ひと昔前の旅客機には必ずといっていいほどあった「アイブロウ・ウインドウ」ですが、近年はほとんど見かけなくなりました。一方、軍用機ではいまだ必要な場合も。しかも、旅客機とは違う使われ方をしているようです。

斜め上の視界、なぜ必要?

ボーイング737など、古くから長期間生産されている旅客機には、かつてコックピット上部に小さな窓がついているモデルが存在しました。

飛行機の前部を顔に見立てた場合、目にあたるコックピット窓の上にあることから、俗に「アイブロウ・ウインドウ(まゆげ窓)」などと呼ばれたこの小窓、実はかつて飛行に欠かせない役割を担っていたのです。

アイブロウ・ウインドウは、操縦席から見て斜め上の視界を確保するために設けられています。通常の操縦では正面が見えれば十分なのですが、なぜ斜め上を見る必要があるのでしょうか。それは「星」を見るためでした。

いまでこそGPSや、慣性航法装置(INS)、地上からの電波による航法支援施設が充実していますが、それらがなかった時代は窓から見えるものを計測して自機位置を推し測る必要がありました。

しかし、地上の地形から飛んでいる場所を確認することのできない洋上や、夜間における飛行では、太陽や星の見え方によって自機の位置を算出する「天測航法」に頼ることになります。なお、これは船でも使われていた方法で、飛行機ではコックピットに専門の航法士が乗り組み、取るべき針路をパイロットに助言していました。

やがて技術が進歩し、航法についても自動化が進みパイロットのみで対応できるようになったことで、専門職である航法士がコックピットに乗り組むことはなくなりました。現在ではGPSによる航法が主流となっており、星と人工衛星の違いはありますが、再び「上空から得られる情報」によって飛行する時代となっています。

これにともない、旅客機からアイブロウ・ウインドウが姿を消しました。

比較的新しい機体でも設置、なんで?

ボーイング737のように長期間にわたって生産が続いている機種の場合、1981年に生産が始まった第2世代にあたる-300/-400/-500の後期生産型、1997年より生産が始まった「ニュージェネレーション(NG)」と呼ばれる第3世代の-600/-700/-800/-900の初期生産分を除くモデル以降で、それぞれアイブロウ・ウインドウが設けられなくなっています。

ただ、旅客機からは姿を消したアイブロウ・ウインドウですが、軍用機にはまだ残っているようです。アメリカ空軍の機種でいうと、E-3早期警戒管制機やKC-135空中給油機、B-52爆撃機は製造年が古いため、見受けられます。一方、そこまで古くない機体、たとえば1991年に初飛行したC-17輸送機にも、アイブロウ・ウインドウが存在します。

詳細こそ不明ですが、考えられる可能性としては「空中給油」が挙げられます。アメリカ空軍が採用するフライングブーム式の空中給油では、給油機の斜め下方からブームの届く範囲へ接近しなければなりません。この時、給油機を確認するため斜め上方の視界を確保するのに、アイブロウ・ウインドウの存在は便利そうです。

とはいえ、空中給油の世界でも自動化の波は押し寄せてきており、将来的には自動で機体同士の間隔を調節可能となるような流れとなっています。軍用機の世界でも、徐々にアイブロウ・ウインドウのある機種はなくなっていくのかもしれません。

C-17輸送機のアイブロウ・ウインドウ(画像:アメリカ空軍)。