日刊SPA!で反響の大きかった2023年の記事をジャンル別に発表してきたが、今回は総合トップ10。初回とランキング発表時の反響をあわせて集計、本当にスゴかった記事を発表する。第4位はこちら!(集計期間は2023年1月~2024年3月。初公開2023年7月15日 記事は取材時の状況)
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 新型コロナウイルスが5類感染症扱いとなり、街の飲食店では一昔前の賑わいを取り戻している。そんななか、都心の飲食店は「ネズミの大量発生問題」に直面しているようだ。

 飲食店におけるネズミ発生問題は、以前から頭を悩ませていた店も多いだろう。かつては世間的に明るみにならなかった店も、ネズミの大群がゴミを漁っている動画がSNSに投稿されたり、バイトによる裏側を暴露する投稿などにより、決して人ごとではない事態に陥っている。

 今回お話を聞いたAさんも、以前アルバイトしていた飲食店でネズミが大量発生し悪戦苦闘した経験があるという。ただ、そこには単にネズミとの戦いだけでなくお店との攻防もあったそうだ。

◆朝は捕獲したネズミの処分から始まる

 Aさんが5年ほど前にアルバイトとして働いていたのは、さまざまな食材をバイキング形式で楽しめる某飲食店。繁華街にあるお店ではなく、郊外にある駐車場が完備された店だった。

 あるときから、お米や小麦粉の袋がカジられ中身が食べられているなど、あきらかにネズミが存在している形跡が見られるようになり、対策を講じることになったという。

「当時の店長が、責任を問われるのが嫌だったのか、上司であるエリアマネージャーには報告せず、独断でネズミを捕獲する罠を購入してバックヤードに設置したんです。罠を仕掛けるようになってから、朝出勤するとほぼ毎日のようにネズミが引っかかっているので、捕獲されたネズミを処分することから一日が始まっていました。『嚙まれたりでもしたら死に至る危険性がある』という話があったので、絶対に素手で触らないように気をつけながら、袋に水を溜めて罠ごとそこに突っ込んで溺死させます。害獣とはいえ、ちょっと残酷ですよね。ギリギリ息をしているくらいのネズミならまだしも、捕まったばかりで元気いっぱいに威嚇してくるようなネズミもいたんで……。朝からこの作業は正直メンタルやられました」

◆状況は悪化するも一向に動かない店長

 飲食店で働いているのに、朝はネズミの駆除から始まる一日。毎朝のように駆除しているにもかかわらず、罠にかかるネズミは日に日に増えていったようだ。さらに、捕まる前のネズミを直接目撃することも多くなってきたという。

「それからしばらくすると、営業中のバックヤードでネズミの鳴き声とか走っている音が聞こえたり、以前よりもヒドくなってきて……。ただ、この時点ではまだお客さんがいるフロアには出てきてなかったんですが、お客さんに目撃されるのも時間の問題だろうと思っていたんです。そこで店長に、『そろそろ本格的に専門業者を呼んで対策した方がいいのでは?』と言ったのですが一切取り合ってくれませんでした」

◆ついに恐れていたことが起こってしまう

 ネズミがいることを本社に知られると、責任問題になって自分の立場が危うくなるからか、部下の提案に一切耳を傾けない店長。しかし、状況はさらに悪化し、Aさんが感じていた危機感が最高潮に達する出来事が起こったのだ。

「ある日、オープン前にお客さんが入るフロアの床清掃をしていたら、ちょっとした水溜まりができていました。少し時間が経てば乾くので問題ないですが、その後フト気づいたら、その水溜まりでネズミが洗顔みたいなことをしてるんですよ。一瞬、ちょっと可愛いなって思っちゃいましたけど(笑)。でも、そんなこと言ってる場合ではないので、そーっと近づいて上からバケツを被せて閉じ込め、隙間からネズミを駆除する薬剤を吹きかけて処分しました」

 それまでは罠にかかったネズミしか見ていなかったが、いくらオープン前とはいえ、お客さんの目につくところにネズミが現れたことで「いよいよヤバいだろうと、急激に不安になったことをハッキリと覚えています」とA氏は語った。

◆トリッキーな行動に出たAさん

 もはや、営業中の客席フロアにいつネズミが現れてもおかしくない状況。もし、お客さんに目撃されて保健所に連絡でもされたら営業停止なんてことにもなりかねない。そんな不安を感じたAさんは意外な行動に出た。

「あまりにも店長が動いてくれないので、お客さんのフリをして本社にクレームを入れたんですよ。お客さんの声を集めているメールフォームに『近所に住んでいる者ですが、裏口から店内にネズミが入っていくところを何度も目撃したんですけど、飲食店でネズミがいるお店って大丈夫ですか?』って感じのメッセージを送りました。それで何も気にせずに翌日出勤したら、バイトの自分は会ったことのない社員が数人と、ネズミ駆除業者の人がお店に来てて、やっと本格的に動き出したんです」

◆クレームを装った内部通報で改善

 お客さんのフリをした店員からのクレームが入ったことでネズミが住みついている事実が本社に伝わり、ようやく業者が入った。それにより、明らかな変化があったという。

「その後、ネズミは少なくなりました。ゼロではなかったですが、明らかに減ったので『もっと早く業者を呼べばよかったのに!』って思いましたね。お客さんを装うという、ちょっと嘘をついているようなやり方ではあったけど、結果的に本物のお客さんからのクレームがくる前に対策させることができたので、自分としては間違った行動だったとは思っていません。最近はバイトが厨房の様子を撮影してSNSに投稿し、炎上して株価がとんでもないことになる……みたいなこともありますが、それを考えると“クレームを装った内部通報”はまともな行動といえるのではないでしょうか」

◆自分の身を守るためにも行動する必要がある

 一般的に、会社の不正や問題点を指摘するために従業員が行う「内部通報」は正当な行為とされている。上場企業においては東京証券取引所から内部通報の体制整備が義務付けられているほどだ(アメリカでは内部通報に対して報奨金が支払われた例もある)。

 ただ、日本人の気質として内部通報を「告げ口」と捉え、ネガティブなイメージを持つ人が少なからずいるのも事実。そう考えると、今回Aさんが取った行動は誰に対しても角が立たないベストな判断だったのかもしれない。

 また、ネズミが住みついている店は、食中毒のリスクが高まるだけでなく、コードをかじられることによる火事のリスクもあるという。自分の身を守るためにも、アルバイトが“バイトテロにならない程度に動く”ことは、正しい選択肢の一つといえるのではないだろうか。

文/サ行桜井

【サ行桜井】
パチンコ雑誌『パチンコ必勝ガイド』『パチンコオリジナル実戦術』の元編集者。四半世紀ほど勤めた会社を退社しフリーランスに。現在は主にパチンコや競輪の記事を執筆している。

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