UFOや超古代文明などのテーマで愛されるオカルト月刊誌『ムー』が2024年で45周年を迎える。創刊のきっかけは、学研が発行していた『中学1年コース』などの「学年誌」。世界の七不思議など、時期を問わない「暇ネタ」が好評で、専門に扱う媒体をつくることになったという。

その『ムー』が同じく1979年創刊の『地球の歩き方』とコラボした旅行ガイドブック『地球の歩き方 ムーJAPAN:~神秘の国の歩き方~』がこのほど発売された。

かたや不思議・超常現象、かたや正確な情報を売りにする「バックパッカーのバイブル」。「水と油」、「混ぜるな危険」といった言葉も浮かぶが、いったい読者をどこへ連れていくつもりなのか。本当に大丈夫?

4月18日、都内で開かれた出版記念トークショーでは、『ムー』が長く愛される理由が随所ににじんだ。

●ムーが注意した法律問題

制作にあたり、『ムー』編集長の三上丈晴さんは「一線を引いた」という。

「『ムー』っていろんなものを扱っているんですけど、今回の本で心霊は扱っていないんです。事故物件だとか廃墟だとか、幽霊が出るところは不動産価値が下がるとか、下手したら不法侵入になってしまうような場所もある。

もちろん、(『ムー』本誌では)そういう企画も扱うんだけど、今回はそれはないっていうのがこだわり。やっぱりね、必ず行っちゃうんでね」(三上さん)

解説しよう。廃墟も基本的には誰かの所有物で、「立ち入り禁止」などの表示があることが多い。他人が管理する建造物に、管理権者の意思に反して立ち入ると建造物侵入罪(刑法130条)に問われる可能性がある。

仮に、建造物侵入罪に該当しなかったとしても、軽犯罪法1条1号違反に問われる可能性がある。

無理やり法律の話にこじつけたように思うかもしれない。しかし、心霊系YouTuberが法律を逆手にとって、肝試しで廃墟ホテルを訪れた男女4人に対して「不法侵入になる」などと金を振り込ませたとして、脅迫や弁護士法違反の疑いで逮捕される事件が2023年に起きているのだ。

●日本にもピラミッドがいっぱい

法律の話を無事に消化したので、ここからは思う存分『ムー』の話である。

実は『ムー』が『地球の歩き方』とコラボするのは今回が2回目となる。1回目は2022年で、『地球の歩き方』が事業譲渡で学研グループ入りしたことで実現。『地球の歩き方 ムー:~異世界の歩き方~』と題して、世界各地のピラミッドなど、不思議スポットを紹介した。

しかし、当時はコロナ禍。現地には行きづらいので読んで楽しむという側面が強かった。一方、今度の第2弾はコロナ禍もひと段落したうえに日本が舞台。『地球の歩き方』の新井邦弘社長は、「今回は『行ける魔界』」だとアピールする。

紹介するのは、国内の(やっぱり)ピラミッドなど不思議スポット。ピラミッドのように、三角形は宗教的なものと結びつくことが多い。国土の多くを山が占める日本では、その役割を山が果たすことがあったとされる。

「日本にはピラミッドがいっぱいあるんですよ。単なる山じゃねーかよってツッコミもあるかとは思うんですけど。ここには壮大なる超古代史と歴史とロマンの神秘があるわけです。ただの山じゃないんですよ、これが」(三上さん)

●『ムー』は「ノンフィクション誌」だった

地球の歩き方』的に「超古代史」や「神秘」は大丈夫なのだろうか。実は社長の新井さんは元『ムー』編集部員。一見すると正反対のようにみえる両誌だが、意外にも「同じ地平にある」という。

「『地球の歩き方』は、旅の人たちが間違えないよう、きちんとした情報を伝えないといけない。行ったことがないところから、きちんと安全に帰ってくるため、ファクトをきちんとチェックして、新しい情報になったら改訂版を出していく。

じゃあ『ムー』はファクトを使ってないのかっていうと違う。まやかしじゃないんですよね。エビデンスをきちんと載せている。創作でいきなり出てくる紛いもののお話は、ほぼほぼ出てこないんですよ」(新井さん)

新井さんが『ムー』編集部にいたとき、当時の編集長からは「『ムー』はまず事実を扱うんだ」と徹底的に叩き込まれたという。単に「不思議」なだけで、「ロジック」が破綻している原稿は「読者が納得しない」と突き返されたそうだ。

新井さんは、2誌とも「ノンフィクション誌なんです」と熱弁をふるう。事実(?)、第1弾コラボは2023年に日本最古のSFアワード『星雲賞』のノンフィクション部門を受賞している。

そんなこだわりへの伝統があるからか、『ムー』の三上さんは「いつもネタに困っている」と笑う。

「ひたむきにあやしく。人を見たら『ネタない?』。もうとにかくネタがないんだよ。創刊当時からネタがない(笑)。毎日UFO飛んでないんだから! 大変なんだよ!」(三上さん)

●『ムー』を支える「オカルトリテラシー」の高い読者たち

今回の『地球の歩き方 ムーJAPAN』を活用して、自治体と連携したツアーの計画もあるという。

「多分イベントに来る人たちは余裕を持って、こういうオカルトを楽しんでくれる。『UFOを集めましょう』っていっても、『UFOが来なかった』って怒る人いないじゃないですか(笑)。

地球の歩き方』も、みなさんオーロラを見に行きますけど、見られないこともありますよね」(新井さん)

オーロラというより、宇宙人がまるでイルカクジラのような扱いだ。しかし、そうした部分も楽しんでくれる「オカルトリテラシーの高い人たちが、『ムー』という媒体を読者として支えてくれている」と新井さんは話す。

学者にも「隠れキリシタン」ならぬ、「隠れ『ムー民』」は多いといい、東大の有名研究者に「人類はどれだけサイボーグになれるか」という企画を持ち込み、面白がられたこともあったそうだ。

後輩の三上さんも、「(取材の電話をかけるときは)最初『ムー』っていわないで、学習研究社、学研です。そういうと門前払いはないからね」と笑う。

ちなみに三上さんによると、読者の約4割が女性。そのうちの多くは主婦層が占めるという。

「業界的にいうと、『ムー』の表紙をみていだくとわかるんですが『赤文字系』(笑)」(三上さん)

母を通じて子どもが熱中し、三代で愛読といった広がりもみせているそうである。

「UFOは毎日飛んでないから!」 オカルト雑誌『ムー』、45周年を支える「ノンフィクション」へのこだわり