●人間性を排除するような芝居を
仮面ライダー剣』は、2004年1月25日から2005年1月23日まで、テレビ朝日系で全49話を放送した連続テレビドラマである。

本作では、4人の仮面ライダーのデザインや、変身・戦闘に用いられるアイテムに「トランプ」カードが採用され、極めてスタイリッシュなキャラクターが生み出された。仮面ライダーブレイドスペード仮面ライダーギャレンダイヤ仮面ライダーレンゲルはクローバー、そして仮面ライダーカリスはハートの意匠がマスクやボディ、変身ベルトのバックルにあしらわれている。彼らは、古代の封印からよみがえった不死生物「アンデッド」の力を用いて仮面ライダーに変身し、すべてのアンデッドをふたたびラウズカードに封印するため、激しい戦いを繰り広げる。

本稿では『仮面ライダー剣』放送開始20周年を記念し、仮面ライダーカリス/相川始を熱演した森本亮治にインタビューを実施した。

○人間性を排除するような芝居を

他者を寄せ付けないクールさと、闘争心をむき出しにした荒々しさを持ち合わせるカリス=相川始の正体は、53番目のアンデッドジョーカーと呼ばれる存在。しかし、ブレイドの変身者である剣崎一真や、喫茶店ハカランダの栗原母娘(遥香・天音)たちと接するうち、始は次第に人間らしい心を宿すようになっていく。精悍な青年の姿をしていながら「実は人間ではない」という始の複雑な人物像を演じるにあたっての心構えや、20年という歳月を経てもなお多くの人々から愛され続ける『仮面ライダー剣』の作品的魅力について、大いに語っていただいた。

――『仮面ライダー剣』にカリス/相川始役でレギュラー出演が決まったとき、率直にどんなご感想を抱かれましたか?

それはもう嬉しかったです。最初「ハートの仮面ライダー」と聞いて驚きましたけど、カリスのデザインを見て「おおっ、カッコいい!」と思いましたね。ハートというと、かわいいイメージがありますから、ハートであそこまでカッコよくなるのか、とうなりましたね。『仮面ライダー剣』のライダー4人がトランプモチーフというのは、すごくよかったと思います。子どもから大人まで、トランプは日常的に存在するものですから、親しみやすかったかなって。

――始を演じるにあたって、特に心がけていたことは何ですか。

始は人間じゃないということが最初からわかっていたので、人間性を排除するような芝居をしようと決めました。具体的には「まばたきをしない」こと。人間の表情を作る上で、まばたきというのは重要ですから、これを無くすよう心がけました。でも、めっちゃドライアイ気味なので、とにかく撮影中は目が乾いてしまってキツかったですね。自分の顔がアップになるシーンでは、特にまばたきに注意していたつもりだったのに、オンエアを観て「うわ、ここでまばたきしてもうた!」なんて気づいてショックを受けたこともたびたびありました。カードを持った始の顔にカメラがグーッとズームしてきて、いざ「変身!」となったとき、パチッと(笑)。そんなこともありましたけど、人間的感情をことさら表に出さないキャラクター像を意識しました。

――非人間的なたたずまいを備えながらも、オートバイに乗ったりカメラを使いこなしたり、ふと見せる人間味も始の魅力でしたね。

オートバイに乗って道路を走るのはスタントの方で、僕はシートにまたがるまでの芝居をしているんですけど、似たような体型の方が演じられているので違和感がなかったですよね。バイクに乗りながら変身するシーンでは、トラックにロープでつないでもらって、引っ張りながら撮影していました。スピードがそんなに出ていないので怖くはなかったですね。カメラに関しては、あのころ趣味で一眼レフを持ってよく撮影をしていましたから、カメラマン的な仕草の雰囲気がつかみやすかったです。

――複雑な成立過程を持つ始=ジョーカーの役柄について、ご自身で背景を考えられたりしたのでしょうか。

自分が演じる役ですから、設定に関してはいろいろ思いをめぐらせました。結局、仮面ライダーカリスとはどういう存在なのか、ヒューマンアンデッドが1万年前のバトルファイトでどうやって最後まで勝ち残ったのか、わりと謎のまま残ったことが多いですし、あのころからずーっと疑問に思っています。ファンの方たちも、ヒューマンアンデッド勝利の謎と、第1話ギャレン=橘がブレイドのことを「なぜ見ているのか」は気になっていると思います。なんで見てるんやろうって(笑)。

●出来ることなら、ずっと相川始を演じていたかった
○出来ることなら、ずっと相川始を演じていたかった

――『仮面ライダー剣』の演出を手がけられた監督たちの思い出を聞かせてください。

監督のみなさんにはいろいろと鍛えていただきました。中でも印象に残っているのはメイン監督を務められた石田秀範監督。劇場版の撮影のとき、カリスが復活して天音ちゃんを助けに行くシーンのとき、突然石田監督が僕に「森本―っ! 何やっとんじゃー!」って叱られました。人間20歳を越えて、なかなか大きな声で叱ってもらえる機会はありませんからね。そのとき、ハッと我にかえって、そうだ、せっかく始が封印から甦ったのだから、つもる思いをセリフに乗せなければならないんだと気づき、芝居のやり直しをしました。石田監督としても、ここは始の見せ場なんだとちゃんとわかってくださっていて、気をひきしめてくださったのかもしれない。ふだんはとても優しく、愛情深い方ですから、余計に演出の際の厳しい姿勢が強く心に残りました。

大ベテランの長石多可男監督にも、いろいろ思い出話がありますよ。あるとき長石監督が僕に「始は人間じゃねえから、靴は左右反対に履くんだ」と言うので、言われたとおり左右反対に履いていたら足が痛くなってきて「監督、足が痛いんでもう元に戻していいんですか?」と訊いたら「いいよ!」って(笑)。あれは何だったんだろうと思いますけど、そんなおちゃめなエピソードが長石監督にはいくつもありました。僕にとっては「癒し系」の監督でした。

――夏の放送となった第29、30話では、始そっくりの顔かたちを備える青年・三上了が、始と入れ替わったことによる騒動を描いたコミカルタッチのストーリーでした。クールな始と対照的に、とても調子のいい了を演じられたご感想はいかがでしたか。

関西出身ですし、お笑いのノリは大好きなものですから、ああいった了のコミカルな芝居はやっていて楽しかったですね。寡黙な始に対し、お調子者の了はずっと喋っている。一人二役ではありましたが、テンションが真逆でしたし、演じるのは難しくなかったです。まあ、出番が倍になったのはたいへんでしたけどね。他のみんながちょうど劇場版を撮影している間、僕はテレビのこの話を撮っていたんです。だから劇場版では始の出番が少ない。にもかかわらず目立つシーンばかりなので、おいしかったですね(笑)。

――20年前『仮面ライダー剣』が大勢のファンの間で話題となっている状況を、直接目にしたことはありましたか。

当時はまだSNSがなかったものの、ファンの方々が作られたホームページやWeb掲示板などには放送直後から感想が書きこまれていました。それを見させていただいて、仮面ライダーの人気ってすごいなあと実感しましたね。当時は外を歩いているときもよく声をかけていただきました。どちらかといえば東京よりも、地方のほうが気づいてもらえることが多かったかな? 特に地元・大阪では、芸能人に対する距離感がほとんどゼロに近いので、いきなり「イエーイ!」ってノリで接してくるからすごいです。大阪のおばちゃんは昔も今も「アメちゃんあげよ」ってふつうに飴をくれますし(笑)。

――当時、映画のキャンペーンなどで小さなお子さんもたくさんいらしていたと思います。カリスが子どもたちに愛されていたと感じる瞬間があれば教えてください。

どうだったんでしょうね? ブレイド=剣崎みたいなキャラだと、子どもたちに親しまれると思うんですけど、ちょっと斜に構えたカリスは、子ども目線だと怖く思われていたんじゃないでしょうか。最初はブレイドにも攻撃していましたし、敵だと認識されていたかも……。

――いや~、劇中で天音に向ける優しい笑顔を観る限り、始が怖がられる心配はなかったと思います。

始が優しい顔つきになるのは、天音ちゃんとか遥香さんとか、限られた人にだけですからね。他の人には常に冷たい態度。ツンデレ野郎ですね(笑)。

――森本さんは第31~44話で劇中使用された挿入歌「take it a try」を歌われました。もともと歌はお得意だったのでしょうか。

歌が好きだったので、当時の所属事務所に「歌いたいです」と進言したことがきっかけになり、『仮面ライダー』の挿入歌を歌うことが叶いました。

――『仮面ライダー剣』の撮影がいよいよ終わりを迎えたとき、森本さんの胸にどのような感情がわきあがりましたか。

何しろ1年間もやってきましたから、終わって寂しいという気持ちが大きかったですね。出来ることなら、ずっと相川始を演じていたかった……。キャストのみんなともずっと一緒で、家族みたいな関係だったので、余計に離れるのが辛かった。だからこそ、いまだにみんな仲がいいですし、たまに会えばめっちゃ盛り上がります。

――2019年に放送された『仮面ライダージオウ』EP29、30では、オリジナル『仮面ライダー剣』最終回の「その後」を想起させる 剣崎と始、そして天音がオリジナルキャストで登場し、『剣』ファンを歓喜させましたね。

歴代仮面ライダーの俳優がゲストで登場する『ジオウ』のことは放送開始のころから知っていたので、もしかしたら僕らにも依頼が来るんじゃないかと期待はしていたんです。台本をいただいて出演してみると、ストーリーが『仮面ライダー剣』とつながっていて、しっかりしたお話を作ってもらえたのが嬉しかったですね。成長した天音ちゃんと現場で再会することができたのも、嬉しい出来事でした。

――仮面ライダーカリス/相川始を今もずっと応援しているファンの方にお会いする機会はありますか。

僕は現在、地元・大阪でアクションレッスンを行っているんですけど、放送当時生まれていなかった小学生や中学生の子どもたちが『仮面ライダー剣』を観て、カリスのファンだと言ってくれたりして、ありがたいなって思いますね。親子で仮面ライダーが大好きだという人もいるし、ファン層の幅広さに驚いています。世代を超えて『仮面ライダー剣』、仮面ライダーカリス相川始が愛されているというのは、とても幸せなことだと思います。
(秋田英夫)

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