 新入社員は20代だけではない。数年ほど前、田島美由さん(仮名・当時23歳)がホテルのレストランで調理師として勤務していたときの話だ。

 田島さんより10歳ほど年上だった女性(30代)が新しく仲間入りした。見た目はいろんな会社で経験を積んできた「仕事ができる女」という雰囲気だったのだが、忙しくなって心に余裕がなくなると注意力が散漫になってしまうようで……。

「宴会料理をお客様の方へ運んでいる時に、料理をひっくり返してしまうことは日常茶飯事。ある時は、消火器を倒して地下中が真っ白になりました。またある時には、エレベーターの中で寸胴と呼ばれる大きな鍋を倒してしまい、中に入っていたソースが流れ出て……下の階は悲惨な有様でした。エレベーターのドアからソースが滲んで、まるでホラー映画かと思いましたね」

 働く場所が変わり慣れない環境だったのは理解しながらも、彼女の慌てっぷりには皆お手上げだった。

 別の日、田島さんは彼女に話があり、探していた。しかし、一向に見つからなかった。やっと見つけたと思いきや、彼女がいたのは驚きの場所だった。

知らない間に厨房を抜け出して、別フロアの社食でランチしていたんです

 サボりぐせがあるのか、ある日には、宴会後の片付けもそっちのけで、残り物をひたすら食べていることもあったそうだ。もちろん、その周りではせっせと片付けをする従業員たちがいるにも関わらず……。

「ここまで感覚の違う人は初めてでした。彼女に関わると、いつも以上に疲れました。ちゃんと仕事しているか確認しなきゃで、ストレスでした。本当に勘弁して欲しかったですね」

 その後、ほどなくして彼女は退職した。今でも当時の厨房メンバーとの思い出話の中に必ずと言っていいほど登場するのだとか。

◆見分けのつかない双子に現場が混乱…

 田島さんの職場には、また違う意味で困った新入社員もいたという。入社してきた男性二人。なんと一卵性の双子だったそうで、顔はほぼ同じだった。二人は研修後、地上階勤務と地下勤務、別々の部署に配属された。

 ホテルにはいつも同じ業者の配達員が食材を運んできていた。ある日、配達員が地下1階の厨房に到着するなり、真っ青な顔で田島さんのもとに飛んできた。

「い、いま、あの子、上の階にいなかったっけ……。おれ、幻みてる? 疲れてんのかな……?」

 配達員は、一卵性の双子が勤務しているとは知らず、恐怖に陥っていたそうだ。テレポートしたのか、はたまた幽霊を見たのか、「心臓が止まるかと思った!」と目を丸くしていた。

 さて、また多くの新入社員たちが新たな一歩を踏み出した。世代による価値観の違いなどから「モ○スター新入社員」と呼ばれることもあるだろうが、迎え入れる社員が歩み寄れるかどうかも重要だろう。お互いにとって「良い春」になることを願っている。

<取材・文/星谷なな>

【星谷なな】
5歳の頃からサスペンスドラマを嗜むフリーライター。餃子大好き27歳。 たまに写真も撮ります。Twitter:@nanancypears

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