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 久しぶりにオフラインで開催された3月のJAWS DAYS 2024。1000人規模のオフラインイベントを成功させた背景にあったのはコロナ禍で培ってきたメンバー同士の関係性があったという。AWSジャパンのコミュニティプログラムマネージャーを務める沼口繁氏に、コロナ禍でのJAWS-UGの活動とJAWS DAYSの舞台裏について聞いた(インタビュアー ASCII編集部 大谷イビサ、以下、敬称略)

コロナ渦のJAWS-UGになにが起こったのか?

オオタニ:まずはコロナ禍でのJAWS-UGの活動について教えてください。勉強会は変わらずアクティブに開催されていた印象ですが。

沼口:勉強会そのものはものすごく活発でした。数字で言うと、オフライン中心の2019年は326回の勉強会を開催し、参加者は1万6744人でした。その後2020年にコロナ禍に突入し、勉強会の回数は208回に落ちるのですが、人数は1万8000超え、2021年は回数も回復して375回、参加者も2万6000人を超えました。だから、勉強会と参加人数はコロナ禍で増えたんです。

ただ、これにはからくりがあります。これは2020年にライターの重森さんが指摘していた通りなのですが、地方は軒並み勉強会がなくなり、地方のエンジニアはオンライン開催されている都内の専門支部の勉強会に参加するようになったんです(関連記事:イベントオンライン化の功罪と、この先について語ろう)。

オオタニ:専門支部というのは機械学習とか、コンテナとか、テーマ特化型の支部ですね。

沼口:コロナ禍で実は支部も増えており、若手のメンバーがCDK支部とか、SRE支部とか立ち上げています。こうした専門支部はテーマがはっきりしているので参加しやすい。もちろん、「これはセミナーだ」とか、「コミュニティとは違う」という意見は一部の方からいただくのですが、今まで東京に行かないと聴講できなかった専門性の高い勉強会に、地方のエンジニアが地元から参加できるようになったのは事実なんです。

一方、JAWS-UGの地方支部って、テーマをしぼらずにいろいろお話ししたり、人同士のネットワーキングを重要視します。ここがまさに面白みです。でも、オンラインでテーマなしに集まってしゃべるというのはなかなか難しくて、地方支部の方々も最初はオンラインにチャレンジするんですけど、今までかけ離れ過ぎて、やらなくなってしまうんです。

オオタニ:地方は広いので、集まるのも大変ですしね。

沼口:これは私個人の意見なのですが、JAWS-UGの優れたところは、各支部が高い独立性を持って運営しているところ。逆に言うと、他の支部活動をなかなか知る機会がない。でも、コロナ禍でオンライン化が進んだおかげで、地方支部でも専門支部の人たちとつながれるようになったわけです。

オオタニ:私が見る限り、JAWS-UGって全国イベントが年に2~3回あるので、他のコミュニティに比べても、横の支部活動はまだ見えやすい方だと思いますけどね。

沼口:確かに運営側のメンバーに関しては、お互い知っている状況はあります。でも、参加者同士は難しかった。もともと地方の支部って、リーダーとなるベテランと、若手で世代間ギャップが生まれてしまうことがあったのですが、コロナで交流がますます希薄になり、それが加速してしまった。一方で、オンライン化のおかげで、都内の勉強会には参加しやすくなったというメリットも生まれたわけです。

コロナ禍だからこそ生まれた新しいタイプのAWS SAMURAI

オオタニ:コロナ禍でありながら、新たに活躍したコミュニティメンバーも多かったみたいですね。

沼口:たとえば、今回AWS SAMURAIにもなった札幌の小倉大さんは45ヶ月連続で勉強会を開催してくれました。コロナ禍で夜に出歩けなくなったという声を受け、朝会をずっと続けていて、100人近くが申し込んでくれます。

オオタニ:コロナ禍前にありませんでしたっけ?

沼口:小倉さんがコロナ禍にリブートをかけてくれたんです。参加者の声を受けてできた朝会って、ある意味すごくJAWSっぽいなあと思います。

逆に東京支部の御田 稔(ミノルン)さんはランチLT会を運営してくれています。朝会にしろ、ランチ会にしろ、勉強会のバリエーションが増えたと言えるかもしれません。

オオタニ:オンライン化で場所の差がなくなったので、時刻でスライスするようになったのかもしれませんね。

沼口:コロナ禍になっても勉強会が下火にならなかったのは、やはり都内に専門支部という受け皿ができていたことがあります。あと、2019年頃にはすでに専門支部の勉強会がオーバーキャパシティになっていて、オンラインとオフラインのハイブリッドを実現していたことです。「入れない方はオンラインで見てくださいね」というイベントの実績があったので、コロナ禍になってもスムーズにオンラインに移行できたました。

オオタニ:コロナ禍になって改めてスイッチャーを購入したわけではないと(笑)。

沼口:配信機材の強化はやりましたけどね(笑)。

一方で、オフラインの重要性もJAWSのみなさんはすごく理解しています。だから、今回のJAWS DAYSはオンラインで構築した人同士の関係性で、オフラインのイベントを実現できたんです。だから、会場のあちこちで聞かれた挨拶は「オンラインではいつもお世話になってましたが、対面では初めてですね」でしたよね。オンライン前提だったから関係性が断絶したのではなく、オンラインでさまざまな人と関係性を構築し、この半年くらいでオフラインのJAWS DAYSを復活させたわけです。

オオタニ:久しぶりのオフラインイベントだったので、苦労したんじゃないですか?

沼口:そうですねえ。JAWS-UGって1000人規模のオフラインイベントのノウハウはけっこう溜めていたはずなのに、忘れていることも多かった(笑)。実行委員長の早川愛さんやJAWS FESTA九州をリードした阿部拓海さんが、オフラインイベントの運営が初めてというメンバーを引っ張って、今回のJAWS DAYSを実現していました。そういう意味でもJAWS DAYSのメンバーはすごいです。

1000人規模のイベントを実現したJAWS DAYSのチームビルディング

オオタニ:会場も池袋サンシャインでしたしね。

前回までやっていた五反田のTOCメッセは、コロナ禍の中、会場自体が閉鎖になりました。だから、会場探しもイチからでしたし、ハコも慣れてない。ハコに慣れてないと、イベントのイメージが付かないですよね。オフラインのイベントって、正直言ってオンラインに比べて10倍以上の労力がかかります。

オオタニ:なるほど。オフラインの方が大変なのは理解していましたが、3倍じゃなく、10倍以上なんですね。

沼口:はい。なぜかというと、やはりノベルティや機材などを物理的に搬送する必要があるからです。搬送を考えると1ヶ月くらい前には手配スケジュールが必要で、その前には当然メンバー同士の話をまとめる必要があります。去年の10月くらいから半年かけて準備していたのですが、プロジェクト管理がオンラインに比べてはるかに大変で、私自身も「こんなに大変だったっけ?」と思いました(笑)

あと、今回はスポンサーとの調整も気を遣った部分です。スポンサーもオフラインイベントが久しぶりなので勝手がわからない。だから、時間をかけながら、丁寧にやっていました。

オオタニ:外部のイベント会社に丸投げというわけではないので、ユーザー自身がやるわけですからね。

沼口:コミュニティイベントなので、実行委員のメンバーは昼間に仕事をして、夜の個人の時間を使って、いろいろ作業や調整を行なうわけですよ。だから、苦労は多いと思います。

でも、JAWS-UGの強いところって、JAWS DAYSやJAWS FESTAというイベントを通して、メンバーがチームビルディングしていくところです。単に苦労しているだけじゃない。いろいろな支部が集まって、それぞれタスクフォースを作っているので、支部同士の垣根を越えたネットワークが生まれています。だから、横から見ている限り、この苦労はJAWS-UGにとってはプラス。これは毎年同じ感想です。

オオタニ:当日は、社長退任発表直後の長崎忠雄さんも登壇して、盛り上がりましたね。

沼口:長崎さんは長らくJAWS-UGに理解と支援をくださっていて、確か長崎さん自身もAWSジャパン入社後、初めての公の場もJAWS-UGだったという話を聞きました。JAWS DAYSにも毎年のようにビデオメッセージをくれました。

そのノリで今回もお願いしていたのですが、結果的に社長退任発表後になったという流れです。社内での調整も効を奏して、会場に足を運んでくれました。

カオスのような懇親会も復活 熱量の高さはオフラインでこそ伝わった

オオタニ:さて、JAWS DAYS 2024が終わってすでに時間も経ってしまいましたが、改めて沼口さんの感想をいただけますかね。

沼口:まず参加者の熱量を感じるという意味では、オフラインにまさるものはないなと感じました。コロナ禍、JAWS-UGもオンラインやハイブリッドの施策を試しましたが、結局オフラインは超えられなかったと思います。

実は今回のJAWS DAYSって、コロナ禍前に比べて規模は半分なんです。五反田TOCのキャパシティが2000人だったのに対して、今回の池袋サンシャインは1000人。だから、会場には半分しか入れません。でも「五反田のときに比べて、盛り上がらなかった」という声はまったく出ませんでした。熱量高くて、楽しかった、来てよかったという声をいただいたので、やっぱりオフラインというのが最初の感想ですね。

オオタニ:記事のタイトルにも付けたので、その感想は私も同じですね(関連記事:5年ぶりにリアル開催したJAWS DAYS 出会いを取り戻した祝祭だった)。

沼口:一方で、コロナ渦にやったオンラインの試行錯誤も無駄じゃなかったなあというのが2つ目の感想ですね。きちんとしたプログラムがあるわけでもなく、だだっ広い会場でひたすらみんなで歓談するというカオスのような懇親会も、オンラインで培った関係性があったからあれだけ盛り上がったんだと思います。

オオタニ:だだっ広い会場で体育座りして飲むという、あのカオスな懇親会は、五反田TOCや西新宿ベルサールを思い出しますよね。

沼口:あと3つ目ですが、これは複数の方に言われた感想なのですが、セッションの多様性ですね。今回、「Leap Beyond」というテーマを掲げ、壁を越えるという点を意識した結果、テクノロジー観点のみならず、地方コミュニティの話やエンジニアのキャリア、子育てとの両立みたいな話まで多彩なセッションがお届けできたと思います。

オオタニ:トラック数も多かったし、聞けなかったセッションはけっこうありました。

沼口:こういうセッションが聞きたいというオーナーのリクエストに対して、きちんとCFPの応募に応えた内容が来たから実現できました。これはJAWS-UGの本当にすごいところです。

あと、今回は実行委員長の早川さんも女性ですし、実行委員や登壇メンバーも女性が多かった。多様性という観点でコミュニティがきちんと向かうべき方向に進んでいるなという感想はありますね。

初の池袋サンシャイン開催 年末にはJAWS FESTAが広島で開催

オオタニ:みなさんからの反応はいかがですか?

沼口:アンケート結果の詳細はnote(JAWS DAYS 2024 のアンケート結果公開!)を読んでもらえればありがたいのですが、4割近くがJAWS-UGのイベント初参加で、20代の参加者が倍増しているという点が顕著な特徴かと思います。

感想としては、やはりオフラインがよかったというのが圧倒的。あとスポンサー担当からも直接ユーザーと話せて熱量を感じたという声をもらっています。長机1つのブースだったけど、とても濃いコミュニケーションができたと。スタンプラリーがうまく機能したので、参加者がうまく回遊してくれたようです。

オオタニ:豊島区民としては、会場の池袋はどうでしたか?というのはお聞きしたいところです。

沼口:五反田TOCは広かったですが、駅前に行かないとあまりお店もありませんでした。それに対して、池袋は会場出た段階で飲食店もいろいろありました。

オオタニ:そりゃ、われら豊島区民が誇るサンシャインシティですからね。

沼口:オオタニさんの池袋のオススメ投稿はけっこう重宝がられていたらしいですよ(笑)。

ただ、キャパシティが不足していたのも事実。登録人数が1000人を超えて、3月1日時点で200人以上はキャンセル待ちになってしまったので、そこは来年に向けての課題です。

オオタニ:今後の予定を教えてください。

沼口:今年はオリンピックイヤーなので、夏くらいにPankrationをやる予定です。24時間ぶっ通しのオンラインイベントですね。

オオタニ:取材するの大変なヤツですね(笑)。

沼口:いずれにせよ、ユーザー主導でどんどん進めてくれますね。サービスも増えていて、参加者が聞きたい内容もスペシフィックになっているので、さまざまな登壇依頼が来ますね。

オオタニ:あと、JAWS DAYSで発表されましたが、今年はJAWS FESTAが広島なんですよね。

沼口:はい。冒頭で話したとおり、コロナ渦でJAWS-UGの地方勉強会は少なくなったのですが、代わりに若い人が増えてきました。リモートワークできる会社が増えたおかげで、移住やUターンが増え、地方のJAWS-UGに来てくれるようになったんです。金沢や佐賀がいい例ですね。

一方で、自治体もDXを進める流れで、こうしたコミュニティ活動に理解を示すようになり、自治体のメルマガや地方広報に勉強会が載せられるようになりました。なので、今回のJAWS FESTAも自治体や地域の団体との連携を深めていく流れになります。

オオタニ:広島県ユニコーン創成プログラムもやってますし、自治体とも連携しやすいかもしれませんね。期待しております!
 

オフラインでのJAWS DAYSの成功は、オンラインで構築した関係があったから